「起こる前のケア」と「早期発見」で、二重に予防!
リンパ浮腫を起こさない予防策とセルフケア
リハビリテーション科部長の
田沼明さん
乳がんの手術後にしばしば見られるリンパ浮腫は、いったん起こると繰り返しやすくなります。
予備知識を持ち、手術後は日常生活に注意しながらスキンケアなどをこまめに行って、予防することが大切です。
乳がん手術を受けた人の1~3割に発症
リンパ浮腫は、乳がんや婦人科がんの手術後にしばしば起こるつらい後遺症です。乳がんでは、脇の下のリンパ節を郭清(取り除くこと)した場合や、放射線照射をした場合、10~30パーセントの人に起こると言われています(調査により幅がある)。発症する時期はまちまちで、比較的早期に起こる人もあれば、10年、20年たってから起こる人もいます。その理由はまだわかっていませんが、個人差があるということでしょう。
手術の方法では、乳房全摘術のほうが、温存手術に比べてリンパ浮腫が起こりやすいようです。なお、無用なリンパ節郭清を防ぐために、がん細胞が最初に流れ着くリンパ節を取って転移の有無を調べる「センチネルリンパ節生検」を行い、リンパ節が温存できると、リンパ浮腫になりにくいと言われています。ただ、皆無というわけではなく、リンパ浮腫が起こるケースも少ないながらあります。
リンパの流れが滞って起こるむくみ
リンパ浮腫とは、簡単に言えば、リンパ液の流れが滞って起こるむくみのことです。
からだの中には血管(動脈と静脈)が走っていることは皆さんご存知ですね。心臓から送り出された血液は、動脈を通ってからだのすみずみの細胞に、酸素と栄養を運んでいます。帰り道は静脈を通って、老廃物を集めながら心臓に戻っていきます。血液が心臓に戻る帰り道、その1割くらいがリンパ管に入り、リンパ液となります。リンパ液は、からだの組織にたまった余分な水分やタンパク質などを集めたり、免疫細胞の運び役となったりします。そして、心臓の手前で、静脈に合流します。
リンパ管は、皮膚表面近くでは細く、網の目のように張り巡らされ、深部にもぐっていきますが、途中途中の節目にあって関所の役目をしているのがリンパ節です。リンパ節の中でも、四方八方からリンパ液が流れ込むわきの下のリンパ節は、大きな交差点のようなものです。ここが手術などによって遮断されると通行障害が起きて、行き場のなくなった余分なリンパ液が皮下組織に過剰にたまってしまいます。他の経路にバイパスされればむくみには至りませんが、うまく迂回できずに貯留がひどくなったものがリンパ浮腫です。
リンパ浮腫は予防と早期発見が大切
静岡がんセンターリハビリテーション科のリンパ浮腫チーム
静岡がんセンターのリハビリテーション科では、医師と作業療法士、理学療法士などがチームを組んで、乳がんの手術前からリンパ浮腫についての説明を行い、手術後も発症予防とセルフケア指導を積極的に行っています。
リンパ浮腫予防のためには、日ごろの生活に注意して、スキンケアなどのセルフケアを心がけることが大切です。また、リンパ浮腫について予備知識をもっていれば、早めに気づくことができ、元に戻しやすくなります。
発症しかけても、早期に発見し、早期にケアを始めると、症状が改善しやすく、QOL(生活の質)を高く保つことができます。
リンパ浮腫の初期症状と早期発見法
リハビリ科の外来入り口
リンパ浮腫を予防するうえで、まず覚えておきたいのは初期症状です。多くの方が「腕が重い」「だるい」など、重だるさを訴えています。皮膚が引っ張られるような痛みを感じる方もあります。
私たちのリハビリテーション科では、乳がんの手術前に両腕の太さ(肘から上10センチ、下10センチなど、医療機関によって異なる)を測っておき、手術後、浮腫が起きていないかどうか確認します。
また、指で押してみて、へこんだあとが残るか、あとも残らないほど硬くなっていないかも目安になります。
一般の方でも簡単にできるのは、手の甲や腕の血管の見え方を左右比べてみる方法です。浮腫がある側の腕は、青く浮いた血管が隠れて見えにくくなっています。また、皮膚表面が伸展してつやつや、てかてかしていることもあります。
0期 | 潜在的なむくみ(むくんでいるかどうかはっきりわからない) |
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1期 | 柔らかいむくみ。指で押すとへこむ。むくんだ腕や脚を挙げておくと元に戻る |
2期 | 皮膚が硬くなり、指で押してもへこまなくなる。腕や脚を挙げても、戻らない |
3期 | 皮膚がかなり硬くなり、ガサガサした状態になる。放置すると、象皮症になることもある |