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「あきらめないで」。転移をしても、サイトカイン療法が効かなくなっても
腎がんになっても、長く健やかな生活をもたらす分子標的薬の力

監修:三宅秀明 神戸大学大学院外科系講座腎泌尿器科学分野講師
取材・文:繁原稔弘
発行:2010年7月
更新:2013年4月

  
三宅秀明さん
神戸大学大学院外科系講座
腎泌尿器科学分野講師の
三宅秀明さん

腎がんは、放射線や抗がん剤があまり効かず、治療方法としては、手術やサイトカイン療法(免疫療法)など、限られたものしかなかった。
しかし、約2年前に分子標的薬が登場したことによって、腎がんになっても、健やかな生活を長く送ることができるようになってきた。

腎がん患者さんの症例から

肺に影が!思いもよらない腎がん発覚

2004年、定期診断でレントゲンを撮った長谷川靖子さん(仮名・62歳)は、肺に影があることを告げられ、精密検査が必要なため、近隣の市民病院へ行くよう勧められた。

「それまで、ゴルフのキャディの仕事で元気に外を歩き回っていましたし、腰に痛みを感じたり、血尿が出たりしたことなど全くありませんでしたから、自分ががんだなんて、最初は信じられませんでした」

しかし、さらに詳しい検査結果が出ると、担当した内科医から「これは、私の担当ではありませんので、泌尿器科へ行ってください」と言われたのだった。

診断結果を見た泌尿器科の担当医の「良性の腫瘍かもしれません」という言葉に対して、長谷川さんは「がんなのですか?」と尋ねたが、医師からの返事はなかった。

「しかし、自分では、がんが見つかったんだと確信しました」

実際に左の腎臓はかなり肥大しており、肺への転移も見られるなど、がんが進行していたことから、すぐに左腎臓の全摘手術が行われた(*1)。

手術後は肺へ転移したがんの治療のため、インターフェロンαを用いたサイトカイン療法が行われた。しかし、手術から4カ月後、長谷川さんに異変が起こる。

「友人と電話で話をしていたときに、友人から『話し方がいつもと違う』と指摘されたのがきっかけでした」

さらに、靴を脱いで部屋に上がることができなくなるなど、自分でも「やっぱりおかしい」と思い、検査を受けた。その結果、脳に転移していることがわかったのだ。すぐに長谷川さんは脳の腫瘍に対してガンマナイフによる治療を受けた。そして脳腫瘍は縮小した。その後もインターフェロンαによる治療が続けられた。

それ以来ずっとインターフェロンα療法を行っていた長谷川さんだが、4年経つと次第にその治療が効かなくなってきた。肺に転移したがんが徐々に大きくなってきたのだ。また時期を同じくして、主治医の先生が病院を離れることもあり、長谷川さんは転院を決意。紹介状を書いてもらい、神戸大学医学部付属病院に通うこととなった。それが1年半前のこと。長谷川さんを診た神戸大学の医師から、すぐに分子標的薬であるスーテント(一般名スニチニブ)の投薬を勧められた(*2)。

三宅秀明さんのコメント

*1 腎がんの治療

腎がんの治療は外科手術が基本になっています。摘出できる場合は腎臓を全部摘出しますし、がんが小さければ腎臓を部分的に摘出します。

もし転移があった場合でも、腎がんの場合、手術が基本になりますから、長谷川さんの場合も手術を行い、左の腎臓を全部摘出したのだと思います。

その後、転移巣に対して行われたサイトカイン療法というのは、インターフェロンαやインターロイキン2といった、人体で働く生理活性物質を用いるもので、エビデンス(科学的根拠)にも則った治療です。腎がんに関しては、抗がん剤の治療効果はほとんど期待できないためサイトカイン療法が選ばれます。

ただし、サイトカイン療法は、効果に限界があり、サイトカイン療法のみで根治することは極めて稀です。


*2 分子標的薬の登場

腎がんは、少し前までは、外科手術とサイトカイン療法ぐらいしか治療方法がなく、サイトカイン療法でも、奏効率は一般的に約15パーセントと、治療成績は決して満足がいくようなものではありませんでした。しかし、2008年にネクサバール(一般名ソラフェニブ)、スーテントという分子標的薬が相次いで登場したことで、腎がんに対してサイトカイン療法を遙かに上回る効果のある治療が行えるようになったのです。腫瘍縮小効果という点では、安定状態も含めると、約8割の人が分子標的薬によって効果が得られる時代になってきています。

分子標的薬の2剤は、標的としている分子は微妙に異なりますが、それぞれ、がんの増殖を抑制する働きと、がんの増殖に必要な酸素と栄養を運ぶ血管の新生を阻害する働きを持つという点では共通しています。これらを臨床で使用してみると、ネクサバールは効果がやや劣る分、副作用がマイルドであり、スーテントは効果が優れているものの、その分、副作用も強い傾向が見られます。そのため、患者さんごとに状況を診ながら薬剤を選ぶということが必要になってきます。

しかし、今回の長谷川さんのケースでは、既にサイトカイン療法の効果が薄れ、肺以外にも脳に転移していたことから、効果の高いスーテントの使用を決めました。


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