今後は免疫チェックポイント阻害薬との併用にも期待
現在3つのがん種で臨床試験を実施中 がんペプチドワクチン療法最前線
現在、がんに対する第4の治療法として期待されている免疫療法だが、今回はその中の1つ、がんペプチドワクチン療法について取り上げる。神奈川県立がんセンターでは、このがんペプチドワクチン療法を積極的に行っており、これまで6つの臨床試験を実施、現在も3つのがん種で臨床試験が進行中だ。がんペプチドワクチン療法の最前線について、専門家に話をうかがった。
キラーT細胞の学習能力を利用する
免疫が、がんを攻撃する力を持っていることはよく知られている。がん細胞は、体を構成している細胞が、がん化することで生じた細胞であるため、正常細胞と異なる部分がある。そこが免疫細胞によって〝非自己〟と認識され、攻撃の対象となるのである。
がん細胞を排除するために働く免疫細胞には、NK(ナチュラルキラー)細胞、NKT細胞、キラーT細胞などのリンパ球がある。神奈川県立がんセンターがんワクチンセンターセンター長の笹田哲朗さんによれば、この中でとくに重要な働きをするのはキラーT細胞だという。
「キラーT細胞とそれ以外の免疫細胞との違いは、学習能力を持っているかどうかです。キラーT細胞は学習能力があるので、がん抗原というがん細胞の目印を記憶し、その目印を持つ細胞を攻撃します。それによって、強力な抗がん作用を発揮するのです」
がんペプチドワクチン療法は、キラーT細胞のこの能力を利用した治療法である。キラーT細胞はがん細胞を見分けることができるが、がん細胞であると認識する部分(抗原)は、わずか10個程度のアミノ酸が結合したペプチドである。
このペプチドを合成して、ワクチンとして患者の体内に投与し、攻撃対象をキラーT細胞に学習させ、攻撃させる。これが、がんペプチドワクチン療法である(図1)。ペプチドワクチンは、キラーT細胞にがん抗原を学習させるための教材の役割を果たすわけだ。
がんワクチンには、がん細胞そのものを利用するものもあるし、がん細胞に由来するタンパク質の一部分である、ペプチドを利用するものもある。同センターで行っているのは、がんペプチドを使ったワクチン療法である。
「ワクチンが投与されると、患者さんの免疫細胞が活性化され、目印となるがん抗原を学習したキラーT細胞が、がん細胞を探し出して攻撃します。これが、がんワクチン療法です。最近注目されている免疫チェックポイント阻害薬は、体内の免疫機能を大きく変えるため、重篤な副作用が出る可能性がありますが、がんペプチドワクチン療法は患者さんの体にもともとある細胞を特異的に活性化させる治療法なので、比較的副作用は少ないのではないかと考えられています」
がんペプチドワクチン療法は、その人の持つ、HLA(ヒト白血球型抗原)の型によって、受けられる人と受けられない人がいる。
「ペプチドがキラーT細胞に認識されるためには、ペプチドが特定のHLAと呼ばれる分子に結合している必要があります。HLAには色々な型があって、1人ひとり異なる組み合わせを持っています。これまでの研究から、日本人の約6割が『HLA-A24』という型を、また約4割が『HLA-A2』という型を持っていることがわかっています」
したがって、がんペプチドワクチン療法による治療を受ける際には、こうしたHLAの型というのも重要になってくるという。
複数のワクチンを併用するカクテルワクチン療法
がんペプチドは、これまでに膨大な種類が発見されている。その中から、多くの人のがんに共通していて、免疫を活性化する力があるがんペプチドが、ワクチンとして使用されている。
「従来は1種類のペプチドをワクチンとして使っていましたが、それでは十分な効果が得られなかったことから、最近は、数種類から10種類ほどのがんペプチドを併用するカクテルワクチン療法の研究が進められています(図2)。1種類のペプチドだと、患者さんのがんにそのペプチドがないこともあり得ます。その点、複数のペプチドを一緒に使うカクテルワクチン療法なら、外れる可能性は低くなります」
がん細胞は免疫細胞から攻撃されると、その攻撃から逃れるために、抗原を隠してしまうことがある。このような場合にも、カクテルワクチンは有効だという。
「がん細胞が抗原を隠すとしても、数種類のペプチドワクチンを使っていれば、全てのペプチドが同時に隠されてしまう可能性は低いはずです。がん抗原の一部が隠されても、残っている抗原があれば、それが攻撃するための目印となります」
現在カクテルワクチン療法による研究は、盛んに行われているという。
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