腎臓を温存する部分切除のほうが長生きできる!?
小さな腎がん、「腎全摘」「腎温存」どちらがよいか
「T1a腫瘍では、腎部分切除がすでに標準治療になっている」と話す
亀山周二さん
がんの最大径が7㎝以下の腎んの治療法は、以前はがんのある腎臓を1つ丸ごと切除する腎摘除が多かった。
しかし最近は、がんとその周囲だけを切除する腎部分切除(腎臓温存)のほうが、逆に生命予後がよいと考えられるようになってきた。
10年生存率は95%
[図2 1期における腎がんの腫瘍]
(腫瘍の大きさが4cmまでがT1a、4cmから7cmまでがT1bと分類される)
腎臓は背骨の両脇、腰の高さに1つずつあるこぶし大の臓器で、血液が運んでくる体内の老廃物を、腎臓の糸球体が濾過し、尿細管細胞が再吸収して、不要なものを尿として排出する働きをもつ。腎がん(腎細胞がん)はほとんどが、尿細管の細胞から発生するとされる(図1)。
かつては病期が進み、血尿やしこりなどの自覚症状で発見される病気だったが、今日では人間ドックの超音波検査などで早期発見されるケースが増えている。
ここでいう「小さな腎がん」は最も初期、つまりがんの最大径が7㎝以下で、腎臓に限局している(=転移のない)1期の腎がんを主にさす(図2)。
「1期のがんは今日、治療がかなり確立され、多施設の検討でも5年生存率が97%、10年生存率でも95%という実績になっています」
と、NTT東日本関東病院泌尿器科部長の亀山周二さんは語る。
1期の治療の基本は手術
1期の治療の基本は手術。手術による完治の可能性が高いうえ、抗がん剤や放射線が効きにくいとされているためだ(がんが7㎝以上あるが転移のない2期でも同様)。
しかし、1期の腎がん手術については、知っておきたいことがある。腎臓は2つあり、1つあれば機能は温存されると考えられ、長い間、小さながんでも腎臓を片方丸ごと切除すること(腎摘除)が多かった。しかし近年、がんとその周囲だけを切除する腎部分切除(腎臓温存)のほうが、逆に生命予後がよいと考えられるようになっている──ということだ(図3)
より抜粋
同じ1期でも、がんが4㎝以下のものはT1a、4~7㎝のものはT1bと区別されているが、中でも4㎝以下のT1aの場合、今日、日本泌尿器科学会が発行している『腎癌診療ガイドライン』でも、腎部分切除は腎がん診療のアルゴリズムにおいて推奨される治療方針に組み込まれている(図4)。
部分切除が増えている理由
「なぜ、部分切除が増えているか。理由は2つあります。1つは、技術的な裏づけができてきたため。たくさんの血管が走る腎臓の部分切除は、高度な技術を必要とするため、比較的敬遠されてきましたが、少しずつ症例が積み上がり、安全に手術できる技術が確立されつつあります。第2に、世界的に慢性腎臓病(CKD)対策が重視されるようになったこと。『慢性腎臓病を発症させない』という観点から見ると、部分切除のほうが腎摘除より、明らかに成績がいいのです」
と亀山さんは説明する。
慢性腎臓病とは、腎機能低下や腎障害を表す所見(尿タンパクが出るなど)が長く続く状態で、放置しておくと末期腎不全になり、人工透析や腎移植が必要になる。
さらに、慢性腎臓病の患者さんは、いわば血液のクリーニングが十分に行えないことから、狭心症や脳梗塞などの心血管系合併症になりやすいことでも知られている。
腎臓の機能を測る糸球体濾過量は90以上が正常値とされるが、これが45未満になると心血管系合併症が起こりやすくなるとされる。慢性腎臓病でも、かなり悪い状態ということだ。
そして、腎がんの手術10年後に糸球体濾過量が45未満まで低下した患者さんを調べた調査を見ると、腎摘除を受けた患者さんで5割の人が45未満に低下し、部分切除では1割程度だったという。
つまり、早期腎がんにおいては、腎摘除を行うより、腎部分切除で腎臓とその機能を温存したほうが、長生きできる可能性が高いということが明らかになったのだ(図5)。
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