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異変を感じたら専門医へ、治療後の経過観察は長く 9年ぶり診療ガイドライン改訂の精巣がん

監修●河合弘二 国際医療福祉大学成田病院腎泌尿器外科教授
取材・文●半沢裕子
発行:2024年6月
更新:2024年6月

  

「精巣がんは早期に発見し、早期に治療を受けることが非常に重要で、しこりを見つけたらすぐ病院に行くことが大事です。その際、気をつけたいのは〝泌尿器科の専門医〟に見てもらうことです」と語る河合さん

男性の精巣(睾丸)にできる精巣がんは比較的まれながんですが、20~30歳代に罹患のピークがあります。そのうえ進行が速いという特徴を持っているため、早期発見、早期治療が非常に重要となります。

その精巣がんの診療ガイドラインが2015年の第2版から9年ぶりに改訂されて、2024年2月、第3版が『精巣癌診療ガイドライン2024年版』として刊行されました。ガイドライン2024年版改訂委員長でもある国際医療福祉大学成田病院腎泌尿器科外科教授の河合弘二さんに、精巣がんの最新治療と注意点についてお聞きしました。

精子をつくる機能の弱い人に発生しやすいのですか?

精巣(睾丸)は男性の生殖器で、男性ホルモン(テストステロンなど)を分泌し、精子をつくり出し、生殖を可能にするなどの役割をもつ重要な臓器です。精巣内には男性ホルモンを産出するライディッヒ細胞、精子のもととなる精母細胞などがあり、精巣がんの約95%は精母細胞から発生するとされています(図1)。

精巣がんの罹患率は日本では10万人に1~2人程度で、近年いくらか増えていますが、基本的にアジア系には少ないがんです。

精巣がんの発がんリスクとしては、家族歴、停留精巣(精巣が陰嚢になく、体内に停留している)精巣発育不全、胎児期の過剰エストロゲンなどが挙げられます。なお、停留精巣は早期に手術をすると精巣がんのリスクが下げられるとされています。そのほか、男性不妊症や精液検査で異常があることなどもリスク因子と考えられています(図2)。

「精巣がんの原因はわかっていませんが、造精機能の弱い人に発生しやすいということは言われています」と国際医療福祉大学成田病院腎泌尿器外科教授の河合弘二さん。

精巣がんを発見するきっかけのほとんどは、精巣のしこりや腫れです。それも痛みを伴わないしこりや腫れということが多いのです。精巣がんは進行が速く、一部悪性化するタイプがありますが、一方で5年生存率がⅠ期で100%、Ⅱ~Ⅲ期でも90~70%と生存率が高いがんとしても知られています。

「そのため、早期に発見し、早期に治療を受けることが非常に重要なので、しこりを見つけたら一刻も早く病院に行くことが大事です。その際、気をつけたいのは〝泌尿器科の専門医〟に見てもらうことです。泌尿器科の医師であれば確実にがんかどうかを見分けられ、早期治療に結びつくからです」

早期ならがんができた精巣は残せる?

精巣がんの治療について見ていきましょう。精巣がんの標準治療は驚くことに、現在行われている治療がベースになってすでに20年近くなるそうです。それくらい、治療法は確立されているがんとされています。

今回、ガイドラインが改訂された理由を、河合さんはこう語ります。

「治療法が変わったためではなく、ガイドライン作成マニュアルの改訂に合わせたものです。十分なコンセンサスが得られている治療に関しては『総説』として記載し、重要度の高い治療や議論のある治療についてはクリニカル・クエスチョン(CQ)を立てました。CQは第2版の30個から13個に減り、具体的でよりわかりやすいガイドラインになったと思います」

また、未承認の新規診断法や治療法については、2つのフューチャー・リサーチ・クエスチョン(FRQ)として記載されています(画像3)。

精巣がんの治療では、まず精巣の摘出手術を行います。術式は「高位精巣摘出術」という術式で、陰嚢を切るのではなく鼠径部を切開し、精巣に向かう血管を結索してがん細胞が散らばらないようにしてから、精巣と精巣上体、精索をすべて摘出します。したがって、がんのできた精巣を残すことはできませんが、もう片方の精巣は残るので、生殖能力は残ります。妊孕性(にんようせい)に不安がある場合は、精子を術前に凍結保存する方法もあります。

精巣がんは大きくはセミノーマ(精上皮腫)と非セミノーマ(非精上皮腫)の2つのタイプに分類されていています。セミノーマは精巣がんの50%近くを占める組織型で、非セミノーマは名前の通り「セミノーマではないがん」の総称。胎児性がん、絨毛がん、奇形腫など多様な組織型が含まれます。非セミノーマはセミノーマに比べて転移を起こしやすく、より悪性度が高いことが多いとされています。どちらの組織型かは手術で取り出した精巣組織を調べる病理検査で確定されます。

なお、非セミノーマのⅡA期では精巣を摘出するだけでなく、後腹膜リンパ節郭清も行います。非セミノーマのⅠ期でも脈管に侵襲がある場合は、やはり後腹膜リンパ節郭清を行うことがあります。

そして、高位精巣摘出術後の治療は、タイプ別、病期によって異なります。

「患者さんの多くはⅠ期で、精巣にがんが塊りとしてあるけれども転移していない状態です。どちらもある程度再発率はありますが、精巣を切除したあとは定期的に経過観察を行い、転移が認められた時点で治療する方法と、予防的に化学療法を行う方法があります」

病院により異なっていますが、予防的な化学療法とは、通常3~4コース行う化学療法を1コースだけ行ないます。以前は放射線感受性のいいセミノーマに対しては予防的放射線照射も行われていましたが、近年、放射線は使われなくなっているといいます。

「線量が低くても、それによって20年、30年後にがん化するリスクが上がることがわかってきたためです。以前ほど推奨されていません。それがここ10年くらいの変化ですね」

セミノーマ(精上皮腫)=造精細胞の形成要素が分化して主要化したもの

非セミノーマ(非精上皮腫)=胎児形成や胎盤形成要素が分化して主要化したもの。セミノーマと非セミノーマの混合は非セミノーマとして治療

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