術後の社会復帰までをサポート 体への負担が少ない食道がん胸腔鏡・腹腔鏡下手術
食道がんは早い段階からリンパ節転移を起こしやすい。そのため手術では食道の切除に加え、頸部、胸部、腹部に及ぶリンパ節を取り除く必要があり、体への負担が大きい。そこで、患者さんの社会復帰までを見据え、開胸・開腹よりも傷や痛みの少ない「胸腔鏡・腹腔鏡下手術」が注目されている。
切除と再建が必要な 食道がんの手術
食道がんは食道の粘膜から発生するがんで、早期の段階からリンパ節転移が起きるという特徴がある。食道壁は内側から、粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜という4層構造になっているが、がんが粘膜下層に留まっているような段階でも、リンパ節転移が高頻度に起きているのである。
この点について、国立がん研究センター東病院食道外科科長の大幸宏幸さんは、次のように説明する。
「食道がんがリンパ節転移を起こしやすいのは、粘膜下層に血管やリンパ管が豊富だからです。そのため、がんが粘膜下層に達している場合には、高い頻度でリンパ節転移を起こしてしまいます」
食道の特徴はこれだけではない。胃や大腸などの消化管と比較しても、独特な構造をしているのだ。
「胃でも大腸でも最も外側を漿膜が覆っていますが、食道にはこの漿膜がないのです。そのため、接している臓器に浸潤しやすいという性質もあります」
こうした特徴があるため、食道がんの手術では、頸部、胸部、腹部に及ぶ広い範囲のリンパ節を取り除くこと(リンパ節郭清)が必要になる。粘膜下層に留まっている比較的早期のがんでも、外膜にまで達しているがんでも、同じ手術が行われるのである。
「食道がんの手術では、胸部食道をすべて切除し、転移している可能性のあるリンパ節を切除します。そして、食べ物の通り道である食道がないままでは困るので、食道を再建します。胃を使って細い管を作り、それを食道のあった部位に吊り上げ、頸部で残った食道と繋ぐのです」
こうした切除と再建が行われるため、食道がんの手術は、頸部、胸部、腹部という3つの領域に及ぶことになる。当然のことながら、手術を受ける患者さんの身体的な負担は大きい。それを少しでも軽減するために、胸腔鏡と腹腔鏡を使った手術が行われるようになっている。
手術後の痛みが軽く 翌日から歩ける
食道がんの手術の標準的な術式は、開胸して食道を切除し、開腹して胃による食道の再建を行う開胸・開腹手術である。しかし、国立がん研究センター東病院では、可能な患者さんには、胸腔鏡を使って食道を切除する「胸腔鏡下食道切除術」と、腹腔鏡を使って胃による食道の再建を行う「腹腔鏡下胃管再建術」を行っている。
切開する部位はかなり小さくなる(図1)。同病院では、胸腔鏡下手術は腹ばいの姿勢で行われ(写真2)、切開するのは6カ所(1㎝が2カ所、0.5㎝が4カ所)だけ。腹腔鏡下手術での切開部位は5カ所(1㎝が2カ所、0.5㎝が3カ所)である。
胃を遊離させるのは腹腔内で行って、胃で管を作る作業は体外で行われる。喉まで届く長さがあるのを確認する必要があるためである。そこで、臍の近くを5㎝ほど切開することになる。さらに胃の管を喉に繋ぐため、胸腔鏡・腹腔鏡下手術を行った場合でも、首の切開は必要である。
胸部食道がんにおける年度別手術症例数
同院では、ここ数年、年間150例ほどの食道がん手術が行われているが、胸腔鏡・腹腔鏡下手術の占める割合が徐々に増えてきている(図3)。
「胸腔鏡を使った手術は、2008年に導入しました。最初はステージⅠの患者さんから始め、安全性と根治性を確認しながら、段階を踏んで適応を拡大してきたのです。
現在は、T1b(粘膜下層に留まるがん)からT3(外膜まで達しているがん)までを対象としています。T4(他の臓器に浸潤しているがん)が疑われるような大きながんの場合は、開胸手術を行っています」
胸腔鏡・腹腔鏡下手術でも、開胸・開腹手術でも、体の中で行っていることは同じである。その点では、患者さんの体に対する侵襲は同じと言ってよい。合併症のリスクも変わらないし、術後の回復や食事を開始する時期なども、どちらの手術を受けた場合でも同じである。
「ただ、傷が小さいので痛みが軽く、そのために翌日から歩くことができます。それが最大のメリットだと思います」
食道がんの手術は侵襲が大きいため、術後の社会復帰が難しくなる場合がある。社会復帰を実現させるためにも、早い時期から歩けることは重要である。
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