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乳房再建における乳頭乳輪温存の可否診断の精度が大幅アップ! MRIを用いた「乳頭乳輪内病変予測モデル」を開発

監修●関 大仁 埼玉メディカルセンター乳腺外科医長
取材・文●半沢裕子
発行:2022年7月
更新:2022年7月

  

「女性にとって乳頭乳輪は切実なもので、残すことを希望される人は多い。今回の予測モデルで科学的根拠を持って残せる、残さないほうがいいといった目安が示せた」と語る関 大仁さん

今日では、乳がんの手術と同時に乳房の再建も行う患者さんが多い。その場合、自分の乳頭乳輪を残したいと願うのは当然のことです。ところがこれまでは、乳頭乳輪の温存の可否は主に、マンモグラフィやエコーを用いて主観的に評価され、判断に迷う場合の多くは切除されていたという。

そこで、埼玉メディカルセンター乳腺外科医長の関大仁(せきひろひと)さんは、より正確な予測の必要性を痛感し、造影MRI画像で得られる画像所見をもとに、乳頭乳輪の温存が可能かどうかを予測するモデルを構築した。その「乳房MRIを用いた精度の高いNAC(乳頭乳輪組織)内病変予測モデル」について、解説していただいた。

乳房再建を希望する患者さんはどのくらいですか?

日本では2006年に自家組織による乳房再建に、一部保険適用が認められていましたが、2013年に人工乳房(インプラント)再建が保険適用になってから再建を希望する患者さんが大幅に増え、今では乳房再建のうち8割の方がインプラント再建を選ばれています。最近はインプラントのバリエーションが多くあり、自分の胸の形にあったインプラントが選べることなどもインプラント再建が選ばれる理由だと思います。

それとは反対に、乳房温存手術の需要は年々減少傾向にあります。乳房温存手術は一時、大変な勢いで増えましたが、2010年頃を境に伸び止まり、2016年以降は約半分になりました(当院調べ)。

1つには、乳房温存術が症例によっては必ずしも整容性(形や姿が整っていること)に優れていないことが理解されてきたためと言えるでしょう。がんの大きさやできた位置によっては、部分切除をした場合に乳房がゆがんだ形になったり、左右非対称になったり、乳頭が偏った向きになったりすることがあります。もちろん、がんが残るのではないかという心配も症例によっては否定できません。

そこで、無理に乳房を残すのではなく、乳房を切除したうえで乳房再建を行う患者さんが増えました。その結果、前述したように当院でも現在は約半分の方が乳房切除術を受け、その半分の方が乳房を再建しています(図1)。

乳房再建において大事なことは、1つはがんをちゃんと取りきること。そしてもう1つが再建された乳房の整容性です。この2つの条件がきちんと満たされることを確認したうえで、乳房再建を行うことが必要です。

「乳房を切除して再建する」とはどのようにするのですか?

ここでは簡単にご説明します。まず、乳房再建には1次再建と2次再建があります。1次再建は乳がん手術と同時に再建まで行う方法で、2次再建は手術や化学療法などの治療が一段落したところで再建を行う方法です。

今日2次再建は、過去に乳がんの手術を受けたが、今になって再建を希望するといった方が中心で、ほとんどは1次再建となっています。その1次再建には、インプラント挿入や自家組織再建(1次1期再建)とエキスパンダー挿入(1次2期再建)があります。

いわゆる乳房切除術には皮膚まで切除してしまう「全摘術」と、乳房の皮膚を残して乳腺だけを切除する「皮下乳腺全摘術」があります。

皮下乳腺全摘術では、乳頭乳輪を温存できる症例と温存できない症例があり、温存する手術を乳頭乳輪温存術(Nipple-sparing mastectomy:NSM)、切除する手術を乳頭乳輪切除術(Skin-sparing mastectomy:SSM)と呼びます。

なお、当院では「傍乳輪切開」という特殊な切開法を用いています。これは皮膚切開方法の1種ですが、乳輪に沿って皮膚を切開し、その小さな創から手術操作を行う、技術的に高度な方法です。乳頭乳輪を残す場合にも行いますが、残せない場合でも傷が小さいので、現状では整容性に最も優れた手術法と言えると思います(画像2)。

傍乳輪切開術の画像を追加しています

乳首の温存をしたいと希望を伝えてもいいですか?

乳房再建を選択する患者さんのほとんどは乳頭乳輪温存を希望されますし、私たち外科医もできるだけ温存できるよう、検討します。ただ、温存が可能かどうかは、がんのできた位置や大きさなどによります。

かつては整容性は二の次で、とにかく再発しないことが重視されたので、患者さんは乳頭乳輪を残してほしいと言える状況になかったと推察します。実際に、乳房を再建したあとに局所再発すると、患者さんの精神的ダメージも大きく、医師もたいへん後悔します。

しかし、患者さんの希望は非常に強いと思います。温泉に行くのが趣味なのに、人目が気になって行けなくなったとか、お子さんやお孫さんとお風呂に入ったら泣かれてしまったといった話も聞きます。それだけでなく最近は私自身、夫や恋人などのパートナーがいるいないに関わらず、乳房、さらに乳頭乳輪は、女性のアイデンティティに関わる重要な身体部分と理解しています。温存の希望はきちんと医師に伝え、可能性について話し合っていただければと思います。

「MRIを用いたNAC内病変予測モデル」とはどんなものですか?

たとえば、乳頭近くに大きながんがある場合なら、乳頭乳輪を温存できますという外科医はいません。しかし、がんは小さいけれども、乳首までの距離が近い場合や、がんが小さく距離もあるが、乳管内にがんが進展している場合などは、乳頭乳輪を残して大丈夫なのか、判断が非常にむずかしくなります。

現在は手術の前にMRIでがんの広がりを評価する施設が多いので、MRIの画像所見をもとに、乳頭乳輪組織の中にがんがあるかどうかを術前に予測するための手法です。

NACとは乳頭乳輪組織(nipple-areola complex)のことです。造影MRIの結果からNAC内にがんがある可能性が正確に診断できれば、乳頭乳輪を温存する判断はより精度が高くなります。

そこで、2008年4月~2019年10月までに当院で皮下乳腺全摘術を行った原発性乳がん287例のうち、術前に乳房MRIで評価をしていた252例の患者さんを対象に、選択された術式(NAC切除/NAC温存)と、手術中に迅速病理診断に出した組織(永久病理標本)にNAC病変があるかないか(陽性か陰性)を調べ、術前の判断がどのくらい正確かをまず調べました。

すると、主治医の主観的判断では、感度が36.2%と非常に低く、陽性反応的中率はわずか58.6%、偽陰性が63.8%ということがわかりました。つまり、6割の人はNACにがんがあると判断して切除したのに、実際にはがんがなかったのです。これが明らかになったことがまず大きな成果でした(図3)。

また、術中迅速病理診断と永久病理標本のNAC内病変の関連性を見ると、迅速病理診断でも陽性反応的中率はやはり5割強(56.4%)でした。手術中の迅速病理診断によって切除したにもかかわらず、約半数の人は実際にはNAC内病変がなかったのです。わかりやすい言葉で言えば、「とられ損」になった患者さんが決して少なくないと言うことです。

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