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樹状細胞ワクチン療法 同治療を受けたい場合には、手術前に要相談

有効な治療成績も出てきた!肝がんの再発予防のための樹状細胞ワクチン療法

監修●小寺由人 東京女子医科大学消化器病センター外科医師
取材・文●伊波達也
発行:2015年6月
更新:2015年7月

  

「肝がんの再発予防として樹状細胞ワクチン療法を行っています」と話す小寺由人さん

肝がんには大きく分けて、肝細胞がんと肝内胆管がんがあるが、両者ともに再発しやすく、たちの悪いがんと言えるだろう。この肝がんの再発予防を目的として、自己のがん組織を利用した樹状細胞ワクチン療法が効果を示しているという。

手術後に再発しやすい肝がんを対象に先進医療として実施

第4世代の免疫療法である免疫ワクチン療法は、昨今話題になっている第5世代の免疫チェックポイント阻害薬による治療などに比べると、現時点でがんを根治するという劇的な効果は期待できていない。しかし、手術後の再発予防などの補助療法としては、意義のある治療法と言われている。

そういうコンセプトに基づいて、自己がん組織から抽出した抗原を利用した樹状細胞ワクチン療法を実施しているのが、東京女子医科大学消化器病センターの外科チームだ。同科でこの治療にあたる小寺由人さんはこう話す。

「当科では、現在、肝細胞がんと肝内胆管がんで根治切除をした症例について、補助療法として、自己腫瘍抽出抗原による樹状細胞ワクチン療法を実施しています。この治療を始めた03~04年当初、それらのがんには補助療法としての化学療法がありませんでした。例えば、肝内胆管がんには、今でこそTS-1やジェムザールといった薬があるものの、当科が樹状細胞ワクチン療法を始めた当初は、保険で使える薬がなかったのです」

肝がんは、根治手術をしても、1年で4割、2年では6割の人が再発してしまう。一方、肝内胆管がんも、リンパ節転移があると一般的に予後は2年くらいと非常に厳しく、また術後の再発率も高いがんでもある。

東京女子医大では、こうした肝細胞がんおよび肝内胆管がんを対象に、自己腫瘍抽出抗原による樹状細胞ワクチン療法を先進医療として06年より実施、現在までに約200例弱の患者さんの治療にあたっている。

TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム ジェムザール=一般名ゲムシタビン

自分のがん組織を利用した樹状細胞ワクチン療法

図1 原発性肝がん術後補助療法としての
樹状細胞ワクチン療法

自己腫瘍抽出抗原による樹状細胞ワクチン療法とは、樹状細胞が「抗原提示」といって、攻撃する標的を教えることができる細胞であることを利用し、手術時に切除したがんを、切除した直後にCPC(セル・プロセッシング・センター)という細胞精製を行う無菌室に保管し、樹状細胞にそのがんを食べさせる。樹状細胞が食べたがんを咀嚼すると、がんの情報を提示できるようになる。

それを手術の1カ月後ぐらいに、患者さんの体内に戻すと、樹状細胞は表面にがんの情報を提示する手を出して、リンパ球と握手をしながらその情報を教える。するとリンパ球は教えられた情報を攻撃型のリンパ球に伝達し、その情報を基にがんを叩きにいくのだ。

この治療コンセプトは、ペプチドワクチン療法とほぼ同様だが、ペプチドワクチン療法が人工的にがんワクチンを作って体内に注入するのに対して、自己腫瘍抽出抗原による樹状細胞ワクチン療法は、患者さん本人のがん組織を利用してがんワクチンを作るという違いがある。

同科では、当初から手術による根治切除後の再発予防を目的としており、肝内胆管がんと肝細胞がんの手術後の患者さんを対象に、自己腫瘍抽出抗原による樹状細胞ワクチン療法の効果を検証する臨床試験を実施し、その結果を発表している(図1)。

肝内胆管がんの再発予防に樹状細胞ワクチン療法が効果あり

肝内胆管がんでは、2005年から2010年に同科で根治切除術を行った96例のうち、肝内胆管がんの中でも予後が極めて悪い腫瘤形成型・胆管浸潤型72例を対象にした。自己腫瘍抽出抗原を使用した樹状細胞ワクチンを毎月1回、皮下注射として6カ月間行い、その後2~4カ月ごとに維持療法としてワクチンを投与した(図2)。

ワクチンを投与した28例とワクチンを投与しなかった44例で、3年無再発生存率および3年累積生存率を検討した。3年無再発生存率は、ワクチンを投与した免疫群が43%(中央値40カ月)で、非免疫群は27%(同7カ月)と、免疫群のほうが有意に延長していた(図3)。

図2 基本プロトコール
図3 肝内胆管がんの術後補助療法としての
樹状細胞ワクチン療法の効果(無再発生存率)

