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困難極めた未受精卵の凍結も、今や凍結していない卵と同等の妊娠率!
抗がん剤や放射線で不妊になる前に考えよう! 卵子の凍結保存法

監修:桑山正成 加藤レディスクリニック先端生殖医学研究所代表
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2010年3月
更新:2013年6月

  

桑山正成さん 加藤レディスクリニック
先端生殖医学研究所代表の
桑山正成さ

生殖機能は、抗がん剤や放射線治療の障害をもっとも受けやすい機能の1つ。
とくに卵子は凍結保存が難しく、これまでがん治療のために不妊になるケースも少なくありませんでした。
これを、ガラス化凍結法という方法で克服したのが、加藤レディスクリニック先端生殖医学研究所の桑山正成さんです。
今では、凍結卵子の生存率は98パーセントと、非凍結卵と同等の妊娠率をあげています。

35歳を過ぎると低下する妊娠率

[不妊の原因]
図:不妊の原因

これまで、未婚の女性が放射線や抗がん剤治療で妊娠能力を失う危険があっても、卵子を守ることが難しいのが実情でした。しかし、生殖医療の進歩は、今やがん治療による不妊対策にも大きな力を発揮するようになってきました。

たとえば、白血病など血液のがんでは、完治のために造血幹細胞移植が行われることがあります。移植は、放射線や強力な抗がん剤によって徹底的にがん細胞を叩くことが前提です。そのため、精巣や卵巣へのダメージが大きく、治療後に不妊となることが少なくありません。

こうしたリスクは、血液のがんに限ったことではないのです。たとえば、乳がんでも、抗がん剤治療を行った場合、使う抗がん剤の組み合わせによっては、閉経状態になるリスクがあるといいます。もちろん、回復する場合もありますが、そのまま閉経してしまうこともあります。そうなれば、卵子が成熟して排卵されることはなくなり、妊娠機能は失われてしまうのです。

もう1つ、桑山さんは生殖医療の専門家として、年齢の問題を指摘しています。「体外受精を行って受精卵を子宮に戻しても、卵子の老化によって35歳をすぎると妊娠する率はどんどん低下していきます。45歳前後でほぼゼロに近くなる」というのです。

体外受精は、卵子と精子を人工的に体外で受精させて、母体に戻す方法です。アメリカのデータでは、35歳までは体外受精によって赤ちゃんが生まれる率は35パーセント前後で推移します。ところが、35歳を過ぎるとその数字が下がりはじめ、40歳では20パーセント、45歳になると何と2パーセントぐらいになるといいます。そのため、卵子バンクのあるアメリカでは39歳以上になると、体外受精に自分の卵子を使わず、若い人の元気な卵子を提供してもらって行うのだそうです。

治療前の卵子保存が合理的

一方、「がん患者の場合、抗がん剤の影響が抜けるには7年かかるといわれます。乳がん手術後には、再発を防ぐためにホルモン療法を5年ぐらい行うのが標準。そうなると、30代半ばで乳がん治療を受けた場合、妊娠可能なのは40歳過ぎになってしまいます。やっと妊娠できる時期には、もう加齢によって自分の卵子で赤ちゃんを作ることはかなり厳しくなっているといわざるをえないのです」と、桑山さんは説明しています。

つまり、治療によって直接不妊にならなかったとしても、年齢的な問題で赤ちゃんを得ることが難しくなることも、考えておかなくてはならないのです。

ところが、ここにもアメリカのデータがあります。20代の女性から採取した卵子を体外受精して、45歳以上の加齢による不妊女性の子宮に移植した場合、1移植当たり50パーセントぐらいの高い妊娠率で赤ちゃんを得られるといいます。桑山さんによると「子宮は、60歳になっても赤ちゃんを育てることは可能な場合が多い」といいます。1番の問題は、若くて元気な卵子があるかどうかなのです。

とすれば、がん患者の場合、治療によるダメージを避けるという意味でも、若い元気な卵子を保存するという意味でも、治療前に卵子を採取して保存しておくのが、もっとも合理的といえます。これを可能にしたのが、桑山さんが開発した「超急速ガラス化凍結法」なのです。

1パーセント未満だった出産率

今、がん治療による不妊対策には、2つの方法があります。1つは、放射線照射から卵巣を遮蔽して妊娠機能を守る方法、もう1つが卵子の凍結保存です。前者については、すでに「あきらめないで!! 妊娠機能を温存する、放射線から卵巣を守る治療」で紹介しましたが、これは放射線治療に限った対策です。

一方、凍結保存のほうは、すでに精子や受精卵では可能になっています。配偶者がいる場合は、受精させた後に受精卵(胚)を凍結保存することができるのです。しかし、若い女性や未婚の女性など、パートナーがいない場合は、未受精卵の状態で卵子を凍結保存することが求められます。実は、これが難しかったのです。

「未受精卵は、非常にデリケートで耐凍性が低く、凍結保存がきわめて難しかったのです」と桑山さんは語ります。

ヒトの卵子の凍結保存は、1986年に成功例が報告されていますが、その後11年間だれ1人成功した人はいませんでした。その後、改良されて成功例も報告されるようになりました。これが、緩慢凍結法といわれる方法です。しかし、実際には「凍結保存しても、解凍後の卵子の生存率は2割程度で、体外受精で赤ちゃんが誕生する率は1パーセントにも満たなかったのです」と桑山さん。これでは、とても医療現場で役立つ方法とはいえません。

細胞は、低温で死ぬことはないのですが、0度以下になると、細胞内の水分が氷の結晶を作り、体積が1.1倍になります。この体積の膨張が細胞の膜や内容物を物理的に破壊してしまうのです。家庭で冷凍した肉を解凍すると、赤い肉汁が出ることがありますが、あれは肉の細胞が凍結によって破壊されたからです。人間の細胞でも同じようなことが起こるのです。

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