運動能維持のための呼吸法の調整
社会復帰目標に個別的な対応を図る 肺がん手術前後のリハビリテーション
手術後のリハビリテーション(以下リハビリ)はどのがん種でも大切だが、胸を開き、しかも呼吸器の一部を切除する肺がんでは息苦しさへの対応がより求められる。術前の指導から実際のリハビリまでを聞いた。
術後のリハビリは「運動」を重視
「肺がん手術後のリハビリは『運動』を重視します。それに伴う呼吸の深さや速さ、そして体力をみたりします」
亀田総合病院リハビリテーション室副室長(理学療法士)の鵜澤吉宏さんは、動きの中での呼吸の大切さを強調する。開胸手術後のリハビリの目的が早期の日常生活動作(ADL)の回復であることを強く意識しているためだ。
肺がん手術の合併症には、どのようなものがあるか。まず、肺を切除することによって肺容量が減るので、肺活量が低下する(図1)。それに加えて、術後は寝ていることが多いので、呼吸運動に必要な横隔膜が上に上がり、機能的残気量(FRC)が低下する。痰が一時的に増えるが、手術部の傷の痛みのため咳が十分にできない。痰を排出する力が低下することで肺炎なども生じる。また、心機能や腎機能が低下すると肺水腫を起こすこともある。
海外の研究では、リハビリをしても5~10%未満で合併症が見られるという。リハビリがなければ数字はさらに上がることになる。
禁煙指導からリハビリの意義説明まで
リハビリは術前から始まる。鵜澤さんの所属する亀田総合病院では、手術数日前の入院が平均的になっている。
「まずは、禁煙から始めます。肺がんは喫煙者が多く、普通よりも息が切れやすい、痰が出やすいといった人に多い傾向があります」
次に、手術前に体力を測定する。術後の回復具合と比較するためだ。6分間でどれだけ歩けるかを測定したり(6分間歩行試験)、階段昇降の様子を見たりする。手術が適応になるくらいなので、この時点で安静時にゼイゼイしていたり、階段が上れなかったりという患者さんはいない。手術でどれくらい体力が低下するのかしないのか、不安であったり、過信があったりなど様々だ。
「術前で大事なのは、『体力が落ちるのでリハビリの練習をしましょう』という説明をした上で、患者さんの理解を得ることです」
腹式呼吸を意識する
術前の練習で主となるのが、呼吸の仕方だ。腹式呼吸を意識する。リズムを覚えることが最大の目的だ。
「手術後は肺活量が低下するため、いわゆる『呼吸が上がった』状態になります。吸ったり吐いたりの際の〝遊び〟がなくなってしまうのです。たくさん吸えないのでその分、呼吸のペースが速くなります。その調整のための呼吸法です」
具体的には、息を吐く時間を長くする。楽な姿勢で鼻から吸って、口から「フー」と吐き出す。座るか、仰向けでも膝を立てる。病院のベッドは30~45度の角度があるが、その場合でも軽く膝を曲げる。呼吸のペースは、吸う時間を1とすると吐く時間は2。1分間に12~15回ほどの呼吸数が理想なので、1秒強吸って、3秒くらいで吐くというイメージだ(図2)。
手を腹に乗せていると腹式呼吸を意識できる。日常生活では無意識にしていることだが、いざ意識してみると、戸惑う人もいるという。
「腹式呼吸は男性はできやすいですが、女性は肩に力が入ってしまうことがあります。その場合は寝た状態で練習し、要領を得たら、『次は座ってやりましょう』という感じで進めます」
ちなみに、鼻から吸う理由は、鼻毛で空気中のチリを除去するとともに、鼻の奥には毛細血管がたくさんあり、それによる加温と加湿の効果があるため。口から吐くのは、口は開ける大きさを調節できるので、息の出口を調整することで吐く時間を長く取ることができるからだ。
痰は大きく吸って一気に出す
痰を出すための咳の要領を覚えることも重要。術後は痰が出やすくなることがある。
「痰を出すための咳に専念してしまいがちですが、肺に空気がなければ咳をしても出せません。まずは吸わなければだめということです」
コツは「フー」と息を吐き出してから、しっかり大きく吸って、一気に出すこと。
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