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家族や患者自身がケアできるのもメリット

香りで不快な症状を緩和し、心身を癒すアロマトリートメント

監修●長谷川記子 薬剤師/アロマテラピスト
取材・文●池内加寿子
(2016年4月)

「がん患者さんのアロマテラピーは、とくに心理面の症状改善に有効です」と話す長谷川記子さん

植物の芳香成分を利用して、不快な症状を軽減するアロマテラピー。現在、アロマテラピー介入後のがん患者の症状を評価した臨床研究に基づき、様々なエビデンス(科学的根拠)が集積されつつある。がん患者にはどのような効果があるのだろう。また、精油(エッセンシャルオイル)はどう選び、どのようにトリートメント(マッサージ)を行えばよいのだろうか。

美容や医療に幅広く用いられているアロマ

香りを楽しみながら、心身への恩恵に浴するアロマテラピー。アロマは香り(芳香)、テラピーは療法という意味で、芳香療法と訳されている。芳香療法はクレオパトラの時代から、美容や医療に用いられていたとされる。

「20世紀の前半、フランスの科学者が精油を使った治療を行い、アロマテラピーという言葉を使ったことから一般に知られるようになりました。現代医療の分野で活用されるアロマテラピーはメディカルアロマと呼ばれています」と、20年以上前からメディカルアロマの指導をしている薬剤師でアロマテラピストの長谷川記子さんは解説する。

欧米では近代医学の補完代替療法の1つとして、がんの症状や治療の副作用軽減のための補助療法として行われるようになっている。日本でも、アロマテラピーによるがん患者の諸症状の改善などの研究により、「日本緩和医療学会」が発行している『がん補完代替医療ガイドライン(第1版)』で、「推奨グレードB(行うよう勧められる)」の評価を得ている。

1種類の精油に 100以上の有機化合物を含む

図1 ラベンダーの精油を使ってトリートメントした後の
リナロールの血漿中の濃度

ラベンダーオイルの主成分であるリナロールは、数分以内に血中に溶け込み、約20分後には血漿中で最大濃度となり、90分後には血漿中から消えていく(ブッフバウェルらの実験参考 1992)

アロマテラピーに用いる香りのもとは、樹木の樹皮、実、草花、ハーブなどの植物から抽出した天然の芳香成分で、精油(エッセンシャルオイル)と呼ばれ、植物ごとに様々な作用を持つ。

「1つの精油の中には、アルコール類、エステル類、フェノール類など100種類以上の有機化合物が含まれ、相乗効果を発揮します。精油の芳香分子は、体内に吸収されると、肺胞を通して血液中に溶け込みます(図1)。ユーカリ、ローズマリー、オレガノなどには、抗菌、抗炎症、防腐作用が、ラベンダーやカモミールは鎮静、鎮痛、抗うつなど、様々な作用があります。

また、精油には刺激の強いもの、弱いもの、ホルモン様の作用を持つものなどもあり、がんの種類や症状によっては向き不向きがあるので、それぞれの特徴を知っておくとよいでしょう」

QOLを改善し、心理面にも効果を発揮

メディカルアロマにはいろいろな用法がある。

希釈した精油で手足やボディを軽くなでさするアロマ・トリートメントマッサージ(以下、アロマトリートメントと表記)、バスタブに精油を数滴たらして入浴するアロマバス、アロマディフューザーに入れて蒸気とともに揮発させ、香りを吸う吸入法、ティッシュに精油を含ませて香りを漂わせる方法などだ。

「とくにアロマトリートメントは、心地よい香りによる嗅覚からの作用と、皮膚への作用、さらに血流促進の効果も得られます。患者さん自身でセルフケアができるのはもちろん、ご家族が患者さんに対してケアできるのもメリットです。ご家族がスキンシップをすることで、お互いに不安が和らぎ、気持ちが落ち着いて、安らぎや幸福感を得られる点でも、患者さんに喜ばれています」

アロマトリートメントは、がんの患者さんにはどのような効果をもたらすのだろうか。

「患者さんのQOL(生活の質)を改善します。海外の臨床試験では不安などの気分の不調や、便秘、痛みなどが改善されたという報告があります。

日本の研究者の報告では、ジャスミンでは交感神経がよく働き、カモミールでは鎮静化されることがわかっています。また、抗がん薬治療中の食欲不振や免疫力の低下によって起こるカンジダや水虫、皮膚炎、手足の冷えなどにも有効です。

さらに、身体症状の軽減だけでなく、アロマはがん患者さんの心理的な症状の改善にも力を発揮します。例えば、がん患者さんの多くが抱きがちな将来への不安や孤独感、落ち込み、不眠などを軽減します。また、乳がんのような女性特有のがんの場合、術後に女性としての自信を喪失してしまう方や、抗がん薬の副作用による脱毛で精神的なショックを受ける方が少なくありません。それらを取り除き、心を癒す作用があるのです」

自律神経系のバランスを整える作用

薬物療法は即効力がある半面、副作用も出てくるが、アロマトリートメントは、精油の量や種類などの用法を守れば、穏やかな作用でサポート療法になるという。

長谷川さんは、アロマトリートメントが心身に働きかけるメカニズム(作用機序)をこう説明する。

「薬学的側面からみると、精油の芳香成分は分子が小さく揮発性に富んでいるので、速やかに体内に吸収されます。気管支を通って肺胞から血管内に入り脳に伝わるルートや、鼻腔粘膜にある嗅細胞から直接大脳に伝わるルートなどいくつかの経路を通り、免疫系や自律神経系、内分泌系をコントロールする大脳辺縁系や脳の視床下部に働きかけます。そのため、自律神経系のバランスを整え、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の働きも活発にすると考えられます(図2)。

図2 精油の吸収と作用代謝経路
香りを吸い込むと3つのルートで体内に吸収される(ペリネイタルケア 1998 Vol17 参考改編)

また、芳香分子はごく小さいために、アロマトリートメントなどを行うことで皮膚から毛細血管に吸収され、さらに効果を高めます。皮膚にタッチングするテラピーは、心のケアにもつながります」

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