転移していないのに化学療法は必要?

回答者:岸田 健
神奈川県立がんセンター 泌尿器科医長
発行:2013年3月
更新:2013年11月

  

以前より精巣が腫れていたので専門医に診てもらったところ、精巣がんと診断され、摘出術を受けました。その後の検査で転移は見つからず、I期の精巣がんと言われましたが、念のためBEPという化学療法を行うそうです。化学療法は副作用も強いと聞くし、自分としてはあまりやりたくないのですが、術後の化学療法は受けたほうが良いのでしょうか?

(兵庫県 21歳 男性)

A 長所・短所を考え、主治医と相談を

がんは手術で取り除けば、それで終わりというわけではありません。というのも、目に見えない小さながんの転移があるかもしれないからです。

がんで怖いのは再発や転移です。そのため、術後に抗がん薬を投与して再発の可能性を減らし、より一層完治に近づける治療を補助化学療法といいます。この考え方はどのがん種にも言えることで、精巣がんでも同じです。

精巣がんのⅠ期というのは、精巣にのみがんがあり、CT(コンピュータ断層撮影)などの検査で転移が見つからないものを言います。しかし、精巣がんⅠ期の患者さんを手術だけで治療した場合、2~3割の方が再発してくるのです。

再発したとしても、早期に発見できればその時点でセミノーマなら放射線治療または抗がん薬治療、非セミノーマは抗がん薬治療を行えば、ほとんどの患者さんはこれらの治療で治ります。

一方で、再発をしないように、手術でがんの部分を取り除いた後に補助化学療法を行ってしまうという選択もあり、この段階で化学療法を行えば、再発率は1~2%になるとされており再発の危険性はほとんどなくなります。

ただ、抗がん薬治療には、人によってはしびれや吐き気、腎機能障害などの副作用や、精巣の機能障害といった後遺症があります。また、追加治療をしないで再発する可能性は2~3割ですから、残りの7~8割の患者さんにとって術後の化学療法は過剰な治療ということになります。

そのため現在では、再発リスクが低い患者さんなどには術後補助化学療法を行わず、腫瘍マーカーや画像診断を用いて、再発の有無を経過観察することが主流となっています。

ただし、経過観察には問題点もあります。転移がなく経過観察と言われると、もう完治したと思い通院してこない患者さんがいます。再発は2年以内に起こることが多いのですが、再発したかどうかは自覚症状も出ないのでわかりませんし、5年を過ぎてから再発することもあります。

きちんと通院して経過観察をしないと、「お腹が腫れてきた」「首のリンパ節が腫れてきた」と気付いて病院に来たときには、かなり進行した状態になっている場合があります。

そのため、注意深い経過観察が最低5年は必要です。初めの2年は3カ月に1回の割合で通院してもらいます。3年目以降は半年に1回、5年目以降は1年に1回と間隔は延びますが、それ以降も再発の可能性があるので、経過観察として10年はみなければならないのです。

このように精巣がんのⅠ期では、補助化学療法を受ける長所・短所、受けない長所・短所を考えなければなりません。多くの病院では、両方の対処方法が提案されると思われます。

主治医と相談して、なぜ補助化学療法を行うのかを理解したうえで決めることが大切となります。

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