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インプラント再建でリンパ腫に続き扁平上皮がんも! 脂肪幹細胞培養による脂肪注入で安心な乳房再建を目指す

監修●佐武利彦 富山大学医学部形成再建外科・美容外科教授
取材・文●菊池亜希子
発行:2022年12月
更新:2022年12月

  

「インプラント再建では、たとえ不調がなくとも、1年に1度は超音波検査を受け、2年に1度は必ずMRIでの細かい確認を続けましょう。10年を過ぎてからこそチェックを怠らないでほしいのです」と話す佐武利彦さん

日本における乳房再建の歴史は比較的浅い。2006年に穿通枝皮弁、節皮弁などの自家組織による再建法が保険適用となったことで本格的に普及し始め、2013~2014年にインプラント法が保険適用されて以降は、人工物が乳房再建の主流になりました。そして2019年、インプラントを原因とする新たな疾患を機に、再び安全性への意識が高まり、自家組織再建へのニーズが高まっています。

そんな中、2012年に登場したのが患者自身の脂肪を使った脂肪注入による乳房再建です。2019年には脂肪幹細胞の培養という再生医療の手法が実現し、その精度を高めています。乳房再建をめぐる現在の状況と最新治療法について、富山大学医学部形成再建外科・美容外科教授の佐武利彦さんに話を聞きました。

インプラント法に再び注意喚起!

早期乳がんに対する乳房温存療法が始まって20余年、温存術によって変形した切除部に乳房内の乳腺組織や乳房外から脂肪や皮膚などを移動させて自然な形態に整える形で始まった穿通枝皮弁(せんつうしひべん)法による乳房再建は、温存後の部分再建だけでなく、全摘後の全再建にも用いられるようになりました。その後、新たに、乳房全摘後に人工物(シリコンインプラント)を挿入するインプラント法が2013年に保険適用され、人工物による再建が主流になっていきました。

その状況に変化が起きたのが2019年。

乳房に挿入する一部のシリコンインプラントが原因の「ブレストインプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)」という疾患が報告されたのです。

原因となるマクロテクスチャード(表面がザラザラのタイプ)のシリコンは世界的にリコールされ、以降、疾患の原因になりにくい表面がツルツルしたタイプのシリコンがインプラント法に用いられています。

「実は先月(2022年10月)、インプラントを入れた患者さんに新たな扁平上皮がん(ブレストインプラント関連扁平上皮がん:BIA-SCC)が発生したことがアメリカの形成外科学会から報告されました。2019年にリンパ腫、今回は扁平上皮がんと、再びインプラント法に注意喚起がなされたわけです」と富山大学医学部形成再建外科・美容外科教授の佐武利彦さんは語ります。

2019年に明らかになったBIA-ALCLは世界で1,227例、日本では4例が報告されています。先月発表されたBIA-SCCは今のところ世界で16例とのこと。どちらも少数のため注意喚起に留まるようですが、今後、どのような注意が必要になるでしょうか。

「インプラント法が保険適用されて今年で10年です。ブレストインプラント関連疾患は、挿入後、数年経ってから出てくるものなので、今後、増えていくのではないかと危惧しています。ですから、インプラントを入れたら終了ではないことを、まず患者さんに知ってほしいと思います。挿入してからしっかりフォローしなければならないと考え、細かい部分に漏れや破損、その他の異常がないかをチェックし続けることが大切です」

人工物から自家組織へ。そして脂肪注入法

2019年のBIA-ALCL発生を機に、乳房再建においてそれまで圧倒的シェア(約8割)を占めていたインプラント法(人工物)から、自身の背中やお腹の皮膚や皮下脂肪を振り子状に移動させたり、血管を繋いだりして移植する穿通枝皮弁法(自家組織)の国内での手術件数が増えることになりました。

穿通枝皮弁法も保険適用されていますが、この方法は大手術になる上、傷跡も残り、さらに血管を繋ぎ合わせるため血流障害を引き起こす可能性があるなど、リスクも小さくありません。そんな状況を見越して、2012年に佐武さんが始めたのが「脂肪注入による乳房再建」でした。傷跡も目立たず、手術時間も短いので、体への負担が軽いのが特徴です。

