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治るがんだからこそ、化学療法の治療スケジュールを守ることが重要
抗がん剤の併用療法で精巣がんの根治をめざす

監修:岡田弘 獨協医科大学越谷病院泌尿器科教授
新井学 獨協医科大学越谷病院泌尿器科准教授
取材・文:町口充
発行:2009年2月
更新:2013年4月

  
岡田弘さん
獨協医科大学越谷病院
泌尿器科教授の
岡田弘さん
新井学さん
獨協医科大学越谷病院
泌尿器科准教授の
新井学さん

精巣がんは基本的に治るがんだ。早期に発見すれば根治率はほぼ90パーセントと良好な成績を示している。また、多くのがんは転移すると根治が難しくなるが、有効な抗がん剤による化学療法と手術療法、放射線治療を組み合わせた集学的療法により、かなりの確率で根治が期待できるがんとなっている。

20~30代の若い人に多い病気

精巣は、男性ホルモン(テストステロン)を分泌するとともに、精子を作る臓器だが、精巣がんのほとんどは精子を作る元となる胚細胞から生じる。さらに胚細胞から生じるがんは組織型の違いによって「セミノーマ(精上皮腫)」と「非セミノーマ」とに分類され、非セミノーマには胎児性がん、卵黄嚢腫瘍、絨毛性腫瘍、奇形腫、多胎芽腫などがある。

精巣がんにはほかのがんにない特徴がある。それは、1~10歳ぐらいの小児期と、20代から30代にかけての青壮年期に発症のピークがあることだ。

「その点は、老年期の人がなりやすいほかのがんと比べると意味合いが違ってきます。特に青壮年期の発症が多いということは、結婚する前だったり、子どもがまだ小さかったりする時期であり、ちょうど働き盛りの人が襲われることになります」

と語るのは獨協医科大学越谷病院泌尿器科教授の岡田弘さん。

精巣がんの原因は不明であり、なぜ若い人に多いのかもわかっていないが、停留精巣など精巣の発育不全が危険因子としてあげられる。また、胎児期の過剰エストロゲンなど性ホルモンとの関係も指摘されている。

「もともと精巣(睾丸)は胎児期には腹部にあり、次第に下降してきて、生まれるときまでには陰嚢内に下りてくるものなのですが、これが途中で留まった状態を停留精巣といいます。治療を受けて正しい位置に下ろされれば問題はありませんが、精巣がんのなりやすさからいうと、停留精巣の既往がある、あるいは現在、停留精巣であるという人は、普通の人より10倍から100倍の危険があるといわれています」(岡田さん)

精巣がんに特徴的な症状はないが、多くの場合、本人が陰嚢のしこりや肥大に気づくことで病気が見つかる。しこりを見つけたら、良性のものは非常に少ないので、なるべく早く泌尿器科などの専門医を受診しないととても危険なことになる、と岡田さんはアドバイスする。

触診に加えて、超音波検査でがんの存在が確認できるが、合わせて、がんの種類や進行の程度などを知る上で腫瘍マーカーの検査も欠かせない。精巣がんの場合、LDH(乳酸脱水素酵素)、AFP(アルファフェトプロティン)、β-HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロビン)の3つの腫瘍マーカーがある。

[精巣がんの組織分類]

組織型 頻度 主要マーカー
セミノーマ(精上皮腫) 70%以上 LDH, 時にhCG
非セミノーマ    
 胎児性がん 10% LDH, AFP
 胎児性がんとその複合組織型 10% LDH, AFP, hCG
 卵黄嚢種 数% LDH
 絨毛がん 数% hCG
 奇形腫 数% LDH, AFP

増殖が速いので手術は迅速に行うのが原則

精巣がんは、非常に速く増殖し、転移しやすいという特徴がある。このため、がんとわかったら組織型や転移の有無に関わらず、できるだけ迅速に精巣を摘出する手術を行うのが原則だ。

手術は「高位精巣摘出術」がスタンダード。精巣は、血管や精管(精子の通り道)などが束となった精索によって腹部とつながっており、精巣で発生したがんはこれを通じて全身に広がっていく。高位とは、精索が骨盤内に入っていくところまでを指し、低位とは精巣の周辺までをいう。

