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第5回 いま注目の組織「ファシア」 治療中でも手軽なストレッチで体をほぐす

監修●遠藤健司 東京医科大学整形外科准教授
取材・文●小沢明子
発行:2021年4月
更新:2021年8月

  

「病気が落ち着いたら、体は動かしたほうがいいのです。ファシアの痛みは、痛み止めが効きません。体を動かすことがクスリなのです」と語る遠藤健司さん

肩こりや腰痛、がんの不安からの不眠などで悩んでいませんか。その上、新型コロナ感染症の影響で外出を控えるようになると、ますます運動不足になりがちです。こうした不調の原因の1つとして、体内組織の「ファシア」が話題になっています。

これまで肩こりや腰痛は、筋肉の不調からくるものだと思われていましたが、実はファシアが大きく関わっているとか! そもそも、「ファシア」とは何なのか、がん治療中の体調の不調、肩こりなどの解消には何か有効なのか、東京医科大学整形外科准教授の遠藤健司さんにお話を伺いました。

「ファシア」は体をスムーズに動かす組織

「ファシア」というのは聞き慣れない言葉です。いったいどのようなものなのでしょうか。

「ファシアは、全身の臓器や血管、筋肉などをくまなく覆っている『ゆるゆるした組織(疎性結合組織)』のことです。筋肉を覆っているというと『筋膜』と考えられがちですが、筋肉だけでなく骨や血管、それぞれの臓器と臓器の間に筋膜と同じような組織があり、これらも含めたものをファシアといいます。みかんに例えると、皮をむくと出てくる白い繊維状のものと、実を包んでいる薄い透明な皮がファシアです。

これまで関心を集めてこなかった組織なのですが、近年の研究で、ファシアは全身にあって体の組織を支えていたり、筋肉や神経、関節などの動きをよくしたり、痛みを伝えたりする役割をしたりしていることがわかってきました」(図1)

■図1 ファシアとは

ファシアとは皮膚と筋肉やさまざまな組織の間を埋める疎性結合組織

蜘蛛の巣のような編み目構造をしているファシア

体を動かすときにファシアが役立っているということですか。

「そうです。ファシアは蜘蛛の巣のような編み目構造をしていて、体内を縦横無尽に張り巡らせています。私たちが体を動かすと筋肉や臓器をとりまくファシアも同時に動く仕組みになっています。

ところが、ファシアが硬くなったり筋肉や臓器に癒着してしまったりすると、体を動かしづらくなります。みかんは古くなって乾燥すると硬くなり、皮と実がくっついてむきづらくなりますね。それと同じように、体の柔軟性に関わっているのです。ですから、ファシアが自由に動けるような状態になっていることは、とても大切なのです」

悪い姿勢と不動化でファシアが硬くなる

では、肩こりなどの不調とファシアはどのように関係しているのでしょうか。

「肩こりのいちばんの原因は姿勢の悪さと、長時間動かない『不動化』です。猫背になっていたり、ずっと座ったままでいたりすると、ファシアは癒着しやすくなります。また、ストレスや緊張などがあると筋肉が硬くなりますが、そのまわりにあるファシアも固まってしまいます。

さらに、冷えや運動不足などによって血行が悪くなると、ファシアに水分がたまってむくんだ状態になります。むくんだファシアは筋肉を圧迫したり、筋肉の動きを邪魔したりします。このようなファシアの癒着やむくみが、こりや痛みを引き起こすのです」

肩こりを防ぐには、ファシアをゆるい状態にしておくことが大切ということですね。とくに女性は肩こりで悩みがちですが、ファシアをゆるい状態にするには、どうすればいいのですか。

「ファシアはコラーゲンを多く含んでいる組織です。女性の場合、閉経によって女性ホルモンの分泌が低下するとコラーゲンが硬くなるため、閉経後の女性はファシアが硬くなりやすいといえます。

また、最近は長時間スマートフォンを利用したり、外出を控えたりすることで全身の血行不良や運動不足になる人がたくさんいます。

その結果、筋肉自体が硬くなると「疼痛感作(とうつうかんさ)」といって痛みを感じやすい状態になります。

これが慢性化すると脳内のセレトニンの分泌が低下し、交感神経の緊張が強くなり、頭痛や動悸、めまい、不眠などの症状(自律神経症状)が出てきて、QOL(生活の質)を大きく下げてしまいます。

