従来、根治照射不能であった局所進行非小細胞肺がん(Ⅲb期)でも生還可能に
肺がんの新しい放射線療法、IMRT、陽子線治療に高まる期待
これまで根治的な放射線治療ができずに治癒が望めないことが多かった局所進行非小細胞肺がんのⅢb期。そこに、最新の放射線治療を加えて根治を目指そうという考え方がある。装置の進化と医師の技術の進歩により、周辺組織に放射線を当てずに、腫瘍だけ攻撃できるようになった。肺がん治療に放射線を用いる第一人者に現状と今後の展開を伺った。
根治の可能性を奪ってはいけない
局所進行非小細胞肺がんに対する治療は、切除ではなく化学放射線療法が取られる。しかし問題は、腫瘍部だけではなく正常な細胞にまで照射されてしまうことで、根治(こんち)に至るまで十分に放射線量を高められないケースが多いということだった。それが、ここ7年ほどで大きく事情が変わってきた。
「IMRT(強度変調放射線治療)や陽子線を使った高精度放射線治療が次第に広がっています。根治を目指した照射ができる時代になりました」と話すのは、静岡県立静岡がんセンター放射線治療科部長の原田英幸さん。
「医療現場では患者さんからの根治照射に対する要望がとても多いのです。諦めて治療を行なわなければ、その方の根治の可能性を奪ってしまうことにもなりかねません」
日本肺癌学会の診療ガイドラインには根治照射の定義があり、「根治照射とは治癒を目指す照射のことで、病巣部(原発巣およびリンパ節転移)すべてに対して根治線量を照射可能で、しかも正常組織障害を最小限に抑えることができる症例」と記されている。
「根治線量である60Gy(グレイ)以上の放射線量を腫瘍に当てると同時に、リスク臓器とされる正常な肺や脊髄などへの放射線量は耐容量内に抑えることが求められています。許容値を上回ると、肺臓炎や脊髄症という晩期有害事象(イベント)で足の麻痺を起こすこともあるのでそれを避けなければなりません」と解説する。従来型の放射線治療では照射が腫瘍の周辺にも及んでしまうため、この両立ができなかった。
コンピュータ制御で正常部位への照射を避ける
7年ほど前の転機とは、2010年にIMRTがすべての固形がんに対して保険適用されたこと。その2年前に認可された時は、前立腺がんと頭頸部がんだけが対象だったが、一気に適用が拡大されたのだ。それまで根治照射不能とされていた患者にも根治照射の道が開けた。
IMRTは、放射線を当てたいところと守りたいところを患部のCT(コンピュータ断層撮影)画像をもとにコンピュータの複雑な計算を経て立体的に判断し、腫瘍に合わせた放射線の強弱や照射角度の情報をリニアック(直線加速器)に入力して行う。リニアックではマルチリーフ・コリメータ(遮蔽板)で治療計画通りに照射する。放射線治療の範囲が広がり、とくに腫瘍が正常組織を取り囲むように位置している場合には、正常組織を避けて腫瘍に十分な量を当てることができるようになった(図1、2)。
「治療体位でCTを撮って、その画像は診断サーバにデータとして格納されます。次に放射線治療計画システムというコンピュータにエクスポートして、1枚ずつ腫瘍形状や正常組織の位置を入力していきます。そして、出来上がった計画をリニアックを制御するコンピュータにエクスポートして治療を行うという流れになります」(図3)
さらに、位置照合がしっかりできるようになっている。患者の寝方、照射の照準が治療計画の想定位置にきちんと設定されているかがコンピュータを使うことで確認できるのだ。従来法では皮膚に印を付けて、シミュレーションと同じ体位ができているという前提で行われていた。
陽子線治療も視野に
高精度放射線治療では、陽子線治療という、従来の放射線治療(X線)よりも大きな粒子を腫瘍にぶつける先進医療も注目されている。保険適用ではないので280万円(静岡がんセンター)ほどかかるが、肺の線量制約がある患者には陽子線が有利なことが多いという。
原田さんは「正常肺、心臓、食道に当たる線量を減らすのに非常に有効だと思います。これまでは早期がんに使われていましたが、近年は局所進行がんに対しても積極的に適応されるようになっています。言い換えれば、抗がん薬治療と併用するような全身状態(PS)のよい患者さんに使うようになって日が浅いということです。正常肺に当たる放射線量が軽減されるので、肺臓炎のリスクを減らすなど従来の放射線より各段に有害事象を減らすことが可能になります(図4)。今後は、心臓病の合併症を減らすなどの形で有効性が証明されることが期待されています」と述べる。
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