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腋窩郭清・照射ともに省略し得る可能性も

センチネルリンパ節転移陽性乳がんへの新しい治療対応

監修●長嶋 健 千葉大学臓器制御外科学講座診療教授/附属病院乳腺・甲状腺外科科長/ブレストセンター長
取材・文●伊波達也
発行:2017年9月
更新:2017年9月

  

「リンパ節郭清や放射線照射を省略するためには、術後化学内分泌療法をきちんと受けていただくことが大前提です」と語る長嶋さん

原発性乳がんに対するセンチネルリンパ節生検において、海外の臨床試験でリンパ節転移陽性でも必ずしも腋窩(えきか)リンパ節郭清の有効性が証明されず、リンパ節転移陽性症例の腋窩郭清省略に向けた検討がされ始めている。しかし、これらの報告においては全例に放射線照射が関与している。

千葉大学では、センチネルリンパ節転移陽性乳がんにおいて、腋窩郭清と腋窩照射の両者をともに省略し得る可能性について、自験例を用いてレトロスペクティブ(後方視的)に検証を行っている。それによると、センチネルリンパ節に転移を有する症例において、非照射であってもリンパ節再発率が上昇しないことから、本邦女性における乳房接線照射の腋窩再発抑止効果は明らかとは言えず、症例を選択すれば腋窩郭清のみならず放射線照射も省略し得ると考えられるという。研究内容について、専門医にうかがった。

低侵襲治療によるQOLの維持

治療の選択肢の多彩さと低侵襲治療による患者のQOL(生活の質)の維持は、近年、がん治療における重要な要因だが、乳がんの治療においてはとくにこの2つの達成度は高いと言える。

原発性乳がんの手術においては、がんの大きさや発症部位、再発リスクなどを考慮するが、その際、かつては病巣とその周辺部の切除以外に、再発リスクを回避するために、腋窩(えきか:脇の下)リンパ節への転移の有無に関わらず、腋窩リンパ節を広く切除するリンパ節郭清(かくせい)が行われていた。しかし、リンパ節郭清により、その後遺症としてリンパ浮腫に見舞われる。リンパ浮腫は、リンパ節郭清がもたらすリンパ液の停滞により生じる腕の腫れで、重症の場合には、腕の太さが通常の2倍以上になってしまうようなこともある。

センチネルリンパ節生検の意義、位置づけ

そのような後遺症を回避するために、不必要なリンパ節郭清を省略するべきだという考え方から実施されるようになったのがセンチネルリンパ節生検だ。〝見張り番〟を意味するセンチネルリンパ節には、関所のように最初にがん細胞が到達するため、ここを検証して転移が認められなければ、おそらくリンパ節への転移はないと考え、リンパ節郭清を省略するのだ。

がんを治療するための戦略を立てる上での情報を得る重要な検査と言うことができる。

「情報を早めにとっておくことによって、早めに術後の治療に入れるというメリットもあります。その意味では、乳がんのサブタイプの検証とともに、センチネルリンパ節生検による転移状況の把握は、乳がん治療をアシストしてくれる大切な情報ということができます」

そう説明するのは、千葉大学医学部附属病院ブレストセンター長の長嶋健さんだ。「当科では1999年12月にセンチネルリンパ節生検を始めました。センチネルリンパ生検の前に細胞診によってリンパ節を調べ、ふるい分けをした上で、術中にセンチネルリンパ節生検を行っていました。短軸方向(図)に2mm切片にする方法で行うことによって見落としは、1999年から2003年までの症例では4%程度だったということを当時報告しました」

補助化学療法を受ければリンパ節転移陽性でも再発しない

長嶋さんらが検証した182例のうちセンチネルリンパ節生検で陰性となり郭清を省略した148例は、永久標本によるその後の追跡で142例はそのまま陰性で、6例については陽性だった(表1)。

「しかし、この6例中再発した方は結局1例で、この方は術後の補助化学療法を受けていない方でした。そのためこの結果は、補助化学療法を受ければリンパ節転移陽性でも再発しないのではないかという考え方の発端になりました」

同時期の2004年当時、海外の報告では、センチネルリンパ節で微小(マイクロ)転移があった場合、それより遠隔のリンパ節への転移は10~15%であったため、この報告は、転移は微小でも郭清すべきという考え方の根拠となっていた。

「その後、2012年には、微小転移があった場合に郭清せずにフォローアップしたときの再発率が0.7~3.3%というデータも出てきた。そこで10~15%の転移が残っているかもしれない人たちのすべてが再発するわけではないという解釈が生まれ、陽性であっても郭清を省略してもいいのではないかという考え方が生まれました」(長嶋さん)

そしてその根拠となったグローバルな臨床試験が3つあるという(表2)。

根拠となった3つのグローバルな臨床試験

1つ目は『IBCSG 23-01』という試験だ。これは2mm以下の微小転移の症例だけを集めて郭清群と省略してフォローアップする群において、5年後再発率と5年後生存率を比較した試験で、両者に差が出なかった。

2つ目は『ACOSOG Z0011』という試験だ。これは乳房を温存した治療のみを検証したもので微小転移以外も含まれた症例を郭清群と省略フォローアップ群で比較したものだ。これも両者で差が出なかった。

3つ目は『EORTC AMAROS』という試験だ。これは術式を問わず転移の大きさも問わないで郭清群と放射線照射群を比較したら両者で差が出なかったというものだ。

そして、これらの試験結果などを踏まえて、2014年4月に改訂された日本乳癌学会の『乳癌診療ガイドライン』でも、センチネルリンパ節生検において、2mm以下の微小転移ではリンパ節郭清省略(推奨グレードB)、2.1mm以上のマクロ転移でも適切な基準に基づいて症例ごとに慎重に検討すれば同様に郭清省略をしても良い(推奨グレードC1)ということになった。

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