一方、3年累積生存率についても、免疫群48%(同57カ月)、非免疫群39%(25カ月)と、有意差はなかったものの免疫群のほうが予後良好な結果であることが明らかになった(図4)。

図4 肝内胆管がんの術後補助療法としての
樹状細胞ワクチン療法の効果(累積生存率)

図5 ワクチン投与での皮膚反応例

ワクチン投与では、皮膚反応が陽性に出る症例があるが、その陽性例は28例中20例(71.4%)に見られ(図5)、陽性反応が出た群(陽性群)と非免疫群を比較すると、3年無再発生存率は、陽性群54%に対して非免疫群は29%と、陽性群のほうが有意に延長していた(図6)。

また、3年累積生存率についても、陽性群62%に対して非免疫群は43%と、陽性群のほうが有意に延長していることがわかった(図7)。

図6 肝内胆管がんの術後補助療法としての
樹状細胞ワクチン療法の効果(皮膚反応の有無別、無再発生存率)

図7 肝内胆管がんの術後補助療法としての
樹状細胞ワクチン療法の効果(皮膚反応の有無別、累積生存率)

「この結果から、肝内胆管がんの術後の再発予防として、樹状細胞ワクチン療法は有効であると考えました。また、皮膚反応で陽性を示す症例は、生存率を有意に延長することもわかり、一方で皮膚反応を示さない陰性の場合は、樹状細胞ワクチン療法の効果が見られないこともわかりました」

肝細胞がんでも有効性が示される結果に

肝細胞がんについては、ワクチン投与群42例と非投与群52例で比較を行った。肝内胆管がんと同様の投与方法で行ったところ、3年無再発生存率はワクチンを投与した免疫群が35.7%(同24カ月)、非免疫群が11.5%(同12カ月)と、免疫群のほうが有意に延長していた(図8)。

5年累積生存率も、免疫群で64.3%(同97カ月)、非免疫群で44.2%(同41カ月)と、免疫群で有意に延長していることがわかった(図9)。

図8 肝細胞がんの術後補助療法としての
樹状細胞ワクチン療法の効果(無再発生存率)

図9 肝細胞がんの術後補助療法としての
樹状細胞ワクチン療法の効果(累積生存率)

また、免疫群において、皮膚反応陽性22例と陰性20例を比較したところ、3年無再発生存率は、陽性群で54.5%に対して、陰性群は15.0%。5年累積生存率は陽性群77.3%に対して、陰性群は50.0%だった。

肝内胆管がんと同様、肝細胞がんに対しても、根治手術後の再発予防として、樹状細胞ワクチン療法の有効性が示される結果となった。

「現在、肝細胞がんについては、再発しにくい単純結節型で2㎝程度のものは治療適応にせず、再発率の高い脈管浸潤しているような症例について治療を推奨しています」

今後は、膵がんをはじめ、再発転移を起こすと極めて生命予後の悪いがんに対して、予防という観点から貢献できそうだ。

治療を受けたい場合は手術する前に相談を

しかしその一方で、この治療にはいくつかの弱点もあると小寺さんは話す。

「自己抽出抗原を用いた樹状細胞ワクチン療法というのは、ある意味、完全なオーダーメイド治療ということが言える一方で、患者さん個々のがんを利用して行う治療だけに、切除して採取できたがんの量に応じてしか治療が継続できません。治療に使う腫瘍がなくなるとその時点で治療は中止を余儀なくされるのです。

さらに、ペプチドワクチンは人工的に作ったものなのでアミノ酸の配列が100%わかりますが、この治療に使うのは患者さん個々の自己組織であるため、科学的検証がしにくい点もあげられます。また、特別な無菌室を用意しなければならないなど、施設基準が厳しいので、現時点ではなかなか普及が進んでいません」

なお、この治療を受けようとする際に、患者さんには注意してもらいたい点もある。

「繰り返しになりますが、この樹状細胞ワクチン療法とはあくまでも外科的なアプローチとして、根治手術を行った上での、再発予防としてのコンセプトです。薬物療法を繰り返して万策尽きたような場合に行う治療ではないということを認識していただきたいと思っています。

また、転移性肝がんの場合は、現在、化学療法をはじめ有効な治療法が様々ありますので、エビデンス(科学的根拠)が十分確立された従来の治療を受けてもらうよう勧めています。どうしても樹状細胞ワクチン療法を行いたいという場合は、腫瘍内科の先生とも相談して化学療法と併用して、治療を妨げない方法で行うようにしています」

現在、東京女子医科大学で行っている樹状細胞ワクチン療法は、先進医療に組み入れられており、患者さんは13万円の実費で受けることができる。

「がんの治療は、手術前に術後にどういう治療を選択するべきかも含めてじっくり考えておくことが必要です。もし、樹状細胞ワクチン療法を受けたいという方は、手術前に決めないと受けられませんので、治療を希望する方は、当科を受診するか、事前に問い合わせてください」

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