できれば30分に1回は、体を動かしましょう。座った姿勢から立ち上がり、体を伸ばすだけでもいいのです。

適度に体を動かすこととストレスをため込まないことを心がけ、慢性化を防ぐことが大切です」

肩がこると手でもんだり、マッサージをしたりすることがよくあります。これでファシアをやわらかくすることはできますか。

「程度の軽い肩こりであればよくなりますが、インナーマッスル(深層筋・体の中心に近い筋肉)の血流障害が起きている場合は、叩いたりマッサージをしたりしてもやわらかくすることはできません。根本的な解消になっていないため、繰り返し肩こりが起こります。

さらに、肩こりは筋肉がダメージを受けた状態ですから、強くもんだり叩いたりすると、かえって筋肉を傷つけ、傷ついた筋肉は修復するときさらに硬くなりますから、肩こりが悪化する恐れもあります」

肩を強く叩いたり、もんだりすることは逆効果になることがあるということですね。

肩こりを改善する運動「肩甲骨はがし」

肩こりを解消できる運動には、どのようなものがありますか。

「首のインナーマッスルについている肩甲骨を動かして、肩甲骨周辺のファシアの癒着をはがしましょう。このストレッチは私が考案したもので『肩甲骨はがし』と呼んでいます。長時間の同じ姿勢や運動不足、ストレスによって、筋肉が肩甲骨に張りついたように、ガチガチに固まってしまったのをほぐすことができます。

また、『肩甲骨はがし』を行うと、姿勢も改善します。肩甲骨を動かすことで菱形筋(りょうけいきん)のファシアの力が背骨のファシアに伝わり、並んだ脊椎(背骨)の1つひとつの動きがよくなります。その結果、正しい湾曲を保つことができるようになります。姿勢がいいと、美しい体型を維持することにもつながります。

●肩甲骨はがし

①肘を曲げて肩より少し上に上げます

②左右の肩甲骨を背中の中央に寄せるように、5秒かけて肘をゆっくり後ろに引き、肩甲骨の間をぎゅっと縮めます。このとき肘が下がらないようにするのがポイントです

③そのまま肘を下げ、腕をおとして力を抜き、ひと呼吸します

①から③を3回、ゆっくりと行ってください。

●腕を上げると痛い場合

腕を上げる動作に関係している筋肉(棘上筋・きょくじょうきんと三角筋)のファシアがむくんでいると痛みが起こります。むくみを押し流し、ファシアをゆるめましょう。

①腕を伸ばして手を壁につきます

②反対の手で首のつけ根から肩のつけ根に向け、手のひら全体を使い、さするようにむくみを押し流します

睡眠時は寝返りをうつことが大切

がん治療で手術をした人のなかに、傷の痛みが残るという人がいます。ファシアが関係しているのですか。

「ファシアからくる痛みは、神経痛の痛みとは性質が違います。何となく肩が重いといった、ちょっとした不調のようなもので、耐えがたい痛みになることはあまりありません。手術後、傷が回復してきたら、体をある程度動かしながら完全によくなるのを待つようにするとよいでしょう。つらいからといって動かないのは逆効果です。

通常、手術後の痛みは、時間が経過すると炎症が治まり、損傷した組織が修復されて落ち着いてきます。ただし、痛みが長引くようでしたら担当医に相談してください。

ほかにがん患者さんへのアドバイスは何かありますか。

「睡眠のときは、よく寝返りをうってください。寝返りは、寝ている間に圧迫される部位のうっ血を分散させたり、睡眠のリズムを調節したりする役割があります。寝返りをうたないとファシアが硬くなってしまいます。寝返りをうちやすい衣類や、枕、布団などの寝具を使うとよいでしょう。寝る前に、ゴロンゴロンと転がるのもおすすめです。

また、がん患者さんに限ったことではありませんが、やはり大切なのは、栄養・睡眠・運動です。しっかり栄養をとり、よく眠り、適度な運動をする生活が体調の維持につながります」

「肩甲骨はがし」は座ったままでもできますから、生活の中に取り入れて習慣にするといいですね。

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