進行別 がん標準治療
治療の基本は手術。しかし、患者により負担の少ない治療法が最近の流れ
北大病院泌尿器科講師の
篠原信雄さん
腎臓がんは、他のがんと大きく異なり、異彩を放っています。
たとえば腎臓がんには抗がん剤がほとんど効かないとか、
逆に、免疫療法が効果を発揮することとか、
さらには数はまれですが自然退縮する例まであるなど、
実にユニークながんといえます。
もっとも、治療までユニークというわけではありません。
腎臓がんの治療は、あくまでも手術が基本です。
ただ、最近は治療に対する考え方が大きく変わってきています。
手術は手術でも、腎臓を含めて大きく取る手術から、
腎臓を温存する手術へと流れが移ってきていますし、また手術以外でも、
凍結療法やラジオ波焼灼療法といった新しい治療の芽も出つつあり、
患者にとっては目が離せなくなっています。
腎がん、腎細胞がん、腎腺がん
北大泌尿器グループによる
手術シーン
腎臓は、腰のちょうど上、背骨の両側に二つあります。握りこぶし程度の大きさで、ソラマメのような形をした器官です。体内を循環してきた血液を濾過し、老廃物を取り除いて、尿をつくって排泄します。もっとも、他にも、血圧のコントロールや赤血球を作ることに関するホルモンの産生なども行っています。1日に腎臓に送られる血液の量は実に180リットル、ドラム缶約1本分です。 これを濾過して出てくる尿は、約0.8~1.5リットルで、トイレに行く回数は1日に約4~6回とされています。
尿をつくるのは腎臓内のネフロンと呼ばれる組織ですが、腎臓それぞれに100万個ほどもあります。非常に複雑な構造をしており、血液を濾過して尿の原液をつくる「糸球体」や糸球体がつくり出した原尿を運ぶ「尿細管」などからなっています。この尿細管内から発生するがんが、一般に言われる腎臓がんです。腎がん、腎細胞がん、腎腺がんとも呼ばれ、腎臓にできるがんの9割を占めます。
さて、ネフロンでつくられた尿は、腎臓の一部である腎盂と呼ばれる中空の器官に集められ、そこから尿管と呼ばれる長い管を通って、膀胱へと流れ込み、やがて体外へと排泄されます。このようなところにできるがんは腎盂がん、尿管がんなどと呼ばれますが、そのほとんどは前の腎臓がんと違い、膀胱にできるがんと同じ仲間の移行上皮がんと呼ばれて区別されています。
曲者の性質を持ったがん
その腎臓がんの特徴について、北海道大学医学部付属病院泌尿器科講師の篠原信雄さんはこう説明します。
「従来少ないがんの一つとされてきたがんですが、1980年代から急速に増加し始め、前立腺がんよりは少ないものの、いまや泌尿器系がんの代表の一つである膀胱がんや前立腺がんと並ぶほどにまでなっています。昔は、腎臓が体の奥深いところにあるため、かなりがんが大きくならないと症状が出ず、なかなか早期には発見されませんでした。しかし、最近では超音波やCTなどによる他の臓器の検査中に発見されることが多くなってきました。このことも影響しているようです。
腎臓がんは、がんの中では非常にゆっくりと大きくなるタイプが多いのですが、急速な悪化を示すタイプもみられます。また静脈の中にがんが広がる(腫瘍塞栓)傾向が強く、肺や骨に転移しやすく、長期にわたって再発することもあるなかなか曲者の性質を持ったがんです」
現在、国内の腎臓がんの患者数は約1万5000人。好発年齢は50~60代。膀胱がんや前立腺がんと比較して10年若い世代に多く発見されます。女性よりも男性に2、3倍多いのも特長です。
頻度 | 男女差 | 特徴 | |
---|---|---|---|
淡明細胞がん | 80-90% | 5:1 | いちばんポピュラーな組織。一般に腎がんといえばこれを指す。 |
嫌色素細胞がん | 10% | 1:1 | 比較的予後良好な群。インターフェロンが効かないとされる。 |
乳頭状腎細胞がん | 5% | 5:1 | 比較的予後不良な群。インターフェロンが効かないとされる。 |
嚢胞性腎細胞がん | まれ | ? | 一番予後良好な群。 |
紡錘細胞がん | まれ | ? | がんというよりは、肉腫に近い群。 |
集合管がん (Bellini管がん) | まれ | ? | 腎がんというより腎盂がんに近い性格のがん。予後不良。 |
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