術後の尿漏れ対策 セルフケアに役立てよう
前立腺全摘後の尿漏れは骨盤底筋体操やケアアイテムを活用
前立腺がんに対する前立腺全摘術後の尿失禁(尿漏れ)は、多くは1年以内に改善し元に戻るものの、中には改善が見られずに患者さんのQOL(生活の質)に大きな影響を与えることもある。どのようなセルフケアが必要だろうか?
術後ほとんどの人に尿漏れが起きる
東京医科大学病院泌尿器科で術後に尿失禁を生じた患者さんのケアを担当する皮膚・排泄ケア認定看護師、帶刀朋代さんは次のように語る。
「前立腺がんで前立腺の全摘手術を受けると、漏れる量は患者さんによって違うものの、ほとんどの方が一時的に尿漏れを起こします」
前立腺は膀胱のすぐ下にあり、尿道を取り巻くように存在する。前立腺と接した位置には、尿が漏れないように尿道を締める役割を果たす尿道括約筋がある。
尿道括約筋は2種類あり、内尿道括約筋は、平滑筋といって自分の意思では動かせない自律神経のコントロール下にある不随意筋。もう1つの外尿道括約筋は、自分の意思で動かせる横紋筋でできている随意筋だ。
全摘術では、前立腺を切除したあとに膀胱と尿道をつなぎ合わせる。
その際に、2種類の尿道括約筋の一部を切り取ったり、ダメージが加わることにより、尿道の〝締まり〟が悪い状態になってしまう(図1)。
「当院ではほとんどの全摘術でダヴィンチを使ったロボット手術を導入していて、機能温存を目指した精密な手術を行っています。それでも、もともと前立腺に接している筋肉は解剖学的に残すことができず、ある程度は損傷を受けることになります」
圧倒的に多い腹圧性の尿漏れ
このため、全摘術後に起こしやすいのが、尿道を閉じる尿道括約筋がしっかり働かなくなることによる腹圧性尿失禁だ。
尿失禁には、ほかに切迫性尿失禁、溢流性尿失禁などがあり、いずれも前立腺の病気と関係が深い。
切迫性尿失禁は、本来は脳からの指令でコントロールされている排尿行動がうまくいかなくなったり、とくに原因がないのに膀胱が急に収縮(過活動膀胱)してしまい、我慢できずに漏らしてしまうものだ。溢流性尿失禁は、尿を出そうとしても出せないため、膀胱に溜まった尿が少しずつ出てしまう。男性の場合、もともと切迫性尿失禁や過活動膀胱を隠れ持つ人がおり、術後、腹圧性に合併する形でこうした尿失禁を起こすこともあるという。
それでも、全摘手術後で圧倒的に多いのは腹圧性尿失禁である。
「水で膨らんだ風船を膀胱に例えると、風船の口を握る力が筋肉となります。大人の手でギュッと握れば水は漏れませんが、赤ちゃんの手のような弱い力で握っているのと同じなのが、全摘術後の患者さん。立ち上がったときとか重い荷物を持ち上げたとき、咳やくしゃみをしたときなど、お腹に力が入ると、漏れてしまいます。手術に伴うものなので、ある程度は起きてしまいます」
1年後には9割が改善するが……
手術直後はほとんどの人が尿失禁を起こすものの、一時的なもので、術後1年もすれば9割の人が改善されて、ほとんど漏れなくなるという。
「残り1割ぐらいは、少し、またはある程度漏れるという人で、まったく膀胱に溜められずに出てしまうという人は1%未満というデータがあります」
尿失禁のある人に対しては、漏れる量の少ない方から、①吸収パッド付き下着、②男性用尿取りパッド、③男性用パンツ型おむつで対応する。術直後にどのくらいの量の尿が漏れるかというと、少ない人だと1日10㏄(g)ぐらいで、これだと吸収パッド付き下着か尿取りパッド1枚ですむ。
「ところが、トイレで出す尿が半分ぐらいで、残りの半分は漏れてしまうという人の場合は、1日に600㏄ぐらいは漏れている計算となり、中には1,000㏄以上漏れているという人もいて、そういう人にはおむつか容量の多い尿取りパッドが必要になってしまいます」
これほどの重度の尿失禁はごくまれで、圧倒的に多いのが漏れる尿の量が1日50㏄以下の軽度、または中等度。術後1年後も尿失禁が残っている人のうち、その8割が1日1枚のパッドで十分対応でき、1日2枚必要という人は2割ほどといわれている。
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