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局所進行がん治療だけでなく、早期がんでも手術に匹敵する治療成績
進行度別に見る「肺がんの放射線治療」

監修:早川和重 北里大学病院放射線部部長
取材・文:柄川昭彦
発行:2007年7月
更新:2013年4月

  
早川和重さん
北里大学病院放射線部部長の
早川和重さん

肺がんの放射線治療は、治療技術の進歩によって大きく変わってきた。
局所制御率が向上することで、早期がんに対しては、手術に匹敵する治療成績を上げるまでになっている。
また、局所進行がんには抗がん剤との併用療法が行われ、骨や脳の転移巣を伴う進行がんに対しても対症的に放射線治療が行われている。

照射技術と画像診断の進歩が早期がんの治療を変えた

一般に、がんは早期のものほど治しやすい。肺がんの放射線治療でも、それはまったく変わらない。北里大学病院放射線部部長(教授)の早川和重さんによれば、がんが小さければ小さいほど治しやすいというのが、放射線治療の大原則だという。なぜなら、がん細胞は照射する放射線の量に応じて死ぬので、がんが小さければ、がん細胞数も少なく、少ない放射線で死滅させることができるからである。

がんが大きくなって細胞数が増えると、治療にはたくさんの放射線が必要になる。ところが、人間の体には放射線をかけられる限界があるので、大きくなったがんは治すのが難しくなる。

「最近は、放射線を照射する技術と画像診断の技術が進歩したことで、できるだけ正常組織を避け、がんに集中して多くの放射線をかけられるようになってきました。そのため、早期のがんでは高い治癒率が期待できるようになってきました」

照射技術としては、ピンポイント照射と呼ばれる定位放射線治療の登場が大きい。複数の方向からがんを目標に照射するため、周囲の組織には放射線があまりかからず、がんに集中させることができる。

また、画像診断の進歩によって、がんの位置を正確に、3次元的につかめるようになったことも、がんを正確に攻撃するのに役立っている。

ただ、肺は呼吸するときに動く臓器なので、動かない臓器に比べると、ピンポイント照射が難しい。呼吸を止めている間に照射する方法もあるが、最近ではX線などによる透視画像を使い、呼吸による肺の動きに合わせて、放射線を照射する治療も行われるようになっているという。これを画像誘導放射線治療(IGRT=イメージ・ガイデッド・ラジオ・セラピー)と呼んでいる。

また、北里大学病院では、動体追跡照射という方法によるIGRTが行われている。この治療を行うためには、気管支鏡を使い、がんの周囲に金のマーカーを3~4個入れておく。そして、2方向からX線透視することにより、マーカーとの関係からがんの位置を正確に割り出し、がんが狙った位置にきたときだけ、放射線を照射するのである。金のマーカーは腐食しないので、治療が終わっても取り出さなくていいという。

[動体追跡による体幹部定位照射システム]
動体追跡による体幹部定位照射システム

1期の肺がんなら手術に匹敵する効果

[定位照射の症例]
写真:定位照射の線量分布図の一部

定位照射の線量分布図の一部

写真:放射線治療後2年半のCT画像

66歳女性。右肺腺がんの1A期。放射線治療後2年半のCT画像。照射野に一致した線維症の所見が見られるのみ。再発もなく生存中

ピンポイントで放射線を照射できるようになったことで、早期の肺がん(とくに1期)に対する治療成績は向上した。早期がんの場合、標準治療とされているのは手術だが、なかにはこの段階で発見されても手術できないことがある。高齢であるとか、何らかの合併症を持っているような場合だ。

「このようなケースで、手術より侵襲(傷)の少ない放射線治療が行われることがあります。以前、2次元照射が行われていたころは、かけられる放射線量に限りがあったため、局所再発例がかなりありました。それに比べ、ピンポイント照射ができるようになってから、局所制御率は確実に向上しています」

現在、国立がん研究センターに事務局のあるJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)を中心に、北里大学の放射線部も加わって、早期肺がんに対する放射線治療の治療効果を調べる臨床試験が行われているという。手術可能例(手術できるが手術を拒否した患者)と手術不能例(早期がんだが何らかの理由で手術できない患者)に分けて登録し、放射線治療の治療効果を調べようという臨床試験である。

「手術できるけれど、放射線治療で治療したいという患者さんは増えています。あと2~3年すれば、臨床試験の結果を踏まえて、ある程度はっきりしたことが言えるでしょう。今までの経験から言えば、手術に比べて遜色はないという印象ですね」

ただ、手術と放射線治療では、治療効果に微妙な違いがあると早川さんは言う。手術(肺葉切除+リンパ節郭清)は局所制御率が優れているが、リンパ節への再発や遠隔臓器への再発が問題となる。一方、放射線治療のほうは、よくなったとはいえ局所の再発が問題で、リンパ節再発や遠隔再発は手術の場合より少ないのだ。

放射線治療は日数がかかるのが欠点の1つだったが、ピンポイント照射が行われるようになって、治療期間は短縮されている。前と後ろから挟み込むように照射する2次元照射では、1回2グレイで、30~35回照射する治療が行われていた。この治療は1週間に5回として、6~7週間が必要となる。

ところが、4~5方向から3次元的に照射する方法では、1回に2.5~3グレイかけられる。3グレイなら、4週間で60グレイを照射することが可能だ。

また、前述の定位放射線治療の臨床試験では、1回12グレイを4回連日で照射する治療法が用いられているという。がんが狭い範囲に限局している場合には、こうした治療を行える可能性がある。

「12グレイを4回だと合計48グレイですが、1回の照射量が多いほど、がんが受けるダメージは大きくなります。この方法だと、通常の100グレイに相当する効果があると言われています」

4回の照射ですめば、治療期間でも手術とあまり変わらなくなるだろう。

[3次元原体照射例]

図:総量―体積ヒストグラム

写真:治療前
75歳男性。右肺上葉腺がんの1期。治療前
写真:治療後3カ月後

60グレイ(20回照射)の治療後3カ月後。がんはほとんど消失

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