楽・得 がんケアのABC

第8回 最新の褥瘡予防ポイントはこれ!

監修●大浦紀彦 杏林大学医学部形成外科学教授
取材・文●小沢明子
発行:2022年3月
更新:2022年3月

  

杏林大学医学部形成外科学教授の大浦紀彦さん

在宅で療養をするがん患者さんが増えています。体を動かしづらくなったり、寝たきりになったりすると、「床ずれ(褥瘡)ができやすい」という話をよく聞きます。では、褥瘡を予防するには、具体的にどうしたらいいのでしょうか。

今回は、褥瘡予防について長年研究をされている杏林大学医学部形成外科学教授の大浦紀彦さんにお話しを伺いました。近年は褥瘡予防のための寝具やグッズもいろいろ開発されているので、ぜひ参考にしてください。

自分で動くことができ、寝返りを打てる人は床ずれ(褥瘡)ができないそうですが、そもそも褥瘡とはどういうときにできるのでしょうか。

褥瘡(じょくそう)は、体の一定部位に体重がかかる「圧迫」や、「ズレや摩擦」などの刺激が原因で起こります。たとえば、かたい床の上に寝ていると、出っ張った骨のところが痛くなるでしょう。なぜ痛いかというと、そこに高い圧力がかかるからです。

そのまま数時間動けない状態が続くと血流障害を起こし、軟部組織(皮膚、脂肪、筋肉など)の細胞に血液から酸素や栄養が届かなくなり、細胞が壊死してしまいます。そうすると壊死したところから細菌感染が起こり、ひどくなると骨が露出してしまいます。

がんが進行すると、筋力や活動性の低下、むくみ、低栄養などになりやすくなります。傷を治す力も弱くなるため、いったん褥瘡ができると悪化してしまいがちです。

ましてや抗がん薬を使用していると、抗がん薬はがん細胞以外の正常な細胞にも影響を及ぼしますから、普通なら1カ月ぐらいで治るはずの傷が、数カ月もかかってしまうことがあります。

在宅でがんの療養をされている患者さんのご家族には、褥瘡は予防がとても大切ということを知っておいていただきたいと思います(図1)。

在宅介護の場合、褥瘡を予防しないといけないですね。観察のコツはありますか。

褥瘡の好発部位(できやすい部位)は、骨が出っ張っているところ(突出部)です。着替えや入浴のときなどに、その部分を観察するようにしましょう。

仰臥位(仰向け)で寝ている場合は、後頭部、肩甲骨部、仙骨部、踵(かかと)にできやすく、とく多いのは仙骨部と踵です。また、高齢になると背中が丸くなってくる(円背)ので、突出した背骨に褥瘡ができることがあります(図2)。

側臥位(横向き)で寝ている場合は、腰骨の大転子(だいてんし)部や腓頭骨(膝の外側の骨)、外踝(くるぶし)などで、座位では尾骨部や坐骨部が好発部位です。

観察したとき、シーツやパジャマのシワの痕が皮膚に残っているところは、圧力が高いといえます。皮膚が赤くなっていた場合は、褥瘡の初期であることも考えられるので見逃さないようにしましょう。

在宅療養の場合、褥瘡を予防するポイントを教えてください。

1 「体圧分散」できる寝具を使う

近年、褥瘡予防のためのさまざまな寝具が開発されています。自力で体位変換が困難な方には、エアマットレスがおすすめです。

エアマットレスは、「エアセル」という空気の入ったシートがある一定の間隔で膨らんだりしぼんだりを繰り返します。これにより「体圧分散」といって、体にかかる圧力をいろいろなところに分散させることができます。また、姿勢や体勢を自動的、定期的に変えることができるので、介護者が体位交換をする負担を軽減できるのもメリットです。

エアマットレスには高機能なタイプもありますから、自力でどの程度動けるか、骨の突出具合はどの程度かなどを考慮して選ぶとよいでしょう。ただし、これを使うと体がフワフワして船酔いのような気分になるという方もいます。患者さんの希望も考慮して、ご家族や訪問看護師と相談されて選択するとよいと思います。エアマットレスは介護保険でレンタルすることも可能です(画像3)。

エアマットレス

自分で動くことができる患者さんであれば、ウレタンマットレスも有効です。ウレタンマットレスは体の曲線に沿って沈むため、寝返りを打ちづらいという欠点がありますが、フワフワした感じはなく、骨の突出部への圧力も低くなるので褥瘡を予防する効果があります。しかし、圧力を分散する能力はエアマットほど高くありません。

寝具は患者さんの状態に合わせることが大切です。病状が進行すると骨の突出が目立ってきますから、そのときはエアマットレスに切り替えるほうがよいでしょう。

以前は褥瘡予防のために、2時間おきに体位交換をしたほうがよいとされていました。でも現実問題として、介護者がそれをするには負担が大きいですし、患者さんも2時間おきに起こされてしまうと体が休まりません。

現在はできる範囲で体位交換を行い、機能性の高いマットレスを使うことが勧められています。

2 しっかり栄養をとる

褥瘡は、食事と密接な関係があります。寝返りをしたり、ズレないように姿勢を保って座ったりするには筋力が必要ですが、がんが進行したり寝たきりになると、食欲も低下し、だんだんと筋力の低下が進んでしまいます。

高齢者の中には、ごはんと漬物だけで食事をすませてしまうなど、バランスよく栄養をとれていない方がたくさんいます。ごはんだけではなく、もう1~2品おかずを食べるように心がけて欲しいと思います。栄養をつけると体力が上がり、体幹を支える筋肉もついてきます。

