がん看護専門看護師 山田みつぎの
副作用はこうして乗り切ろう!「皮膚症状」
吐き気や感染症に比べたら、皮膚の症状なんてまだマシ……仕方がない。そう言い聞かせて、つらい症状を我慢してはいませんか?心がけ1つで予防も可能、症状緩和も可能です。それでも出たときは、迷わずステロイドで速やかに対処。まずは知識を。
手足症候群は以前から・・・分子標的薬の登場で皮膚障害が急増
昨今、注目度が高まっている副作用が「皮膚障害」です。抗がん薬治療による皮膚の黒ずみや発疹、乾燥といった症状は昔からありましたが、命に別状ない黒ずみや乾燥より、吐き気や感染症といった明白な副作用に目が行きがちだったように思います。しかし、分子標的薬の登場で、皮膚障害の頻度が急増したこと、それに伴う苦痛も強くなったことから、ここ数年で注目されるようになりました。
皮膚障害は2つに分類されます。まず、従来の抗がん薬治療による「手足症候群」という症状。抗がん薬は、とくに細胞分裂が盛んな組織に作用するため、皮膚や爪が作られる部分は大きく影響を受けるのです。*ゼローダや*TS-1などのフッ化ピリミジン系やタキサン系といった従来のタイプの抗がん薬で起こります。主な症状は、発疹や黒ずみ、皮が剥けたり、亀裂が入ったり。多くは手足の末梢に起こります(図1)。
もう1つは、分子標的薬による皮膚障害。
まずはここで、分子標的薬が、がん細胞にどうアプローチするかについて触れます。
正常細胞の遺伝子が突然変異することでがん細胞が生まれ、その後、増殖を繰り返しながら、がん細胞特有の性質を獲得していきます。
正常細胞にはない、がん細胞特有の性質とは、細胞の増殖や成長を制御する機能が働かず、細胞が無秩序に増え続けること、そして、自らに栄養補給するための新しい血管を作りだしてしまうこと(血管新生)。これらの特性により、がん細胞は体内で拡散してしまうのです。分子標的薬は、これらの特性を生み出す分子そのものに直接結合し、その働きを止めることで、がん細胞の増殖や血管新生を抑制する薬剤です。
当初はほとんど副作用がないと期待されましたが、とんでもない。薬剤の標的は皮膚組織の中にも存在していて、ピンポイントかつダイレクトに作用するため、皮膚は大きなダメージを受けます。
抗がん薬と分子標的薬では、皮膚障害のメカニズムが違うので、症状の出方も異なりますが、対処法は基本的に同じ。今回は、分子標的薬による皮膚障害を見ながら、皮膚障害の対処法を考えていきましょう。
*ゼローダ=一般名カペシタビン *TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
もっとも強烈なキナーゼ阻害薬
分子標的薬の種類も多岐に渡り、皮膚症状も多彩ですが、もっとも多いのがEGFR阻害薬による皮膚障害。がん細胞で過剰に発現しているEGFR(上皮成長因子受容体)の働きを阻害し、がん細胞を増殖させる信号を阻止します。EGFRは顔や胸、背中などの皮膚の表皮細胞、皮脂腺、汗腺にも多くあるので、これらの細胞を増殖・成長させる信号が阻止されると、皮膚が上手く生まれ変わることができなくなり、皮膚全体が強いダメージを受けるのです。
症状は、ざ瘡様湿疹、脂漏性皮膚炎、皮膚の乾燥や痒み、陥入爪、毛髪の変化など。乾燥肌が強くなり、さらに鱗のように固くざらざらになったり(乾皮症)、爪と肉の間が盛り上がって何も触われないほどの激痛が続く爪囲炎になることもあります(図1)。
それと、最近登場してきたのがキナーゼ阻害薬による皮膚障害。がん細胞では様々なキナーゼ(リン酸化を触媒する酵素)が活性化していて、それが細胞増殖や血管新生を促しています。それら複数のキナーゼを同時に阻害し、働きを抑えるのが、キナーゼ阻害薬。最新の分子標的薬です。複数の標的を同時に攻撃するので、もっとも強烈で、副作用の程度も非常に強いといえます。
皮膚の感覚異常を伴う発赤、角質の肥厚(皮膚の一番表面にある角質が分厚くなること)、湿疹や水泡など。角質が肥厚して皮がベロンと剥けることもしばしばで、足の裏に出ると歩けなくなるほどの痛みを伴います。
分子標的薬の皮膚障害は、投与後1週間ほどで現れ始め、その症状は1~2カ月間続きます。その後も治療中は出たり落ち着いたりを繰り返すのが特徴。爪囲炎は、早い人で投与後1カ月頃から現れ、長く続きます(図2)。
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