右目の網膜芽細胞腫と診断。選択的眼動脈注入療法とは?
1歳になる娘が、右目の網膜芽細胞腫と診断されました。本で、この病気について調べてみると、治療法に副作用の少ない選択的眼動脈注入療法があることを知りました。この治療法についての適応やメリット・デメリットなどを教えて下さい。
(秋田県 女性 40歳)
A 薬剤を腫瘍だけに投与する治療法
選択的眼動脈注入療法は、アルケラン*という薬物を眼の腫瘍がある眼球の動脈に、直接流し込む治療法です。
この治療の最大のメリットは、ほんの少量の薬剤で、非常に大きな効果を発揮するという点です。腫瘍を含む眼部に効果的に薬を送り込むので、骨髄抑制などの、重篤な全身の副作用がほとんど起きません。
この選択的眼動脈注入療法には、2つの方法があります。1つは、内頸動脈から分かれる最初の大きな支流である、眼動脈の入口を越えたところで、風船を膨らませて、眼以外に薬物が流れないようにする方法で、もう1つはカテーテルを直接眼動脈に入れて薬物を注入する方法です。
この治療法はがんの進行度によって、腫瘍の縮小効果は異なります。初期(国際分類A期)のがんでしたら、ほぼ間違いなく肉眼で見える腫瘍はなくなり、最も進行したE期でも、30%の確率で眼球が保存できます。
この治療は、20年以上の歴史があり、1回の治療に使用するアルケランの量は5㎎です。多めに薬剤を投与すれば、腫瘍の消失率が高まりますが、神経が委縮するなどといった動脈閉塞の恐れがあり、失明など、視覚機能に回復不能な障害を生じることがあります。その一方で、薬が少量だと再発率を高めてしまいます。
選択的眼動脈注入療法は優れた治療法ですが、カテーテルという細い管を、動脈に入れて薬剤を送るため、特殊なカテーテルの操作技術の習得が必要になります。
日本では、この治療を行える医師が非常に少ないため、限られた医療機関でしか受けることができません。現在この治療法を行っているのは、国立がん研究センター中央病院のみです。
そのため、治療の順番待ちが数カ月に及ぶ場合もあり、その間の腫瘍の進行を抑えるため、数カ月の間、全身的な抗がん剤治療を行うことが日本では少なくありません。
また、この治療法はまだ健康保険の適用にはなっておりません。
*アルケラン=一般名メルファラン