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小細胞肺がんに17年ぶりの新薬登場! 初の免疫チェックポイント阻害薬・テセントリク承認

監修●西尾誠人 がん研究会有明病院呼吸器センター長
取材・文●菊池亜希子
発行:2020年2月
更新:2020年2月

  

「小細胞肺がんは進行が早いので、化学療法で進行を抑えながら免疫療法の反応が出るのを待つ、という治療戦略が功を奏したのではないかと思います」と語る
西尾誠人さん

非小細胞肺がん治療は、ここ数年、目覚ましい進歩を遂げてきた。一方、この20年弱、新しい治療法も薬も登場しなかった小細胞肺がん。そんな中、昨年(2019年)、長い沈黙を破って待望の新薬が承認された。これまでの化学療法に免疫チェックポイント阻害薬テセントリクを併用することで、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)ともに延長されることが証明されたのだ。小細胞肺がん治療がようやく次の段階へ一歩踏み出した――。

17年ぶりの新薬登場

肺がんは「小細胞肺がん」とそれ以外の「非小細胞肺がん」に分けられ、両者は性質も治療法も全く異なる。ここ数年、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、肺がん治療の進歩がテレビニュースなどでも大きな話題になってきたが、実はそれらはすべて非小細胞肺がん治療に関するものだった。

肺がん全体の10~15%を占めると言われる小細胞肺がんの治療法は20年ほど前から変わらず、複数の抗がん薬を組み合わせる化学療法(もしくは化学放射線療法)が中心。非小細胞肺がんに比べると、取り残された印象が拭えない状況が続いていた。

ところが昨年(2019年)、17年ぶりに新薬が登場した。進展型小細胞肺がんの初期治療に対し、それまで標準治療だった化学療法に、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1抗体)テセントリク(一般名アテゾリズマブ)を併用することが承認され、2019年12月に改訂された「肺がん診療ガイドライン」にも標準治療として明記されたのである(図1)。

小細胞肺がんとはどんな病気?

新薬について詳しく述べる前に、まずは小細胞肺がんについて整理してみよう。

小細胞肺がんの原因は、ほぼ喫煙。肺がん全体の10~15%が小細胞肺がんと言われているが、「喫煙者の減少に伴い、臨床的にもその比率は少しずつ下がってきている印象があります」と、がん研究会有明病院呼吸器センター長の西尾誠人さんは話す。

とはいえ、タバコの影響は禁煙してすぐになくなるわけではない。20年ほどは影響が続くとも言われているそうだ。また、小細胞肺がんは咳(せき)、息切れ、リンパ節の腫れ、さらには急激な体重減少といった症状で病院を受診して発見されることが多い。

小さながん細胞が密集して広がっていく様子から「小細胞肺がん」と名付けられたわけだが、形はともかく、突出して進行が早いことが小細胞肺がんの特徴だ。進行速度は月単位。半年前のX線(レントゲン)検診では何もなかったのに、あっというまに転移が広がっていることも珍しくない。

「発見した時点ですでにリンパ節転移を起こし、血液の流れに乗って全身へ運ばれていることがほとんどなので、小細胞肺がんは基本的に全身疾患と考えてください」と西尾さんは指摘する。

通常、がんの病期はⅠ~Ⅳ期に分けて手術適応か否かを判断するが、手術ができる早期で発見されることが非常に少ないため、小細胞肺がんはⅠ~Ⅳ期ではなく、「限局型」「進展型」と分類する。限局型は文字通り、病巣が原発巣と同じ側の肺にのみ限局している状態で、原発巣側へのリンパ節転移、そして反対側の縦隔(じゅうかく)リンパ節転移までを含む。一方、原発巣側に留(とど)まらず、反対側の肺やリンパ節へ転移、さらに他の臓器への転移が見られる場合は進展型と分類される。

「考え方として、すべての病巣に放射線照射することができる状態ならば限局型です。それに対し、すでに血液の流れに乗って全身にがんが転移している場合、放射線は照射することができません。つまり、放射線照射が可能か否かで限局型と進展型に分けられます」(図2)

限局型、進展型それぞれの治療法

次に、限局型、進展型、それぞれの治療法を見ていく。

限局型とはいえ、発見時点でほぼリンパ節に転移しているため全身治療が必須。つまり化学療法が治療の基本となる。限局型の場合、「シスプラチン(商品名ブリプラチン/ランダ)+エトポシド(商品名ベプシド/ラステッド)」併用療法(PE療法)が行われ、加えて、局所効果を期待できる放射線治療を併用することで完全奏効(CR)を狙う。

治療効果が確認できたら、つまり病巣が消失(縮小)したら、次に、脳全体への放射線照射(全脳照射)を行う。これも標準治療。化学療法は全身に抗がん薬を行き渡らせるが、脳には血液脳関門という関所の役割をする部位があり、抗がん薬が届きづらい。言い換えると、化学療法で体中の微小転移を叩いたつもりでも、脳にだけは抗がん薬が届いていないことが多いのだ。実際に、肺がんは脳への再発が圧倒的に多いことがわかっている。

再発が確認される前に全脳照射することについて、西尾さんは「乳がんの手術後に、すでに起こしているかもしれない目に見えない微小転移を叩くために術後化学療法を行うことも多くあります。小細胞肺がんの全脳照射もそれと同じ意味合いです」と説明する。

進展型の標準治療は、2002年以降17年間、「シスプラチン+イリノテカン(商品名カンプト/トポテシン)」併用療法(PI療法)だった。それ以前は限局型と同様、「シスプラチン+エトポシド」併用療法が行われてきたが、2002年、当時の新薬イリノテカンに着目して日本で行った臨床試験(JCOG9511試験)で、「シスプラチン+イリノテカン」が「シスプラチン+エトポシド」を上回る結果を出したことから、進展型小細胞肺がんでは「シスプラチン+イリノテカン」併用療法が標準治療になったのだ。

その後17年間、小細胞肺がんに新たな治療法が登場することはなかった。そして昨年、テセントリクの登場で長い沈黙が破られたというわけだ。

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