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腫瘍縮小効果を狙うならVEGF阻害剤、がんの増殖を長期に抑えるならmTOR阻害剤
続々登場する腎がんの分子標的薬は、こうやって使い分ける

監修:大家基嗣 慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室教授
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2011年1月
更新:2013年4月

  
大家基嗣さん
慶應義塾大学医学部
泌尿器科学教室教授の
大家基嗣さん

分子標的薬によって腎がんの化学療法が激変している。VEGF阻害剤のネクサバール、スーテントに続き、10年にmTOR阻害剤のアフィニトール、トーリセルが登場し、さらに、新しいVEGF阻害剤の承認も控えている。
これらの分子標的薬を的確に使い分けることで、腎がんの治療成績の大幅な向上が期待されている。

進行した腎がんは依然として難治

腎がんといえば、かつては“ 難治がん” というイメージが強かった。なぜなら、腎がんは、血尿や背中の痛みなどの自覚症状が出たときにはすでに進行しているケースが多く、その場合、打つ手も限られていたからだ。しかし、腎がんのそうしたイメージは、今や払拭されつつあるという。

「診断法の発達によって、初発の腎細胞がんのうち、無症状で見つかる早期がんが全体の7~8割を占めるようになりました。大きさが4センチ以下で、腎臓の外側にあるがんなら、部分切除も可能です。早期の腎細胞がんは予後も良好で、腎がんは“ 根治できるがん” になったと言ってもいいでしょう」

こう語るのは、腎がんの臨床研究で知られる慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室教授の大家基嗣さんだ。

とはいえ、腎がんが進行したり、再発・転移したりした場合、依然として治療が難しいことに変わりはない。腎細胞がんの場合、初発から5~10年後に再発する「晩期再発」も少なくないため、要注意だという。

「進行、あるいは転移・再発した腎細胞がん、つまり、病期4期の腎細胞がんには化学療法を行いますが、これまでの化学療法は治療成績が芳しくありませんでした。化学療法のメインだったインターフェロン療法は、奏効率(がんが縮小した割合)が1~2割に過ぎなかったのです」

腎がんの分子標的薬が続々と登場した

ところが、ここ数年で新薬が相次いで登場し、腎がんの化学療法は大きく様変わりした。

08年にネクサバール(一般名ソラフェニブ)とスーテント(一般名スニチニブ)、そして、10年4月にアフィニトール(一般名エベロリムス)、同7月にトーリセル(一般名テムシロリムス)が承認された。いずれも「分子標的薬」である。

分子標的薬は、がん細胞に特異的に多い特定の分子に取り付いてその働きを妨げ、がん細胞の増殖や転移を抑えたり、がん細胞を自滅に導いたりする薬。正常細胞をあまり傷つけずに、がん細胞を効率よく狙い撃ちできるとして期待されている。

[腎がんの4つの分子標的薬が効く仕組み]
図:腎がんの4つの分子標的薬が効く仕組み

腎がんは分子標的薬の開発が盛んな領域だ。その理由について、大家さんは次のように説明する。

「腎細胞がんは、組織型によって淡明細胞がん、乳頭がん、嫌色素がんの3種類に分けられ、そのうち80~85パーセントを淡明細胞がんが占めます。淡明細胞がんは血管がとても多いタイプ。まだ研究途上ですが、淡明細胞がんの6割にはVHLというがん抑制遺伝子の変異があり、この遺伝子変異によって、がんの血管を作らせるVEGF(血管内皮細胞増殖因子)という物質が増えると考えられています。一方、VEGFの働きを阻害する方法がいくつも見つかったので、淡明細胞がんをターゲットとした分子標的薬が開発されたのです」

[腎細胞がんの種類]
図:腎細胞がんの種類

腫瘍縮小効果が大きいスーテント

腎がんの4つの分子標的薬には、いずれもがんの血管新生を食い止め、がんの栄養の補給路を断つ働きがある。このうち、ネクサバールとスーテントは、細胞表面にあるVEGF受容体の情報伝達経路をブロックして、がんの血管が作られないようにするVEGF阻害剤。

ネクサバールについては、インターフェロンが無効となった腎がんを対象に第3相臨床試験が行われた。それによると、全生存期間中央値は、プラセボ(偽薬)投与群の14.3カ月に対して、ネクサバール投与群は17.8カ月だった。スーテントについても転移性腎がん(無治療)の第3相臨床試験の結果が出ている。無増悪生存期間(がんが悪化しなかった期間)中央値は、インターフェロン投与群の5カ月に対し、スーテント投与群は11カ月だった。

[腎がんに対するソラフェニブの効果(TARGET試験)]
図:腎がんに対するソラフェニブの効果(TARGET試験)
[腎がんに対するスニチニブの効果]
図:腎がんに対するスニチニブの効果

Motzer,R.J.et al.:NEngl J Med.356(2):115-124,2007

「実際の臨床でも、たとえば、スーテントの奏効率は4~5割で、インターフェロンより断然優れています。また、インターフェロンは、肺やリンパ節へのがん転移にはよく効くのですが、肝臓や膵臓への転移には奏効しません。一方、ネクサバールやスーテントは、あらゆる部位の転移に有効です。ネクサバールとスーテントを比べると、スーテントのほうが腫瘍縮小効果は大きいですね。反面、スーテントの欠点は、ネクサバールより副作用が強いことです」

分子標的薬でも副作用が起こるのは、ターゲットとなる分子が正常細胞に存在する場合もあるからだ。たとえば、がんの血管新生を阻害する分子標的薬を投与すると末梢血管の再生までも妨げられて、手足の皮膚に炎症が起こる「手足症候群」や高血圧を招くと考えられている。

ネクサバールとスーテントに共通の副作用は、手足症候群や高血圧、下痢。ネクサバールは、まれに皮膚の炎症の一種である「多形紅斑」という重篤な副作用も起こす。一方、スーテントには、甲状腺機能の異常、血球減少、心機能の低下といったさまざまな副作用がある。ときには腸管穿孔(腸に穴が開くこと)が起こることもある。

「ただし、手足症候群にはステロイド剤の投与、高血圧には降圧剤の投与といった副作用対策が進んでいるので、副作用によって、ネクサバールやスーテントを休薬するケースはほとんどありません」


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