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メスを使わずに、身体に負担の少ない方法で患者のQOLアップ

パラメディカルピグメンテーションで、失われた乳頭乳輪や眉毛を再現

監修●小関 淳 女性医療クリニック・LUNAグループ乳腺外科医師
取材・文●池内加寿子
発行:2016年12月
更新:2016年12月

  

「患者さんにもぜひ、パラメディカルピグメンテーションという方法があることを知ってもらいたいですね」と語る小関淳さん

米国では医療補助技術として確立されている「パラメディカルピグメンテーション」。皮膚に色素を注入し、治療によってダメージを受けた部分を再現する方法で、「ボディタトゥ(入れ墨)」より身体への負担が少なく、乳房再建後の乳頭乳輪をはじめ、抗がん薬の副作用で脱毛した眉毛の再現など広く応用されている。日本でも、この技術を習得した医師や看護師によって広まりつつあり、乳がん術後や抗がん薬治療中の患者への朗報となりそうだ。

「パラメディカルピグメンテーション」とは?

「パラメディカルピグメンテーション」とは聞きなれない言葉だが、「パラメディカル」とは医療補助、「ピグメンテーション」とは色素(ピグメント)を注入することを指す。皮膚のごく浅い部分に、専用マシンで人体に害のない色素を入れていく最先端の高度な技術だ。米国で確立されているこの技術は、治療によってダメージを受けた部分を再現またはカモフラージュする方法として注目されている。

横浜市にある女性医療クリニック・LUNAグループで乳腺外来を担当する乳腺外科医の小関淳さんは、「乳がん治療の分野でも、手術で失われた乳頭乳輪や、抗がん薬の副作用によって脱毛した眉毛などがこの方法で手軽に再現できるようになり、患者さんに喜ばれています」と話す。小関さん自身、初めてパラメディカルピグメンテーションについて知ったとき、「乳頭乳輪を再現するこんな良い方法があるとは」と、衝撃を受けたという。それ以来、乳がん患者の悩みを軽減し、QOL(生活の質)を高める方法として多方面の学会で発表するなど、この技術を広める活動を行ってきた。

実際の例を見てみよう。パラメディカルピグメンテーションを用いて、再建した乳房の皮膚に色素を注入し、手術していない健側乳房そっくりの、まるで凹凸があるかのような乳頭乳輪ができあがる(写真1)。化学療法の副作用で抜けてしまった眉毛も、まるで生えているかのように再現できる(写真2)。

写真1 パラメディカルピグメンテーションによる乳頭乳輪再建例

単一ではなく様々な色素を使うことによってグラデーションを付けて陰影を施し、立体的な乳頭乳輪を作ることも可能だという
写真2 パラメディカルピグメンテーションによる眉毛例

抗がん薬治療中は、髪の毛、まつ毛、眉毛が抜けてしまうことが多い。髪の毛に対しては「ウイッグ」、まつ毛に対しては「つけまつ毛」があるが、眉毛の場合、これまでは化粧で描くしか方法はなく、パラメディカルピグメンテーションであれば、その手間を省くことができる

乳房再建後、乳頭乳輪の再建をあきらめていた人も、この施術を受けて「エステ感覚でできるんですね。これで温泉にも行けるようになりました」と喜ぶという。北海道などの遠方から同クリニックを訪ねてくる人もいるそうだ。

「ボディタトゥ」との違い

以前から、乳頭乳輪の再建としては「ボディタトゥ(入れ墨)」が行われることがあったが、パラメディカルピグメンテーションとの違いはどこにあるのだろうか。

小関さんによると、大きな違いとして、色素を注入する皮膚の深さがあげられるという。ボディタトゥは皮膚の深部に色素を入れるのに対して、パラメディカルピグメンテーションではごく浅い部位に色素を注入する。

「皮膚には表皮と真皮があり、その下に皮下組織があります。ボディタトゥは、皮下組織まで深く針を刺して色素を入れるので、半永久的に色が変わらず修整もできません。それに対してパラメディカルピグメンテーションでは、真皮のごく浅い部分に色素を注入します。そのため、施術後は1~5年で段々と色が薄くなります」(図3)

図3 パラメディカルピグメンテーションとボディタトゥとの違い

ボディタトゥが、皮下組織に色素を注入するのに対して、パラメディカルピグメンテーションでは、真皮に色素を注入する。色素を注入する深さが異なり、ボディタトゥの場合、1度入れてしまうと半永久的に色はとれないが、パラメディカルピグメンテーションの場合、徐々に色は落ち、少しずつ周囲の皮膚の色に近づいていく

ボディタトゥと比べ、皮膚の浅い部位に色素を注入することで、色を調整することができ、そこが大きなメリットだという。

「乳頭乳輪は年齢を重ねるとともに、色が薄くなりますが、ボディタトゥで1回色素を入れてしまうと、色が抜けることはなく、手術していない健側の乳房と比べてバランスが悪くなります。その点、パラメディカルピグメンテーションでは、注入した色も段々と薄くなりますし、また何年かに1度、健側と合わせて色を修復することができます」

他にも、ボディタトゥで用いる色素が、各施設で統一されていないのに対し、パラメディカルピグメンテーションで使用する色素は、FDA(米国食品医薬品局)やヨーロッパのCEマークで認可された安全なものを使用している点も、違いとしてあげられるという。

CEマーク=商品がすべてのEU (欧州連合) 加盟国の基準を満たすものに付けられる基準適合マーク

身体にメスを入れる必要のない施術

写真4 パラメディカルピグメンテーション
による乳輪再建例

乳房温存手術で乳輪を切開した際の傷跡や脱色にも、パラメディカルピグメンテーションを施すことによって、以前と同じような乳輪が再現できる

こうしたボディタトゥやパラメディカルピグメンテーションといった色素を注入する以外にも、乳頭乳輪の再建方法としては、①局所皮弁(きょくしょひべん)、②健側の乳頭乳輪の移植――といった方法がある。

局所皮弁は、再建乳房の皮膚の一部を持ち上げ、高さを出して乳頭乳輪を作る方法、②健側の乳頭乳輪の移植は、手術をしていない健側の乳頭乳輪の一部を、再建した乳房に移植する方法だ。ただ、小関さんによると、①では、時間の経過とともに乳頭の高さが低くなってしまうケースがままあるという。また、②は、技術的に難しく、移植した乳頭乳輪がうまく生着(せいちゃく)しないこともあるそうだ。

「その点、パラメディカルピグメンテーションは、専用のマシンで皮膚に色素を注入するだけなので、メスで切る必要もなく、①②の外科的な方法に比べて侵襲性が少ないのが特徴です。また、手術をしていない健側の乳頭乳輪を使用したくない、あるいは健側の乳頭乳輪が小さくて使用できないといった患者さんにも、パラメディカルピグメンテーションを行うことができます」

現在、パラメディカルピグメンテーションでは、再建した乳房の乳頭乳輪や、化学療法で脱毛した眉毛の再現だけでなく、乳房温存手術で乳輪を切開した際の傷跡や脱色(写真4)、温存手術後の放射線治療による乳輪の脱色などの場合にも、色素を注入してカモフラージュすることが可能だ。また、がん治療関連だけでなく、先天性の皮膚疾患(白斑症)、外傷による瘢痕(はんこん)、化粧品などによる白斑などのカモフラージュにも応用されているという。

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