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GIST効果で判明。「がんを増大させない」が生存期間を延長する
注目される消化器がんの分子標的薬の効果

監修:土井俊彦 国立がんセンター東病院内科医師
取材・文:菊池憲一
発行:2006年7月
更新:2019年3月

  
土井俊彦さん
国立がん研究センター東病院内科医師の
土井俊彦さん

従来の抗がん剤に代わって、新しく出現した分子標的治療薬。

すでに乳がんや肺がんなどで効果を上げているが、今最も注目されているのが消化器がんの分野。

大腸がんを皮切りに、消化器の領域に、アバスチン、アービタックス、ハーセプチンなどの分子標的治療薬が続々と登場してきている。この現状を整理してご報告しよう。


分子標的治療薬と呼ばれる新しい薬剤が注目を集めている。

分子標的治療薬とは、生体内にある特定の分子を標的に開発され、その分子の生物活性を抑制したり、発現させたりすることで治療効果をもたらす薬剤のことである。とくに消化器がんに対する分子標的治療薬は、非常に注目されている。欧米では、転移・再発したGIST(gastrointestinal stromal tumor=消化管間質腫瘍)や大腸がん、胃がんなどの消化器がんに対して、たくさんの分子標的治療薬を用いた臨床試験を行っており、すでに標準治療の中に組み込まれている分子標的治療薬も数多い。

消化器がんに対する分子標的治療薬の現状についてご報告しよう。

GISTに対するグリベックの効果

消化器がんに対し、欧米では数多くの分子標的治療薬が使われている。しかし、日本では残念ながら現時点で消化器がんに対して承認されている分子標的治療薬は、GISTに対するグリベック(一般名メシル酸イマチニブ)だけである。そこで、GISTに対するグリべックの治療効果からみていこう。

GISTは、胃、小腸、大腸などの消化管壁にできる「粘膜下腫瘍」と呼ばれる腫瘍である。臓器別の発生頻度は、胃が全体の60~70パーセントと最も多く、次いで小腸が20~30パーセント、大腸が5パーセントと続く。

胃がんや大腸がんなど、がんの多くは粘膜から発生するが、GISTは消化管壁の下にある筋肉層の特殊な細胞から発生するのが特徴だ。その原因の多くは遺伝子に異常が起こることから起こる。C-KITと呼ばれる遺伝子が変異して起こるのが80~90パーセント、その親戚であるPDGF-Rα(血小板由来増殖因子受容体)と呼ばれる遺伝子が変異して起こるのが5パーセント、残り5パーセントはまだ原因不明である。

これらの遺伝子から作られるタンパクは、本来、ある刺激を受けたときだけ、細胞増殖のシグナルを出す仕組みになっている。しかし、KITタンパクに異常が起こると、細胞増殖を促すシグナルのスイッチがオンになる。 その結果、細胞の異常な増殖が起きて、GISTが発症する。こうしたGISTの発症のメカニズムは、兵庫医科大学病院病理学教授の廣田誠一さんらが発見した。この発見で、GISTの基礎研究や治療薬の開発が飛躍的に進んだ。

[GISTはKITタンパクの異常によって引き起こされる]
図:GISTはKITタンパクの異常によって引き起こされる

GISTは、従来、肉腫の仲間に属し、外科手術が唯一有効な治療で、それを繰り返すほか手がなかった。化学療法や放射線治療は効きにくいと言われ、実際、抗がん剤も放射線も効かず、余命は数年というのが常識だった。ところが、分子標的治療薬のグリべックが登場したことによって、再発・進行したGISTでもかなりの延命効果が期待できるようになったのである。

[現在わが国で市販されている分子標的治療薬]

薬剤名 商品名 作用機序 適応疾患
トラスツズマブ ハーセプチン 細胞増殖因子に対する
免疫反応
乳がんの一部
リツキシマブ リツキサン 表面抗体に対する
免疫反応
ろ胞性悪性リンパ腫
イマチニブ グリベック 細胞増殖因子の
能抑制
慢性骨髄性白血病
消化管間質腫瘍
ゲフィチニブ イレッサ 細胞増殖因子の
機能抑制
非小細胞肺がん

がんがコントロールできた率は100%

国立がん研究センター東病院内科医師の土井俊彦さんは次のように述べる。

「分子標的治療薬は、がん細胞だけが持つ性質を正常な細胞と見分けて狙い撃ちし、その働きを弱めて増殖を阻止します。理論的にはがん細胞だけに作用すると推測され、これまでの治療薬に比べて副作用が少なく、効率よくがん細胞を殺すことを期待して開発されてきています。そうした分子標的治療薬の1つがグリべックです。異常なKITタンパクに結合して、増殖を促すシグナルを阻止するようにした薬です」

[グリベック(イマチニブ)は、異常なKITタンパクに作用する]
図:グリベック(イマチニブ)は、異常なKITタンパクに作用する

切除不能や再発したGIST患者を対象にした国内の臨床試験では、グリベックを1日400ミリグラム投与した。この臨床試験では、治療開始6カ月後、腫瘍が完全に消失した例(CR)は得られなかったが、腫瘍の面積が50パーセント以上縮小した例(PR)は46.4パーセント、進行が止まった例(SD)は53.6パーセント、PRとSDを加えたがんがコントロールできた例は100パーセントに達した。

これらの臨床試験の結果から、「腫瘍が増大しないことが生存期間の延長につながっていること、腫瘍が縮小した割合が半数を超えるほど高いにもかかわらず、腫瘍の消失になった症例は1例もなかったことが、このグリベックの特徴です」(土井さん)

軽い副作用まで含めて副作用はすべての患者に現れたが、その90パーセント以上は軽いもので、対処療法やグリベックの減量や休薬で十分対処が可能だったという。具体的には、悪心、下痢、嘔吐、腹痛などの消化器症状、顔面浮腫、眼窩周囲浮腫、下肢浮腫などの浮腫、皮疹、倦怠感、食欲不振、筋痙攣などであったが、特徴的な副作用として腫瘍出血と消化管出血が見られた。なかでも腫瘍出血は緊急の対応が必要なので、注意が必要という。

CR,PR,SD:奏効率


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