手術は、陰嚢ではなく足のつけ根のやや上方の下腹部を切開し、精巣と一緒に精索の高位、つまりできるだけ上のほうまで切除する。

「手術そのものは比較的簡単で、時間はせいぜい1時間ぐらいほどです。入院は抜糸まで入れれば1週間ぐらいですが、若い患者さんが多いので、抜糸を外来でやるなら3~4日の入院ですませることも可能です」

と語るのは同病院泌尿器科准教授の新井学さん。

手術と平行してCT(コンピュータ断層撮像)で転移の有無を確認し、摘出した臓器の組織診断が行われる。

そこでのポイントは、病期がステージ1の早期がんなのか、ステージ2以上の進行がんなのか、さらにセミノーマなのか、非セミノーマなのか。これによって今後の治療法も変わってくるからだ。

「化学療法や放射線療法が必要となった場合、セミノーマと非セミノーマでは放射線の感受性は圧倒的にセミノーマが高く、化学療法の感受性も異なります。セミノーマのほうが抗がん剤がよく効くので、非セミノーマの場合より薬の量を減らす試みもされています」(新井さん)

より悪性度が高いのが非セミノーマで、転移もしやすいという。

転移で1番の好発部位は後腹膜のリンパ節。もともと精巣は胎児のときは後腹膜のあたりにあったため、血管やリンパ管などもここからつながっており、転移もしやすい。ここに転移があるとステージ2ということになる。次に多いのは肺への転移で、肝臓や脳、骨などに転移するケースもある。

術後は放射線より化学療法が一般的

がんが精巣だけに留まっていて、手術で切除されたのであれば、ステージ1と判断されて治療は完結し、その後は経過観察となるが、目に見えない転移があるかどうかが問題になる。

特に心配なのが後腹膜リンパ節への転移で、2割ぐらい起こるといわれている。「アメリカでは、予防的に放射線の照射が行われるのが一般的です。しかし日本では、本人の希望で行われたりすることもありますが、あまり一般的ではありません」と新井さん。

放射線を予防的に照射した場合と、何もしない場合とを比べると、放射線照射をしたほうが再発率は断然低い。

しかし、何もしないでいて、たとえ転移などの再発があっても、化学療法がよく効くので最終的な死亡率は変わらないからだという。

また、非セミノーマは放射線の感受性が低いので、予防的な放射線照射を考慮すること自体が少ない。

転移がある場合はどうするか。ステージ2A(後腹膜の転移病巣の直径が5センチ未満)までなら、アメリカでは放射線治療を行うことも多い。しかし、日本では、以前は放射線治療も選択肢の1つだったが、今は主として化学療法を行い、その後に後腹膜リンパ節郭清(転移があった部分の摘出手術)を行うか、郭清をしてから化学療法をするかの2つの選択肢があり、成績はどちらの方法でも変わらないとの報告がある。

しかし、「化学療法をしてから郭清するほうが多い」と新井さんは話す。

「郭清の前に化学療法をやると効果が大きく、しこりが小さくなってきます。特にセミノーマの場合だと、化学療法のあとに郭清をすると大抵はがんが残っていない。細胞の死骸だけとか、線維化を起こした組織だけということが多い」

このため、ステージ2のセミノーマの場合、化学療法の後、後腹膜リンパ節転移の直径が3センチを超えていれば郭清をするが、3センチを超えていなければ郭清しない、という施設も多いという。

ただ、後腹膜リンパ節郭清を行う際、射精神経を傷つけて射精障害を引き起こすことも少なくない。そこで最近は、射精神経を温存する術式も開発されている。

一方、非セミノーマでは、1センチを超えていれば郭清するというのと、基本的に全例で郭清をするという治療法とに分かれる。特に非セミノーマのうち奇形腫は抗がん剤がまったく効かないため、手術で摘出するしかないという。

「もちろん、後腹膜リンパ節郭清を行うのは、上昇していた腫瘍マーカーが化学療法後に低下して、正常化しているというのが前提です。マーカーが正常化しないうちに後腹膜リンパ節郭清をやっても、だいたいは効果がありません」(新井さん)

ステージ2B以降は、セミノーマでも非セミノーマでも、全身的効果を期待してまず化学療法が選択されるのが一般的。その後、転移巣にがんが残っていれば摘出手術を行うし、それでも生きているがん細胞が残っていれば、さらに術後化学療法が追加される。


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