「患者の力」に着目したセルフケア支援が重要に
放射線治療開始前から副作用を推測して、患者に伝える
放射線治療は通院で治療を受ける患者さんが多い。そのため、副作用対策はセルフケアに頼らざるを得ない。いつ頃、どのような症状が現れてくるのかを前もって知らせ、適切に対応できるようにすることが大切だ。「患者の力」を最大限に引き出すセルフケア支援が、治療中のQOL(生活の質)維持に役立っている。
長期間の治療を完遂するには「患者の力」が必要
がんの放射線治療は、通院で治療を受ける患者さんが多い。入院していれば、たとえ副作用が現れても、すぐに適切な処置を受けることができるが、通院の場合には、そういうわけにはいかない。セルフケアが基本となるため、患者さんがどのような知識を持ち、どのような処置ができるかによって、副作用対策は大きく違ってくる可能性があるのだ。
がん研有明病院看護部副看護師長(放射線治療部)の後藤志保さんによれば、放射線治療を受ける人は徐々に増えており、今後は高齢の患者さんが増加すると予測されているそうだ。
「日本では放射線治療を受ける人が増えていますが、社会の高齢化を反映して、高齢の患者さんが増えてきています。手術や抗がん薬治療に比べて低侵襲であるという理由もあり、今後ますます高齢の患者さんが増えると予想されているのです」
がん研有明病院の場合、6割程度が通院で放射線治療を受けているという。
治療期間は長く、根治的な治療の場合、月曜から金曜までの週5日間の治療を数週間続ける。最も長い治療では7週間ということもある。
「1回の治療に要する時間は15分くらいで、それ以外の時間、患者さんは基本的に家で生活されているわけです。したがって、副作用対策はセルフケアに頼らざるを得ません。セルフケアで何ができるかによって、患者さんのQOLは大きく変わってくることになります」
そこで、放射線治療における看護では、「患者の力」に着目したセルフケア支援が重要になるという。
治療中に何が起きるかを治療前に説明する
放射線治療は治療期間も長いが、治療を開始するまでに治療計画を立てたり、固定具を作製したりする期間が必要になる。また、治療が終了した後も、しばらくは副作用の症状が続くことになる。放射線治療室の看護師は、それぞれの時期に応じた看護に取り組んでいる(図1)。
まず必要なのが、どのような副作用が現れるのかを予測することだという。
「抗がん薬の副作用は全身に及びますが、放射線治療の副作用は、放射線を照射した部位に現れてきます。そこで、治療計画の画像(図2)を見て、その線量分布から、どのような副作用が現れてくるかを推測します。そして、治療が始まる前に、それを患者さんに伝えておきます」
放射線は目に見えないし、治療開始当初は何の症状も現れてこない。だからこそ、これから何が起きてくるのかを、患者さんに知らせておくことが大事なのだという。
がん研有明病院では、これから放射線治療を受ける患者さんに、治療部位に応じた簡単なパンフレットを渡している。そこには、『治療中にはこんなことが起こります』と『気をつけていただきたいこと』が、箇条書きで簡潔にまとめられている。患者さんに情報を提供し、それを理解してもらうことが、「患者の力」を引き出す第一歩なのだ。
患者さん1人ひとりのできることを把握する
長期間に及ぶ放射線治療を完遂するためには、看護師が患者さんについて知っておくことも大切だという。
「その患者さんがどんな生活を送っているのかといったことや、どういうことならできるのか、どこまでできるのか、といったことを把握しておく必要があります。例えば、照射部位に皮膚炎が起きたとき、どんな処置ならできるのかによって、対処法が変わってくるからです」
こうした「患者の力」は、人によって大きく異なる。年齢や性別によっても違うし、同居する家族によっても、できることは違ってくることがある。
「患者さんがどういう生活を求めているかによっても、支援の内容は違ってきます。例えば、放射線治療を受けながら仕事を続ける方もいます。そのような場合には、予約時間を調整したりして、できるだけ無理なく治療が続けられるようにサポートしています」
まさに患者さん1人ひとりに応じたセルフケア支援が必要になってくるのである。