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がん抗原を提示した細胞を体内に戻すワクチン療法に期待

進行膵がんに対する TS-1+WT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチン併用療法の医師主導治験開始

監修●勝田将裕 和歌山県立医科大学第二外科講師
取材・文●植田博美
(2017年8月)

  
「和歌山県立医科大学では、元々がん免疫療法に対する研究が盛んでした。私も膵がんに対する新しい治療法の確立が必要だと強く感じています」と話す勝田将裕さん

進行した状態で発見されることの多い膵がんは、難治性がんの一つとされる。有効な治療法がまだ少なく、新しい治療法の開発が強く求められている。和歌山県立医科大学第二外科では、山上裕機教授を調整医師とする「TS-1併用WT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチン(TLP0-001)の二重盲検ランダム化第Ⅲ相医師主導治験」が始まった。今後5年間で有効性が検証されれば、がんワクチン療法として初めての承認申請が期待される。

2022年の承認申請を目指す

「膵がんは発生率、死亡率ともこの25年間で1.5倍に増えています。死亡者数は肺がん、大腸がん、胃がんに次いで第4位ですが、膵がんは難治性のためこのままだと近い将来には1、2位になることが予想されており、有効な治療法の確立が一刻も早く必要です」と話すのは、和歌山県立医科大学第二外科講師の勝田将裕さん。今回の臨床試験(治験)の責任医師でもある。

膵がんの一次化学療法はジェムザールアブラキサン併用療法、またはFOLFIRINOX療法が標準とされている。ジェムザール+アブラキサン併用療法の効果が不十分と判断された場合は、二次化学療法の一つとしてTS-1の単剤投与が推奨される。

「TS-1併用WT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチンの二重盲検ランダム化第Ⅲ相試験」は、ジェムザールおよびアブラキサンを含む化学療法を施行後に膵がんが進行した患者や、副作用などで治療を継続できない患者に対し、TS-1+WT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチン併用療法の安全性・有効性を検討する医師主導型治験だ。2017年3月に被験者の応募を開始、5年間の治験でデータを集積する。有効性が検証されれば2022年に承認申請を行い、保険治療の適用を目指す。

ジェムザール=一般名ゲムシタビン アブラキサン=一般名ナブパクリタキセル FOLFIRINOX5-FU(一般名フルオロウラシル)+エルプラット(一般名オキサリプラチン)+イリノテカン(商品名カンプト/トポテシン)+レボホリナートカルシウム(商品名アイソボリンなど)を組み合わせた4剤併用療法 TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

WT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチン(TLP0-001)とは?

図1は、がんに対する免疫機構を簡単に説明したものだ。ここで今回、「がん抗原」となるのがWT1ペプチドである。WT1とは、がん細胞で大量に作り出される遺伝子(タンパク質)で、正常細胞ではほとんど見られないことが分かっている。しかし、膵がんではとくに発現率が高い。免疫原性や腫瘍特異性が高く、アメリカ国立がん研究所(NCI)においてがんワクチンの標的抗原第1位にランキングされるなど、がんワクチンの理想的な標的として知られている。WT1ペプチドは、大阪大学大学院の杉山治夫教授のグループによって研究開発されたがん抗原だ。WT1ペプチドはタンパク質の断片であり、それ自体にはがん細胞に対する傷害性がない。しかし、がんを攻撃する免疫細胞に対しては、狙い撃ちする「がんの目印」となる。

図1 がん免疫機構
(和歌山県立医科大学第二外科より提供)

周囲に突起を伸ばした姿が特徴的な「樹状細胞(dendritic cell: DC)」は、抗原提示細胞として機能する免疫細胞の一種だ。皮膚や鼻腔、肺、胃、腸管などに存在する。がん細胞などの異物を取り込んでその抗原を認識し、リンパ球の一種である「細胞障害性T細胞(CTL)」、いわゆるキラーT細胞に抗原を覚え込ませる。樹状細胞ワクチンでは、ペプチドワクチンを「目印」として樹状細胞に認識させることでキラーT細胞は増殖して活性化し、「目印」を指標に体内のがん細胞だけを狙って攻撃していく。キラーT細胞が直接がんをたたく「兵隊」だとすれば、樹状細胞は兵隊に攻撃命令を出す「司令官」というわけだ。

WT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチン(TLP0-001)とは、患者の血液成分(白血球)から取り出した樹状細胞を培養し、WT1ペプチドを人工的に認識させたワクチン。がんに対する樹状細胞ワクチンの治験は日本初となる(図2)。

図2 WT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチン療法
(和歌山県立医科大学第二外科より提供)

「がんペプチドだけを注射するペプチドワクチン療法は、体内の樹状細胞ががんペプチドを認識してくれるのを待つ、受け身の治療でした。しかし今回は、がんの目印をくっつけて活性化した状態の樹状細胞を患者の体内に直接戻す方法です。兵隊に敵を教える気満々の司令官を送り込むわけですから、非常に効率的なのです」(勝田さん)

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