進行・再発卵巣がんに選択肢が増える 初回治療から分子標的薬リムパーザが使える!
婦人科がんの中でも早期発見が難しく、多くの場合見つかったときはステージ(病期)がⅢ、Ⅳ期と進行しているため、予後が悪い卵巣がん。しかし、化学療法の進歩で進行・再発がんでも、治療の選択肢が増えた。そのため、卵巣がんの発症率は増えているものの、死亡率は減ってきている。
そんな中で、今、注目されていた卵巣がんの初回化学療法後の維持療法に対する分子標的薬リムパーザ(一般名オラパリブ)の保険適用が、6月18日追加承認された。そこで、卵巣がんの化学療法の最新知見を静岡県立静岡がんセンター婦人科部長の平嶋泰之さんに伺った。
早期発見が難しい卵巣がん
卵巣がんは、年間罹患者数が1万600人、年間死亡者数が4,800人(2018年のがん統計予測:国立がん研究センター)、5年相対生存率は全症例で61%、Ⅲ期では44.2%という難治(なんち)性のがんである(全国がん成人病センター協議会の生存率共同調査2017年9月集計)。早期発見も難しく、発見時にはほぼ5割程度がⅢ、Ⅳ期の状態に進行している。
「当科の場合では、紹介患者さんのほぼ6割はⅢ、Ⅳ期に進行しています。現時点では、早期発見のためのスクリーニングはなく、早期で発見される方の多くは別の理由で受診して、偶然見つかっているというのが実状です。しかし、腹部の急激な張りや痛みなど違和感を感じたら、早めに婦人科を受診することをお勧めします」
そう説明するのは、静岡県立静岡がんセンター婦人科部長の平嶋泰之さんだ。
「卵巣がんの治療は、初回の手術でいかに腫瘍を取り切れるかが大きなカギとなります。*PDS(プライマリー・デバルキング・サージャリー)といって、可能な限り腫瘍やその周辺の組織を取り除く手術が推奨されてきました。ただし、近年では、術前に化学療法を行なって、腫瘍を小さくしてから手術を行うNAC−IDS(ネオアジュバント・ケモセラピー−インターバル・デバルキング・サージャリー)という方法も注目されています。しかし、どちらの方法を採るべきかについては、まだ結論は出ていません。現在も国際的な臨床試験が進んでいて、様々な議論があります」
日本では、施設によって治療選択に違いがあるというのが現状だという。
いずれにせよ、手術によりできるだけ腫瘍を切除することが予後に関わる重要なポイントだ。もちろん、一部の早期がんを除いて完全に摘出できた場合でも、プラチナ系抗がん薬の術後化学療法が必要である。また、手術が適応にならない切除不能の進行がんや再発がんも、プラチナ系の化学療法を選択することになる。
しかしながら、プラチナ系の抗がん薬は非常に有効だが、高い確率で再発し、その予後改善はなかなか難しかった。
ところが、数年前から、従来のプラチナ系の抗がん薬に、血管新生を阻害するタイプの分子標的薬である*アバスチン(一般名ベバシズマブ)を併用する治療法によって予後が改善してきたのだ(表1)。
*DS(デバルキング・サージャリー)=腫瘍減量手術。可能な限り腫瘍を取り除く手術のこと。大きくPDS、IDS、SDSの3種類に分かれる
分子標的薬リムパーザが再発症例に保険適用
「進行卵巣がんは約8割が再発してしまいますので、再発後の化学療法の有効性を高めることは大きな課題だったのです」と平嶋さん。
そんな近年の化学療法において、再発症例にさらなる希望の光を与えるトピックがある。
2018年4月、プラチナ系抗がん薬による治療後に再発した、プラチナ製剤感受性の患者について、がんのDNAの修復機構に着眼して創薬されたPARP阻害薬の*リムパーザ(一般名オラパリブ)という分子標的薬が保険適用となったことだ。
リムパーザが保険適用となったのは、「SOLO-2試験」という国際共同第Ⅲ相試験と、「study19」という国際共同第Ⅱ相試験の結果に基づいてのことだ。
「SOLO-2試験」は、BRCA遺伝子に変異のあるプラチナ製剤感受性再発卵巣がんの患者を対象として、アバスチンを含まない化学療法を4コース以上行なった後、完全奏功(CR)か部分奏効(PR)を得た患者に対する維持療法として、リムパーザを投与した群とプラセボ群を比較したものだった。
すると無増悪生存期間(PFS)において、リムパーザ投与群19.1カ月vs.プラセボ投与群5.5カ月という結果で、リムパーザ投与群が大幅に無増悪生存期間が延長した。
「study19」は、プラチナ製剤感受性再発漿液(しょうえき)性卵巣がんを対象に、2剤以上のプラチナ系抗がん薬を含む化学療法を既に行い、直前の4コース以上の化学療法で完全奏功か部分奏効を得た患者に対する維持療法として、リムパーザを投与した群とプラセボ群を比較した試験だ。
その結果は、無増悪生存期間では、リムパーザ投与群8.4カ月、プラセボ投与群4.8カ月だった。BRCA野生型や意義不明のBRCA遺伝子変異があるという場合でも、それぞれ8.3カ月と5.5カ月だった。さらにBRCA変異例では、それぞれ11.2カ月と4.1カ月だった。そして5年以上の無増悪生存例が13%であった。
「現在、リムパーザは、プラチナ製剤の治療後の再発であれば、BRCA遺伝子の変異を調べなくても治療に使うことができます。当科では保険適用後、適応となった18人の患者さんに治療を行い、そのうち5例は症状が進行して中止。13例で治療を行なっています。まだ治療を開始して1年強ですから、評価を下すことはできませんが、普通は手術、化学療法と治療をしていくにつれて、効果のある期間がどんどん短くなっていくと言われていますが、リムパーザの投与によって効果のある期間が、前の治療より延長した人が3割もいます。引き続き経過観察を行なって、評価したいと考えています」
現在、BRCA変異を有さない場合でも、BRCAほか多くの遺伝子が関与しているDNAの2本鎖を修復する相同組み換え修復に異常(HRD)が認められると、認められない場合に比べてPARP阻害薬の*Zejula/ゼジュラ(一般名Niraparib/ニラパリブ ※日本未承認)や*Rubraca/ルブラカ(一般名Rucaparib/ルカパリブ ※日本未承認)の効果が顕著であるという報告もある。このことによりHRD検査による卵巣がんの個別化治療が期待されている(図2、3)。
同じカテゴリーの最新記事
- 世界に先駆け初承認された分子標的薬ロズリートレクの課題 共通の遺伝子変異を標的とする臓器横断的がん治療薬
- 肺がんに4つ目の免疫チェックポイント阻害薬「イミフィンジ」登場! これからの肺がん治療は免疫療法が主役になる
- 肺がん薬物療法最前線―― 分子標的薬と、オプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害薬が、肺がん治療をここまで変えた!
- 第3世代タグリッソ登場で非小細胞肺がん治療はさらに進化
- 分子標的薬投入時期を「Window」で見える化 ホルモン陽性HER2陰性再発転移症例での適切な投与時期を示唆
- 非小細胞肺がん 耐性後は再生検を行い 適切なEGFR-TKIで治療する
- 深い寛解後に 70%が投薬中止可能~慢性骨髄性白血病の治療~
- 分子標的薬の皮膚障害は予防と適切な対応でコントロール可能
- 副作用はこうして乗り切ろう!「皮膚症状」