がん看護専門看護師 山田みつぎの
副作用はこうして乗り切ろう!「むくみ」
がん治療についてまわる「むくみ」。タキソテールやアリムタなどの抗がん薬で頻度の高い副作用ですが、いかに早くその徴候に気づき、治療を開始するかがカギになります。日常生活に注意しながら、予防することが大切です。
タキソテールが圧倒的
がん化学療法の副作用として頻度の高い「むくみ」。がん細胞を叩くという大仕事を前に、命にかかわらないむくみは長年軽視されてきましたが、がん医療の進歩とともに、QOL(生活の質)を著しく下げる副作用として、積極的に予防対策が行われるようになってきました。まず、抗がん薬によるむくみについてみてみましょう。
タキサン系の抗がん薬、なかでも*タキソテールはむくみが出やすい副作用として知られています。タキソテールは微小管阻害薬に分類される抗がん薬。微小管の働きをブロックする過程で、毛細血管壁に隙間ができ、通常は透過しない大きい分子まで血管外へ漏れ出るようになり、その結果、手足や顔などがむくむのです。
タキソテールは、乳がん、卵巣がん、子宮体がん、前立腺がん、非小細胞肺がん、胃がん、食道がんなど多くのがん種に用いられ、*シスプラチンや*5-FUとの併用療法(DC療法、DCF療法)にも使われるため、使用頻度の高い抗がん薬の1つです。
対策は、ステロイド薬*デカドロン/レナデックスの内服です。タキソテール投与直後から2~3日内服すると、むくみの発症をかなり遅らせることができます。
タキソテール投与が、総用量490mgを超えたころからむくみの発症頻度が増しますが、ステロイド薬内服によって総用量810mgぐらいまでむくみの発症を遅らせることができます。「遅らせるだけか」と思われるかもしれませんが、1回の投与量が70~80mgですから、6、7回目でむくみが出始めるか、10回以上から出始めるかは、実は大きな違いです。実際、ステロイド薬を内服すれば、抗がん薬治療を完遂できる割合が大きく上がることがわかっています。ステロイド薬を内服しない場合、3割以上がむくみのつらさから抗がん薬投与を途中断念してしまうというデータもあり、むくみ対策としての効果が高いといえます。
*タキソテール=一般名ドセタキセル *アリムタ=一般名ペメトレキセド *シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ *5-FU=一般名フルオロウラシル *デカドロン/レナデックス=一般名デキサメタゾン
なぜリンパ浮腫になるのか
ここからは、手術や放射線治療が原因で起こる「リンパ浮腫」を考えていきます。
体内には、血管(動脈と静脈)のほかに、リンパ管があります。心臓から送り出された血液が動脈を通り体の毛細血管に流れ、それが再び集まり静脈を通って心臓に戻ります。毛細血管からしみ出した組織間液のうち、静脈に吸収されなかった液は、リンパ液として毛細リンパ管に吸収されます。毛細リンパ管は徐々に合流して、心臓の手前で静脈に合流します。リンパ液は免疫反応を起こすリンパ球を運んだり、細胞から老廃物やタンパク質を回収しています。
リンパ管は皮膚の表面近くに網の目のように張り巡らされ、深部にもぐっていきますが、腋の下や首の付け根、鼠径部にはリンパ節という組織があり、関所のような役割をしています。ここが手術などで遮断されると、行き場のなくなったリンパ液が過剰に溜まります。その状態を「リンパ浮腫」といいます。
乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がんなどの手術(リンパ節郭清)後や放射線をリンパ節に照射した後にしばしば起こります。発症時期はまちまちで、一度発症すると治りづらいのが特徴です。
乳がんでは腕、子宮がん、卵巣がん、前立腺がんでは下腹部、陰部、脚に起きます。
リンパ浮腫は予防と早期発見が大切
予防の第1歩は、日常生活の注意から始まります。まずは、むくみが生じやすい部位、腕や足をクッションや座布団などで少し高くしてリンパの流れをよくし、末梢に水分が溜まるのを予防します。
また、正座ではなく、足を伸ばして座るようにしたり、手がむくみやすい場合は、なるべく重い荷物を持たないように気をつけることも大切です。荷物の重さだけではなく、手さげ袋やバックの持ち手を太くて柔らかい材質に工夫するだけで、手や腕への圧迫を避けることができます。ちょっとした工夫次第で、むくみを和らげることができるんですね。
次に大切なのはスキンケア。むくんだり乾燥した皮膚はとても傷つきやすく、ちょっとした傷から細菌が入り、
そして、何より大切なのは、むくみの徴候に早く気づくことです。「腕や脚が重くなった」「だるくなった」「皮膚をつまんだとき、皺が寄りにくくなった」などがシグナル。
患者さんが簡単にできるのは、手の甲や腕の血管の見え方を、左右見比べてみる方法です。浮腫がある側の腕や手の甲は、青く浮いていた血管が見えにくくなっています。また、皮膚の表面が伸びてつやつやしていることもあります。
こうした初期症状を見過ごさず、医師に相談して早めの対策を早めにケアを始めると、症状は改善しやすく、自己管理しながら十分に日常生活を送れます。
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