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分子標的薬をよく知り、QOLを保ちながら、自分らしい生活を送る
転移性腎がん治療が大きく変わったことはご存じですか?

監修:堀江重郎 帝京大学医学部付属病院泌尿器科教授
取材・文:町口 充
発行:2011年12月
更新:2013年4月

  
堀江重郎さん
「治療の選択肢が多くあることは
有利。QOLを維持した生活を
患者さんに過ごしてほしい」と話す
堀江重郎さん

転移性の腎がんは抗がん剤や放射線治療がほとんど効かず、治療の選択肢はサイトカイン療法に限られていたのですが、近年、有効な分子標的薬が相次いで登場するようになり、転移性腎がん治療の地図が大きく塗り変わっています。

ユニークながん

「腎臓のがんは、基本的に転移がなければ手術治療が第1選択で、腎臓を切除すれば多くが根治します。しかし、実際には3人に1人の方が転移した状態で見つかっており、腎臓のがんの治療を難しくしています」

と語るのは、帝京大学医学部付属病院泌尿器科教授の堀江重郎さん。

転移性腎がんは予後が悪く、2年間で半分近くの患者さんが亡くなってしまうほど、難治性のがんとなっています。

転移性腎がんでは、手術で根治することが難しいうえに、抗がん剤や放射線治療はほとんど効果がないなか、唯一積極的に行われてきたのがインターフェロンなどのサイトカイン療法です。この治療法は、体の免疫力を高めることでがんを縮小させるのですが、奏効率は15パーセント程度でしかありません。

こうした転移性腎がん治療の現状を大きく変えたのが、分子標的薬です。

「がんについて研究していくと、それぞれのがんには少しずつ違った特徴があることがわかってきました。がんの中で働いている酵素ががんによって違うということです。逆にいえばがんにとってのアキレス腱みたいなもので、ここを攻撃するとがんは弱っていくはずと開発されたのが分子標的薬です。

がんは増殖のために酸素と栄養を必要としていて、そのために血管新生といって、新しい血管を次々につくっていくのですが、とくに腎がんの場合それが著しい。その血管新生のために働く酵素にチロシンキナーゼと呼ばれるものがあり、それをやっつけ"兵糧攻め"にしようと開発されたのがチロシンキナーゼ阻害剤です」

[腎細胞がんの治療]
腎細胞がんの治療

日本泌尿器科学会 編「腎癌診療ガイドライン(2007年版)」金原出版,2007より改変
転移のない腎がんの第1選択は手術。ただ、3人に1人が転移した状態で見つかり、治療は薬物療法が中心になる

増殖と血管新生に関係する新しい治療薬:mTOR阻害剤

[エベロリムスがなぜ腎がんに有効か]
エベロリムスがなぜ腎がんに有効か

エベロリムスは、がん細胞の増殖抑制と、がんが栄養を得る新しい血管を作ることを抑制する

[腎がんに対するエベロリムスの効果]
腎がんに対するエベロリムスの効果

Motzer,R J et al.:Cancer2010;116:4256-4265
チロシンキナーゼ阻害剤が効かなくなった腎がんにエベロリムスとプラセボを投与したところ、エベロリムス群では無増悪生存期間が延長した

さらに腎がんを研究していくうちに、がん細胞の分裂・増殖、代謝、血管新生にかかわっている分子として、mTORという酵素の存在がわかってきました。

「この酵素はもともと、モアイ像で有名なイースター島の土中から発見され、最初は移植医療などでの免疫抑制剤として、この酵素の働きを阻害する薬が開発されました。いろいろ研究してみたら腎がんに有効とわかり、アフィニトール()が開発されました。がん細胞の増殖を抑制するのと血管新生を抑制するのと、両面で作用する薬です」

日本も参加した国際共同臨床試験で、チロシンキナーゼ阻害剤が効かなくなった患者さんを対象にアフィニトールとプラセボ(偽薬)を投与したところ、プラセボ群に比べてがんが小さくなっただけでなく、がんが大きくならずに生存する期間(無増悪生存期間)が延長したことも確認されました。

アフィニトールは、チロシンキナーゼ阻害剤とは違うルートからがんに働きかけます。もしチロシンキナーゼ阻害剤が効かなくなったとしても、アフィニトールは作用が異なる薬剤なので、引き続き治療を続けていくことができるようになったのです。

アフィニトール=(一般名エベロリムス)

自分らしい日常生活を送る

現在、転移性腎がんの治療薬として、インターフェロン、インターロイキン2、チロシンキナーゼ阻害剤のネクサバール()、スーテント()、mTOR阻害剤のアフィニトール、トーリセル()の6種類があります。この6種類の治療薬はどう使っていくのがいいのでしょうか。

腎がん治療ガイドラインでは、アフィニトールは、チロシンキナーゼ阻害剤が効かなくなった患者さんに対する薬として推奨されています。堀江さんによると、場合によっては、転移性腎がんの第1選択の薬として最初から使ってもいいといいます。

「転移性腎がんの治療は、治癒を目指すのはなかなか難しいです。そこで、がんを大きくならないようにし、できる限り治療の副作用をなくし、QOL(生活の質)を保ちながら自分らしい日常生活を送れるようにすることが理想です。そのためには、分子標的薬の効果と副作用をよく理解して治療することが重要です。具体的に見ていきますと、インターフェロンは肺の転移には比較的高い有効性が示されているので、依然として選択肢の1つと考えてよいでしょう。ただし、注射を週に2回しなければならず、発熱や炎症反応などの副作用にも注意しないといけません。一方、肺に転移したがんの数が多くなってきたり、肺以外の臓器に転移がある場合は、インターフェロンよりチロシンキナーゼ阻害剤のほうがいいでしょう。

しかし、チロシンキナーゼ阻害剤は血管新生を抑える薬なので正常血管にも作用して、たとえば血圧が高くなるなどの副作用があり、極端な場合、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞を招く恐れがあります。高血圧などの血管リスクのある患者さんには、注意が必要でしょう。

また、チロシンキナーゼ阻害剤の副作用として、湿疹とか紅斑といって皮膚に炎症を伴ったり、倦怠感が出ることもよくあります。その点、アフィニトールは全般的に重い皮膚症状の副作用は少なく、激しい倦怠感も少ないので、気になる方はこちらを選んだほうがいいかもしれません」

このように、チロシンキナーゼ阻害剤は効果も期待されていますが、日常生活に障害を与える副作用も多いようです。

「せっかく効果のある治療を受けても、患者さんへの負担があまりにも強くては治療に耐えられなくなり、治療を中断しなければならなくなります。これでは本末転倒でしょう。患者さんは、患者であるとともに生活者でもあるのですから、日常生活を支障なく送ることができれば安心できるし、それは治療にもプラスに働くようになると思われます」

ネクサバール=(一般名ソラフェニブ)
スーテント=(一般名スニチニブ)
トーリセル=(一般名テムシロリムス)


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