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手足症候群を上手く手なづけてやることが長期延命のコツ
分子標的薬で腎がんと共存しながら普通の暮らしを

監修:江藤正俊 九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野講師
取材:「がんサポート」編集部
発行:2008年11月
更新:2013年4月

  
江藤正俊さん
九州大学大学院医学研究院
泌尿器科学分野講師の
江藤正俊さん

2008年4月から腎がんの治療薬として医療現場に登場してきた分子標的薬。手術、サイトカイン療法以外にこれといった効果のある治療法がなかった腎がん患者さんには朗報だ。ただし、やっかいなのは手足症候群という副作用。
この予防に努めたり、発症しても上手く手なづけてやることが長期延命のコツのようだ。

がんと共存しながら普通の生活を

分子標的薬のネクサバール(一般名ソラフェニブ)が、腎がんの治療薬として日本で承認されたのは2008年の4月。それからまだ半年しかたっていないが、すでに1600例も使用されており(2008年9月時点)、治験などで数年前から使っている人もいる。そうした中には、長期延命に成功した症例もある。

治験にも携わった九州大学大学院泌尿器科学講師の江藤正俊さんに、2つの症例を紹介してもらった。

症例1

60代の男性。他の病院で腎臓の摘出手術を受け、九州大学病院を受診したときには、インターフェロン、インターロイキン-2はすでに効かなくなっている段階だった。両側の副腎に直径10センチメートルほどの大きな転移巣があった。

「副腎の転移は手術で取るのはとても無理で、これまでの常識では、どうにもならないな、という状態でした。ちょうどネクサバールの治験が始まるところだったので、患者さんに説明し、やってみることになったのです」

ネクサバールを使い始めると、副腎の腫瘍は最初だけ少し小さくなったが、後は大きさが変わらなかった。評価判定基準に従えば、評価は「SD(安定)」。だが、このSDの状態が1年半も続いたのだ。

「ネクサバールは内服薬で、患者さんはずっと自宅で過ごすことができたので、本人もご家族も喜んでいました。副作用として高血圧が出ましたが、降圧剤でコントロールでき、問題はありませんでした」

ネクサバールが効かなくなるまでの約1年半、この患者さんは、がんと共存しながら通常の生活を送ることができた。

症例2

初診時に、すでに肺や骨などへの多発転移が見つかっていた。手術で腎臓を摘出し、がんの組織型を調べたところ、集合管がんというタイプの腎がんであることがわかった。

「集合管がんは予後が悪いタイプの腎がんで、サイトカイン療法はまず効きません。膀胱がんで使われるM-VACという多剤併用化学療法を行うこともありますが、実は効かないという研究結果を耳にしました。患者さんが『家で死にたい』という希望を持っていたこともあり、内服薬のネクサバールを使うことになったのです」

ネクサバール開始後、肺転移には効果が現れたが、新病変が出たため効果判定はPD(進行)となった。しかし、患者さんのQOL(生活の質)は高く保たれ、9カ月間ずっと通院で治療を受け、希望通りに自宅で普通の生活を送った末に亡くなったという。

「M-VAC療法をやっていたら、副作用で辛い思いをしますし、2クールの治療で3カ月間は入院です。無理な抗がん剤治療でQOLを低下させなくてよかったと思います」

この患者さんは、亡くなる1カ月前に温泉に旅行することもできたという。

[ソラフェニブで有効(PR)例となった73歳の女性患者]

治療前
(2005年1月28日)
CT写真:治療前
治療6週後
(2005年3月18日)
CT写真:治療6週後

73歳、女性の腎がん患者さんの肺転移のCT写真。左がソラフェニブによる治療前、右が治療後。治療前、両肺の4カ所で転移巣が見られたが、治療後2カ月足らずで腫瘍は小さくなった

抗がん剤も放射線も腎がんには効果がない

写真:淡明細胞がんと呼ばれるタイプの典型的な腎がん
淡明細胞がんと呼ばれるタイプの典型的な腎がん

腎がんは日本では増加しつつある。かつては、毎年1万人程度が新たに発症すると言われていたが、現在では、それよりも増えていると考えられている。

「最近は偶発がんが増えています。偶発がんとは、CTや超音波検査を受けたときに、偶然見つかる腎がんのこと。腎がんと診断される人の約半分を占めるようになっています」

腎がんの治療は手術が中心で、根治的治療が可能な段階で発見されればもちろん手術が行われるし、転移がある場合でも、基本的には手術が行われるという。手術できないのは、全身状態が悪く、手術が明らかにマイナスと考えられる場合だけだ。

そして、転移がんや、手術後に再発したがんに対しては、サイトカイン療法(インターフェロンやインターロイキン-2による治療)が標準治療として行われてきた。

「初診時に転移があっても、まず手術を行い、それからサイトカイン療法を行います。手術に意味があるのかと疑問に思うかもしれませんが、もちろんエビデンス(科学的根拠)はあります」

初診時すでに転移がある腎がんに対し、手術で原発巣を取ってからサイトカイン療法を行った場合と、手術せずにサイトカイン療法を行った場合を比較した臨床試験が行われている。その結果、手術したほうが明らかにいいという結果が出ているのだ。

ただ、従来はサイトカイン療法が効かなくなると、もう次の治療法がなかった。抗がん剤治療も放射線療法も効果がないからだ。

「抗がん剤で認可されている薬はありませんでしたし、放射線療法も骨転移や脳転移に対して使われるだけです。患者さんも臨床医も、新たな治療を待ち望んでいました」

そこに登場したのが、分子標的薬だった。まずネクサバールが承認され、3カ月後にはスーテント(一般名スニチニブ)も承認されている。新たな治療薬が一気に2つも増え、サイトカイン療法しかなかった転移再発腎がんの治療に風穴があいたのである。


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