脂肪注入は、もともと豊胸手術の手法の1つです。ただ、乳頭温存乳房切除術や乳輪温存乳房切除術の普及に伴い、健常な乳輪乳頭、乳房皮膚、皮下脂肪、筋肉はできるだけ温存しつつ、腫瘍を含む乳腺組織はしっかり切除するという考え方が根づくと、切除した乳腺量に相当する中身(脂肪)を補うことで乳房を再建するという考え方が生まれたのです。切除部に自身の他部位の脂肪を少しずつ数回に分けて注入することで、本来のバストを取り戻すという方法です。

ところが、日本人は痩せている女性が多く、切除分量に相当する十分な脂肪を確保するのが難しいだけでなく、なんとか確保して注入しても生着しにくく、なかなかうまくいきませんでした。そこに佐武さんを中心に実現させたのが2019年4月に開始した「脂肪幹細胞の培養による脂肪注入」だったのです。(2019年9月号「培養した脂肪幹細胞を使って、安全で自然な柔らかい乳房を」参照)

なぜ脂肪幹細胞を培養して足してやるの?

「本来、私たちの脂肪には脂肪幹細胞が多く含まれています。ただ、血管にくっつくように存在しているので、注射器による脂肪吸引では、脂肪細胞はたくさん吸えても、脂肪幹細胞はあまり採取できないのです。この脂肪幹細胞こそが脂肪を生着させ、増やしてくれる存在。つまり、吸引した脂肪のみでは、脂肪幹細胞が少なく、生着がスムーズに進まないケースが出てくるのです」(画像1)

そこで、まず少量の脂肪(20cc)から脂肪幹細胞だけが増えるように培養し、5週間かけて約5,000万~1億個に増やします。その後、新たに脂肪吸引し、精製により得られた脂肪(200cc)に、培養した1,000万個の脂肪幹細胞を加えて乳房に注入し、少しずつ膨らみを作っていきます。

「吸引した脂肪は、言ってみれば脂肪幹細胞を取りこぼした脂肪細胞。そこに、あらかじめ培養した脂肪幹細胞を足すことで、人間本来の脂肪組織の状態に近づけてやることができるのです」

注入回数は、6カ月ごとに2~3回ほど(平均2.7回)。脂肪幹細胞を豊富に含む脂肪は速やかな生着を促し、さらに脂肪細胞を増やしたり、放射線照射でダメージを受けた皮膚の再生にも力を発揮するといいます(図2)。

「ふくよかな方で、確保できる脂肪量が十分ある場合、脂肪吸引し、それを注入するだけで生着まで促せる場合も多くあります。ただ、痩せていて脂肪量が十分でない方や、放射線照射を受けていて皮膚が硬くなっている方などには、脂肪幹細胞を足したほうが脂肪の生着状況がよくなり、さらに傷ついた組織を治癒させる力も期待できます」

脂肪にはどんなパワーがあるのか

常日頃、脂肪は否定的なイメージを抱かれがちですが、実は、私たちの体を守る重要な働きをしてくれているようです。

「乳がん治療には放射線治療が欠かせない場合があります。しかし、照射を受けた皮膚は、汗腺や皮脂腺がダメージを受けて汗も皮脂も分泌できなくなり、カサカサで硬く、潤いがなくなっています。脂肪幹細胞は、そうした傷んだ組織内の血流を少しずつ再生させ、皮膚の機能を回復させる力を持っているのです。また、乳房切除することで生じる独特の痛み(乳房切除疼痛症候群)に対しても、脂肪幹細胞は効果を発揮します。脂肪注入によって、痛みスコアが平均で3ほど下がるというデータも出ています」

乳房再建の目的は、乳房の膨らみを取り戻すことです。ただ、脂肪注入法は、乳房の膨らみだけでなく、手術や放射線照射によって受けた皮膚ダメージを回復し、痛みの改善までもたらしてくれるのです。

「注入された脂肪によって、その場所が徐々に脂肪組織に置き換わり(生着)、元の組織や周囲の組織にも働きかけて、その土壌を肥沃化し、活性化させている」と佐武さんは表現します。注入された場所で脂肪が生き続け、周囲の組織を修復していくということでしょうか。

「そうです。その主役が脂肪幹細胞ということです。ですから、注入してすぐにいい状態になるわけではありません。3カ月から半年を要しながら、徐々に柔らかい乳房になっていき、皮膚の感触にも少しずつ変化が生じて温かくなっていくのです」

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