進行別 がん標準治療
徹底的な治療をする。これが精巣がんの治療方針
大阪府立成人病センター
泌尿器科医師の診療主任の
垣本健一さん
精巣がんはかかる人は少ないけれども、乳幼児と青壮年の男性に多いがんです。
場所柄、羞恥心から病院へ行くのが遅れがちですし、
またがんとわかっても、そのことを受け入れることも大変ですが、
進行が早く一刻も早く治療することが肝要です。
治療法はほぼ確立しており、徹底的な治療を行います。
かなり辛い治療になりますが、治癒する可能性は高く、
それに耐えれば手に入れるものも大きいでしょう。
乳幼児と若い男性に多いがん
垣本健一さんの執刀で精巣がんの手術が行われる
精巣がんは、日本ではそれほど多いがんではなく、発症率は年間10万人に0.7~1.8人。男性のがんの1パーセントほどを占めています。しかし、このがんの特徴は若い人に多いことです。
一般にがんは、高齢者に多いものですが、精巣がんは乳幼児期と15歳から35歳が発症のピーク。青壮年期の男性に多いがんなのです。
大阪府立成人病センター泌尿器科診療主任の垣本健一さんは「まだ学生だったり、これから結婚や就職、子供を持つ年齢で、がんになることなど考えたこともない年齢の人達が多いです。そのため、まず病気であることを受け入れていただくことが大変なのです」と語っています。
停留精巣(睾丸が体内に留まり、陰嚢まで下りていない状態)や真性半陰陽など、精巣の発達異常の人に多いことは知られていますが、約8割は原因不明です。
性ホルモンとの関係なども指摘されてはいますが、なぜ若い人に多いのか、その理由ははっきりわかっていないそうです。アメリカでは、白人に多い病気で年間10万人につき4.8~8.7人が精巣がんになると報告されています。なぜ日本人の数倍も米国の白人に精巣がんが多いのか、その原因も今のところわかっていません。
羞恥心は発見のチャンスを逃す
精巣は、左右1対で、陰嚢に納まっている。精子の通り道
である精管は、血管や神経と合わさって、「精索」となる。
精管は尿道とつながっている
また、こうした思いがけない年齢での発症が、早期発見を遅らせる原因の1つにもなっています。精巣がんのほとんどは、患者自身によって発見されています。「睾丸の腫れや硬さが主な症状なのですが、患者さんの3分の2は痛みや熱もなく、睾丸が腫れるという症状で気づく」といいます。
感染や他の病気でも睾丸が腫れることはありますが、その場合は熱や痛みを伴うのがふつうです。ところが、精巣がんの場合は、熱や痛みなど他の症状は全くなく、ただ睾丸だけが腫れることが多いです。
ところが、「部位が部位なので、気づいてはいても恥ずかしくて病院を受診できない、親にも相談できない、あるいはどの科目を受診していいかわからずに1人で悩んでいたなど、早期発見のチャンスを逃してしまう人もいるのです」と垣本さんは語っています。
中には、赤ちゃんの頭大に睾丸が大きくなって、受診する人もいます。まさか、がんとは思えない年齢であることも受診の遅れと無縁ではないのです。
また、鼠径部(足のつけ根)の違和感や鈍痛で受診する人もいます。
精巣がんは、進行するとリンパ液にのって、後腹膜の大動静脈周囲のリンパ節に転移し、さらに*縦隔、頸部のリンパ節へと上方に広がっていきます。血行性に転移をした場合には、肺転移が最も多く、肝臓や脳、骨などに転移することもあります。こうした転移した部位によって、腰痛や呼吸困難、首のリンパ節の腫れなどが起こることもあります。
*縦隔=肺と肺の間の胸腔の中央部分
- 早期の症状
精巣自体がはれたり硬くなる、
3分の2が痛みがなく大きくなる
鼠径部の鈍痛 - 進行がんの症状
腰痛、呼吸困難、頸部にしこり
女性化乳房(HCG産生腫瘍)Osaka Medical Center for
Cancer and Cardiovascular Diseases
- 停留精巣、精巣発育不全
- 胎児期の過剰エストロゲン
- ウイルス性精巣炎、精巣外傷
- 対側精巣腫瘍の既往
Osaka Medical Center for
Cancer and Cardiovascular Diseases
多様な組織型、早い進行
精巣がんは、さまざまな組織型があることが特徴です。
精巣がんの大半(95パーセント)は精母細胞、すなわち精子の元になる細胞から生じます。この精子や卵子の元になる細胞を「胚細胞」といい、胚細胞から生じた腫瘍を総称して、「胚細胞腫瘍」と呼んでいます。残りの5パーセントは胚細胞以外の細胞から生じ、こちらは「非胚細胞腫瘍」と呼んでいます。
胚細胞腫瘍は、さらに2種類、セミノーマ(精上皮腫)とそれ以外の非セミノーマ(非精上皮腫)に分類されます。
非セミノーマの中には、胎児性がん、卵黄嚢腫瘍、絨毛性腫瘍、奇形腫、多胎芽腫などがあります。
実際には、精巣がんの6割は単一の組織型から成り立っており、最も多いのがセミノーマです。残り4割はこれらの種々の組織型のがんが混じっている複合型です。治療方針を決定するために、一番重要な因子はセミノーマか非セミノーマかです。