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肉腫は患者数が少ない、不十分な診療体制、でも変化の兆しはある
希少がんといかに向き合うか~GISTと闘う医師と患者さんからのメッセージ

監修:西田俊朗 大阪警察病院副院長
取材・文:田中博
発行:2011年6月
更新:2019年7月

  
西田俊朗さん
日本では数少ない
GIST専門医の
西田俊朗さん

肉腫の一種である消化管間質腫瘍(GIST)は、これまでなすすべのないがんの1つだったが、最近の医学の研究進歩により、一定の効果を期待できる治療薬が導入された。GISTについて考えることは、GISTだけでなく、他の希少がんの克服にも役立つはずだ。
GISTと闘う医師と患者さんからのメッセージをお届けしたい。

 医師からのメッセージ  「希少がんこそ専門医を受診すべき」

がん、循環器、救急に特化

大阪市内、JR環状線「桃谷」駅から徒歩約10分の場所にある大阪警察病院は、70年以上の歴史があるこの地域の中核病院である。大阪警察病院は病床数580床で、2010年実績では、入院患者さん数18万8868人、延べ外来患者さん数43万3441人となっている。副院長で外科の統括部長を務める西田俊朗さんによると、同病院は、がん、循環器および救急の3つの部門に特化した病院である。

救急は、1次から3次までの救急患者さんを24時間体制で受け入れており、大阪府の中でもハイレベルな救急医療を提供している。このほどの東日本大震災では、同院からもDMAT(災害時派遣医療チーム)が地震の翌朝には駆けつけ、救急医療活動を行った。がんについては、消化器や呼吸器のほか、泌尿器、婦人科領域のがんの診療を行っている。外科系のがん治療が中心だが、腫瘍内科の充実にも務めている。西田さんは消化器領域のがんを専門としており、とくに肉腫に関しては、わが国では数少ない専門医の1人である。

体に優しい手術―身体への影響が少ない手術/創の小さい手術

大阪警察病院の特徴の1つは、がんの外科治療は無論、血管の手術や整形外科の手術において、低侵襲手術、すなわち、体に優しい・創の小さい手術や切り取るのが少ない手術を積極的に行っていることだ。切り取るのが少ない手術はいいかえると機能をできるだけ残す手術、機能温存手術だ。例えば、胃がんでは神経や残せるものを残して胃がんの手術をする。大腸がんでは肛門をできるだけ残して切除するといった手術を行っている。切り取る所は少なくしても、がんの成績は変わらない。

また、身体に対する影響が少ない手術の最たるものは腹腔鏡手術だ。腹腔鏡手術は傷口が数センチで済むだけでなく、身体へ影響が少ないため、がんの手術では術後の抗がん剤治療に移行しやすいという利点もある。大阪警察病院では、現在、胃がんや大腸がんの手術の実に70~80パーセントを腹腔鏡手術で行うようになっている。最近では、胃がんや大腸がんもお臍のキズ1カ所だけで手術をすることもあるという。肉腫の場合には腫瘍が大きくなりがちなため開腹術を行うことが多いが、GISTを腹腔鏡手術で行うこともしばしばという。

GISTは粘膜下腫瘍や腹部腫瘍として見つかることが多い

GISTは胃、小腸、大腸などの消化管の壁にできる腫瘍であり、粘膜下腫瘍(「粘膜の下にある腫瘤」と言う意味)の中で1番多い腫瘍の1つである。胃がんや大腸がんなどの”がん”は、消化管壁表面の粘膜から発生するため、がんの進み方や再発・転移の特性が、GISTのような肉腫とは異なる。ちなみに、すべての”がん”の99パーセントは”がん”で、残りの1パーセントが肉腫である。GISTは肉腫の1種である。

GISTは内視鏡検査や消化管造影で粘膜下腫瘍や腹部腫瘍として見つかることが多い。多くの場合、粘膜下腫瘍を切除して、切除した組織の病理検査によってGISTであることが判明する。手術が困難な場合などは、先に内視鏡や超音波等を用いて腫瘍の組織を採取して、病理検査を行うこともある。

GISTの腫瘍細胞では、細胞増殖に関係するKITと呼ばれる蛋白などに異常があることもわかってきた。そのため、GISTの診断では腫瘍組織でのこれら蛋白の発現を確認することも重要なポイントである。近年、こうした異常な蛋白に特異的に結合して増殖シグナルを阻害する「分子標的薬」としてグリベック()やスーテント()が開発され、GIST治療の新しい選択肢を提供している。

GISTの発生頻度は、欧米のデータによると、年間10万人に2人といわれている。胃がんの発生数を100人とするとGISTは2~3人ともいわれる。GISTが発生する臓器は、胃が60~70パーセントと最も多く、次いで小腸20~30パーセント、大腸5パーセントであり、食道は稀である。

日本ではがん検診が普及しているため、腫瘍径が5センチ以下で発見されることが多く、症状がほとんどないケースが多い。ただ、GISTは大きくなって、転移するまで全く症状が出ないことが多いので、注意を要する。日本での外科手術後の経過観察からは、約70パーセントの患者さんは再発することなく経過し、約30パーセントが再発している。これに対して欧米では症状が出てから発見されることが多く、腫瘍径が10センチ以上の患者さんが多い。再発率は50パーセント以上で日本よりもかなり高い。GISTの症状で最も多いのは消化管出血およびそれに伴う貧血で、そのほか何となく腹痛を感じたり、腫瘤を触れることもある。直腸の場合には、排便しにくい、尿が出にくいなどの症状を訴えることもある。

日本における再発あるいは手術不能の新規GISTの患者さんは、薬剤の処方例数などから、年間500人~1000人と推定されている。

グリベック=一般名イマチニブ[ 適応症:KIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍]
スーテント=一般名スニチニブ[ 適応症:イマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍]

粘膜下腫瘍を疑われたときには専門医を受診

GISTの治療では基本的に手術が最も有効である。手術でしか完全に治すことができない。欧米や日本のガイドラインにも、初発の場合の第1選択は外科手術による切除であることが明記されている(図1)。GISTを正しく診断し切除すると、約70パーセント以上の患者さんは再発することなく治癒する。

しかし、これはあくまでも「手術を適切に行えば」の話だ。実際、西田さんのもとを訪れるGISTの患者さんの中には、最初の手術が適切でなかったために再発したと思われる患者さんが少なからずいる。手術のときに、簡単な「粘膜下腫瘍」と考え、間違った位置にメスを入れ、腫瘍を内包する膜を傷つけてしまい、腫瘍細胞を撒き散らしてしまったというようなケースがある。結果として、それらの患者さんは再発を繰り返し、完治できないことになる。この点について西田さんは「粘膜下腫瘍を切除する手術自体は難しいものではない。問題は粘膜下腫瘍やGISTを正しく診断し、理解していないことにある」と説明する。

では、患者さんはどうすればよいのか。西田さんは「粘膜下腫瘍やGISTは稀ながんであり、一般の医師はそういう患者さんを経験する機会がきわめて少ない。これらが疑われるときには是非とも専門医を受診してほしい」と、希少がんだからこそ専門医を受診する必要があることを強調する。なかには、症状があって受診したその日に手術を受け、その後、再発したという患者さんもいるが、そういう患者さんについては「がんや胃潰瘍で消化管に穴が開いていたらすぐに手術を受ける必要がある。しかし、緊急を要さない一寸した出血やお腹の痛みであれば、やはり専門医を受診すべき」という。

[図1 初発のGISTに対する治療]
図1:初発のGISTに対する治療

出典:GIST診療ガイドラインより


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