バイアグラや新たな注入薬で治療法はかなり進歩
もっと積極的に治療を! がんによる勃起障害

監修:永井敦 川崎医科大学泌尿器科教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2010年4月
更新:2013年4月

  

永井敦さん
川崎医科大学
泌尿器科教授の
永井敦さん

がん治療のためとはいえ、男性にとって勃起障害は精神的にも大きなダメージ。
しかし欧米に比べると、日本ではこれまで熱心に取り上げられてきませんでした。
ただ川崎医科大学泌尿器科教授の永井敦さんによると、最近では治療法もかなり進歩しているといいます。

遅れている日本の性意識

内心、かなり気にしているのになかなか口にしにくいのが性の悩み。とくに、日本のがん患者さんはあまり性に関する要望を言わないというのがこれまでの認識でした。

川崎医科大学泌尿器科教授の永井敦さんは、「治療による後遺症の可能性があれば、医師は手術前に必ずご夫婦2人にED(勃起障害)や神経温存術の話をしています。でも『そのことはいいです』というのは奥さんのほうが多いですね。あとで、男性のほうがもう1度話を聞きたいと訪ねてこられることもあります。EDが離婚の原因になる欧米とはかなり事情が違いますね」と話します。

欧米では、性機能を温存する目的で前立腺がんなどでも放射線治療が増えています。日本でも放射線治療は増えていますが、これは勃起障害を避けるためというより、放射線のほうが手術より体への侵襲が少ないというのが主な理由です。

「でも、治療を探し求めて、全国からここまで来られる患者さんがいらっしゃいますから、本当は性機能障害を気にしている患者さんは多いのだと思います。死ぬまで性行為をしたいという気持ちは、男性ならば誰にでもあるはずなのです」

と、永井さんは患者の心情を思いやります。

日本では、性に対する羞恥心や、「大病をしたのだからしょうがない」という思いが、性の悩みを封じ込めていたともいえます。そのために、欧米に比べると性機能障害に対する治療の普及も遅れているのが実情です。

しかし、バイアグラ(一般名クエン酸シルデナフィル)や新しい注入薬などが開発され、勃起障害の治療はかなり進歩しているのです。

心因性ならば工夫も可能

[勃起障害のタイプ]

性的に興奮しない=心因性
  • うつ状態
  • がん手術によるこころの変化
    体の変化に伴う落ち込み
勃起させる神経から一酸化窒素がでない=神経障害
  • 糖尿病
  • がん手術で神経が傷つく
  • がん手術で神経を取る
  • 脊髄疾患・脊髄損傷
動脈血流が増えない=血管障害
  • 糖尿病
  • 動脈硬化・高血圧
  • がん手術で動脈が傷つく

永井さんによると、がん治療による男性の性機能障害(一般的には勃起障害)には、心因性、神経障害、血管障害と大きく3つのタイプに分けられます。

心因性の勃起障害は、がんの種類を問わずに起こる可能性があります。がんになったことでうつ状態になったのが原因で起きたり、手術による体型の変化から勃起障害になることもあります。人工肛門になったり、人工膀胱になって体の形が変わってしまうと、セックスを楽しむ気になれなくなってしまうのです。

「とくに、においによる心理的な影響は大きいですね。パートナーの女性も、途中で男性のストーマ(人工肛門)がはがれるのではないか、漏れるのではないか、と心配して、集中できないことがあるのです」(永井さん)

しかし、こうした場合は、勃起機能そのものに異常があるわけではないので、まだ対策があるといいます。

うつならば抗うつ剤を使うこともあります。においに対しては消臭剤や香水を使ったり、ストーマの場合は通常のものだと中身が透けて見えてしまうので、明るい模様入りのケースで性行為のときは包んでしまうのも手です。

そして、こうしたケースには、バイアグラなど勃起障害の治療薬も有効です。

パートナーの協力を得て、問題にあった対策をとることで克服できることも少なくないのです。しかし、こうした対策ではどうしようもないのが、勃起神経が障害されて起こる勃起障害です。

勃起障害を起こしやすいがん手術

[男性生殖器の構造]
図:男性生殖器の構造

神経障害による勃起障害を起こしやすいのは、直腸がん、前立腺がん、膀胱がんなど骨盤内のがんを摘出する手術です。

勃起をつかさどる勃起神経は、直腸から前立腺の両脇を通り、尿道から陰茎へとだんだん細くなりながら網の目のように広がっています。

前立腺の切除はもちろん、膀胱がんの場合も前立腺を一緒に摘出します。こうしたときに、勃起神経を損傷したり、切断して高率に勃起障害が起こるのです。

「人工肛門が必要な直腸がんの場合は、高率に勃起障害がおこります」と永井さん。

今は、可能ならば勃起神経を残す神経温存術が行われていますが、「温存術を行っても、神経の一部が傷害されたり、電気メスの熱による変性が起きたり、少なからず勃起障害を起こす人がいるのです」。

がんを根治するのならば、神経まで一緒に切除してしまったほうが安心だけれども、できるだけ神経を残して後遺症を少なくしたいというジレンマがどうしてもあるといいます。

このような神経の損傷から起こる勃起障害にはバイアグラも効果がありません。

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