3 皮膚をふやけた状態にしない

高齢になったり、栄養がとれない状態が続いたりすると皮膚が弱くなります。

また、湿潤状態にある皮膚は弱く、おむつを当てていて尿がおしりのほうまで回ってしまうと、仙骨部の皮膚がふやけて褥瘡ができやすくなります。

介護者の方は大変だと思いますが、おむつが濡れたらすぐに替えてあげることが重要です。臀部が乾燥した状態を保つことが、褥瘡予防につながります。

また、おむつを使用しているときは、撥水性のあるクリーム(ワセリンなど)を塗り、仙骨や座骨に排泄物が直接皮膚に触れないようにするとよいでしょう。

体を洗うときはゴシゴシこすらず、よく石けんを泡立ててやさしく丁寧に洗い、十分に流しましょう(画像4)。

仙骨部の褥瘡

4 予防用の「絆創膏(ドレッシング)」を使う

褥瘡予防のためには、褥瘡予防用の特別な絆創膏(ドレッシング)を好発部位に貼っておくことも有効です。

このドレッシングは薄く多層構造で、表面がすべりやすいように工夫されています。褥瘡の原因には、圧力だけでなくずれ(摩擦)も関係していますが、これを貼っておくと患者さんの体がずれたとき、ドレッシング自体がよれるので体にはずれ力が伝わりません。力がかかったときにそれを逃したり、分散させたりする効果があります。

ただ、何日も貼ったままにすると皮膚の観察ができないので、ときどき皮膚の状態を観察するようにしてください。

褥瘡ができてしまったときも、赤くなっている程度であれば、これを貼っておくと改善できます。注意事項としては、ドレッシングは体圧分散の寝具と一緒に使って初めて効果を発揮します。

5 「背抜き」をする

「背抜き」は褥瘡を予防するための介護テクニックの1つで、介護用ベッドを背上げ(または背下げ)したあと、患者さんの体をマットレスからいったん離す介助法です。患者さんの皮膚がよれた状態が持続することを防止します。

背上げの場合、まず患者さんの脚を上げて膝を立てます(ベッドに脚上げの機能がなければ、枕を膝裏に当てる)。脚のほうから上げると、背上げをしたときに体がズレません。

背上げをしたら、患者さんの体を少し前に倒し、パジャマにできた背中のシワやシーツのシワを伸ばします。お尻や踵も、いったんマットレスから浮かせて、シワを伸ばしましょう。最後に崩れた姿勢をまっすぐ整えます。

また、介護用品の「ポジショニンググローブ」は、褥瘡予防に役立つグッズです。腕にはめて患者さんの体の下に差し込むだけで、体にかかる圧力や摩擦を除くことができますし、体位交換時にも体を持ち上げる必要がなく、介助者の手袋と前腕を滑らせるだけで、体位交換がスムーズにできて便利です。ポジショニンググローブは、大きめのビニール袋で代用することも可能です(画像5)。

ポジショニンググローブ

6 「仙骨座り」を直す

いすや車いすに座るときの姿勢も大切です。体を動かせる人は座っているとき、モゾモゾしたり座り直したりして、仙骨にかかる力を自然に軽減しています。ところが「仙骨座り」といって、お尻が前に滑り、骨盤が大きく後傾していると(椅子からずり落ちそうな座り方)、褥瘡ができるリスクが高くなります。患者さんが仙骨座りをしていたら、骨盤が立つよう姿勢を直してあげましょう。いすや車いすは、足底が床や車いすのフットレストにきちんと着くものを選ぶと、お尻が前に移動するのを防ぐことができます。

もし褥瘡ができてしまったら、どのようにアケをすればいいのでしょうか。

褥瘡ができてしまったら、担当医や訪問看護師に相談しましょう。

傷のケアは感染予防のために洗浄することが大切です。ケアの方法のほか、寝具や食事、医療用のドレッシングなどの在宅で使用できる医療用品についても、訪問看護師が適切な方法を指導してくれるはずです。担当医が褥瘡に詳しいようであれば、看護師、介護者も交えて今後の対処法を検討していくといいと思います。

最近は、褥瘡を診察する皮膚科や形成外科の訪問医師も増えてきているので、そうした医師に担当医から連絡をとってもらうのもよいでしょう。

これまでのお話のほかに、在宅療養をするがん患者さんにとって、大切なことはありますか。

がん患者さんの在宅での療養の状態は様々ですが、終末期を在宅で過ごされている方のご家族は、担当医から余命について聞くことがあると思います。「あと1週間ぐらい」という時期になったら、今後の治療法について話し合いをされるとよいでしょう。

看取りが近くなると体位交換をするだけで痛みを伴うことがありますから、褥瘡の治療よりも、患者さんが楽になる治療を優先させたほうがよいと思います。きちんと治療方針を、「褥瘡を治す時期」から「痛みを緩和し、安楽な状態を維持する時期」へ切り替えることが必要になると思います。

がん患者さんに褥瘡ができてしまったとき、浅い創傷であれば、食事と丁寧な治療で改善できます。

もし褥瘡が治ると患者さんは、「私の体はまだ大丈夫、まだ頑張れる」と希望を持つことができます。「治癒する」ことは「生きている証」ともいえます。在宅療養にかかわる人たち全員が、こうした「治る喜び」を共有していくことが大切ではないかと考えます。

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