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全摘すると腎機能低下で慢性腎臓病→心筋梗塞などになる危険が高まる
やっぱり「1つより2つ」の腎がんの温存療法

監修:近藤恒徳 東京女子医科大学泌尿器科講師
取材・文:町口充
発行:2008年11月
更新:2013年4月

  
近藤恒徳さん
東京女子医科大学
泌尿器科講師の
近藤恒徳さん

体内には腎臓が2つあり、片方を取り除いても、もう片方が残っていれば機能することが可能だ。従って、従来腎がんが見つかると、片方の腎臓を全て摘出する手術法が標準的であった。しかしここにきて、その手術法に変化が見られている。腎臓をすべて摘出するのではなく、腫瘍の部分だけを取り除いて後は残すという腎がんの温存療法が盛んに行われるようになってきたためだ。温存療法のメリット・デメリットは何か。積極的に腎がん温存療法に取り組んでいる東京女子医科大学泌尿器科講師の近藤恒徳さんに話を聞いた。

血流を1度遮断して手術

腎がん手術の方法は大きく分けて2つある。1つは腫瘍がある腎臓をすべて摘出する根治的腎摘出術(以下、腎摘と略)。もう1つが腫瘍とその周囲の組織だけを切除して腎機能を温存する腎部分切除術だ。

「部分切除では、腎臓にそのままメスを入れると大出血してしまうので、血流を1度遮断します。その上で、腫瘍とその周囲の組織を切除し、露出した血管を細かく縫い潰して、最後に切除面を縫い合わせ、再び血流を再開させます。この方法だと、たとえば腎臓の下の部分を取ったとしても上のほうの機能は残り、腎機能が温存されるという大きなメリットがあります」

こう語るのは、東京女子医科大学泌尿器科講師の近藤恒徳さん。同大学では、すでに約1200例の腎がん手術を手がけ、部分切除の症例も多い。

近藤さんによると、部分切除術自体はすでに80年代後半から行われるようになっているという。2つある腎臓のうち1つがないといった患者が対象である。腎臓をすべて取ると人工透析が必要となるため、透析を回避する次善の策として行われてきた。

無理して腎温存すると、再発や合併症を起こす可能性があり、また残した腎臓に小さながんが隠れていて、局所再発する危険があるという考えから、片方の腎臓が正常な場合はあえて温存する方法はとられてこなかったという。

「ところが、実際にそういう患者さんを見ていくと、腎臓を残したことによる再発や合併症などのデメリットがあまりない。だとするなら最初から、反対側の腎臓が正常な方でも、部分切除術の方法をとっていいのではないかと、普及してきました」

そして、2000年をすぎた頃から、4センチ大までの腫瘍であれば、腎摘と手術成績が変わらないという研究報告が多く出るようになったという。現在部分切除術の対象は、基本的に腫瘍の大きさが4センチ以下となっている。

[腎部分切除術]
写真:淡明細胞がんと呼ばれるタイプの典型的な腎がん

出典:『図説泌尿器科手術書』(MEDICAL VIEW社)を改変

生存率、再発率に差はない

実際、部分切除に関するデータも少しずつ出てきている。

東京女子医大の成績を見ると、病期が1a期(腫瘍が4センチ以下)で転移なしの患者(部分切除172例、腎摘286例)を10年間観察したところ、非再発率は部分切除99.3パーセントに対して腎摘97.7パーセント、がん特異的生存率(がんで死亡しなかった人の割合)は、部分切除100パーセント、腎摘99.1パーセント、全生存率では部分切除86.6パーセント、腎摘80.6パーセントという結果で、差がなかった。

[4センチ以下の腫瘍に対する東京女子医大・腎部分切除術の成績(全生存率)]
図:4センチ以下の腫瘍に対する東京女子医大・腎部分切除術の成績(全生存率)

部分切除による合併症の危険はどうか。

「尿瘻といって尿が漏れる状態になった方が2例、術後に急性腎不全となって一時的に透析が必要になった方が1例、術後出血を起こした方も1例しかなく、合わせても2パーセントほどでしかありませんでした」

残った腎臓からの局所再発はどうだろうか。

「局所再発は5例ありますが、いずれも反対側の腎臓がない方で局所再発しやすいタイプの人など特殊な例です。腎臓が正常に機能している方では134例中1例もなく、0パーセントです」

外国の研究でも、部分切除と腎摘の成績を比較したところ、がん特異的生存率や再発率で両者に差がないことが報告されている。

[4術式別の全生存率]
図:術式別の全生存率

手術が施行された65歳未満の患者327人の術式別全生存率
(4センチ以下の充実性腎腫瘍)
出典:The Journal of Urology 179:468-473,2008

そこで、日本泌尿器学会がまとめた07年版の「腎癌診療ガイドライン」では、腎部分切除について「制がん性は根治的腎摘除術と同等で、とくに腎機能保持の面で有用であり、腎部分切除は推奨される」とし、推奨グレードは、日常診療で実践するよう推奨するという「B」が付いた。

また、同ガイドラインの診療アルゴリズム(診療の手順を図式化したもの)でも、4センチ以下の1a期でリンパ節・遠隔転移がない場合は「部分切除または腎摘除」となっていて、部分切除がスタンダード(標準)治療の1つとしてあげられている。

ただし、4センチ以下の1a期ならすべてが部分切除の対象となるかというと、必ずしもそうはならない。腫瘍が腎臓の真ん中や内側にあるケースでは腎臓を残すのが難しい場合があり、東京女子医大でも、4センチ以下の1a期の10~20パーセントは腎摘の適応となっているという。


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