医師と患者のコミュニケーション
もっと上手にスムーズに!

監修とアドバイス:吉田和彦さん 東京慈恵会医科大学付属青戸病院副院長
箕輪良行さん 聖マリアンナ医科大学救急医学教室教授救命救急センター長
村上博史さん 総合西荻中央病院外科医長
山口育子さん NPO法人「ささえあい医療人権センターCOML」事務局長
田中伸子さん 乳がん体験者の会「虹の会」事務局
取材・文:池内加寿子
発行:2004年12月
更新:2019年7月

  

患者さん側から
「顔も見てくれない」「聞きたくても聞けない」「もっと説明して」

イラスト

患者さんや家族にとって、医師とのコミュニケーションがうまくとれるかどうかは、治療法の選択や決定のときにはもちろん、治療後の精神状態やQOLにまでかかわる大きな問題です。

ある経営コンサルタント会社が実施したアンケート調査によると、通院先を変えた一般の患者さん742人の半数以上が「医師とコミュニケーションがとれないこと」を理由に挙げています。その中身は、(1)「診療時間が短く、ゆっくり会話ができない」(2)「対等な立場で話ができる雰囲気がない」(3)「話し声が筒抜けで落ち着いて話せない」(4)「何を質問してよいかわからない」など。一般の患者さんにも医師とのコミュニケーションギャップを感じている人が少なくないことがわかります。

では、がん体験者の場合は、どのような場面で医師とのコミュニケーションがとれないと感じているのでしょうか。編集部にも患者さんからよくお便りをいただきますが、患者会にも同様の声が寄せられることが多いそうです。

1991年に発足した乳がん体験者の会「虹の会」事務局の田中伸子さんは、次のように語ります。

「診療時間が短いこともあるのでしょうが、医師がカルテやパソコンの画面から顔を上げず、患者の顔も見ずに話をするので、医師に聞きたくても聞けない、取りつく島がない、という訴えは非常に多いですね」

似たような悩みとして、「医師がそっけない」「フランクに話せる雰囲気がない」「緊張して質問できない」「医師が冷ややかなので、その場で固まってしまい、何も聞かずに帰って来た」などの声が複数の患者さんから聞かれました。

短時間に多くの患者さんに対応しようとする医師の見えないバリアの前でたたずみ、言いたいことを引っ込めてしまう患者さんは意外と多いようです。診療時間に関連して、「医師が砂時計を机に置いて残りの砂を見ながら話すので、落ち着かない」という声もありました。限られた時間を均一に配分するための医師の工夫なのでしょうが、患者側は「えーっ、そこまでするの?」と思うものです。

「“医師から納得のいく説明をしてもらえない”という声もよく聞かれます。術後の血液検査やCTなどの結果を聞きに行くと、“大丈夫”の一言で細かい説明がないから、何が大丈夫なのかよくわからない。わかりやすい説明をしてもらえれば、安心感が得られ、ドクターといい関係が保てるのに……と感じている患者さんも少なくありません」(田中さん)

また「QOLについての質問をしても、“そんなこと、どうってことないでしょう”と冷ややかな顔をされた。書類と同じように処理されている、と会計を待つ時間に何度も涙をこぼした」という患者さんもいます。「患者はがんのこと、再発の心配などで頭がいっぱいで、主治医の存在、その一言が非常に重いのに、医師はそれほど患者のことを考えてくれていない、患者の心情を理解してくれていないのでは?」という声は複数の患者さんから聞かれました。

患者にとって医師は1人または少数でも、医師には多くの患者さんがいるという現実、医療を受ける側と提供する側の立場の違いもコミュニケーションギャップにつながっているようです。

患者さん側から
「医師の言葉に傷ついた。医療側の配慮に欠ける言葉や姿勢も要因」

写真

がんを体験すると、人の言葉に敏感になり、とくに主治医の言葉は重く受けとめがちです。医師の何げない一言に傷ついたという例は枚挙にいとまがありません。乳がんや子宮がんで「命とおっぱい(子宮)、どっちが大事?」「もう子供がいるから、子宮なんていらないでしょう」と言われて傷ついたというのはよく聞く話です。

「術後1、2年は、どこかが痛いと、再発では?と心配になります。術後の外来でここが痛い、あそこが痛いと訴えていましたが、またか、という顔で“中年女性はよくそういう反応をするね、更年期じゃないの?”と面倒くさそうな対応をされて……。いやな思いをしたくないので、それ以来、聞かれたことしか答えないようになりました」と、A子さんはあきらめの表情。

肺がんの夫の今後の見通しを聞こうとしたB子さんは、治療チームの若い医師に「人間はいずれみんな死ぬんですから」と言われて、いやな気持ちになったそうです。その医師は人間一般の話でかわしたつもりだったのでしょうが、「再発とはいえ治療を始めたばかりなので、この先のプロセスをお聞きしたかっただけ。たとえ最後はダメでも、少しでも長く生きてほしい、元気な時間をいっしょに大切に過ごしたい、と思っている本人や家族を絶望的な気分にさせることに気づいてほしいですね」

乳がんの手術後にひどく落ち込んだC子さんは、主治医に話すと「精神科を紹介しましょうか」と言われて、「この先生とは話ができないな」と感じたそうです。

スキルス胃がんで、1年以内に再発すると言われたD子さんはうつ状態に陥り、夫とともにある大学病院の精神科を受診したところ、「女医さんのタマゴたちが待ち構えていて、グルリと取り囲まれてびっくり。微妙な問題を話せる場ではない、コミュニケーション以前の問題だ、と夫ともども憤慨して帰ってきた」と言います。

夫を胃がんで亡くされた田上美恵子さんは、「ご主人が病状を楽観視しすぎているから、余命は3カ月と話した」というがん専門病院の医師について、「痛みもコントロールできないその時点で、余命宣告し、死までの時間をカウントダウンさせることがよいとは思えない」と疑問を呈しておられますが、共感の声が次々と寄せられています。

患者の心情への配慮に欠ける医療側の言葉や姿勢も「医師とのコミュニケーションがとりにくい」と感じさせる要因であるようです。

医師の側から
「医師と患者の文化圏の違いを知り、お互いに歩み寄ることが大切です」

写真:箕輪良行さん
箕輪良行さん

コミュニケーションがうまくいかない原因は、それらの医師個人の人格やキャラクターの問題だけでなく、もっと大きな背景がありそうな気がします。そこで、その原因、背景について、医師と患者さんとのコミュニケーションに心をくだいているドクターの方々に伺ってみました。

医学教育、医師のコミュニケーションスキル向上に関わる聖マリアンナ医科大学救命救急学教授の箕輪良行さんは、 「患者さんのお話から、QOLを高めたい、心情を理解してほしい、という患者さんの思いと、生命を救うことを最優先し、問題を論理的・合理的に解決しようとする医療の文化にズレがあることを感じます。医師と患者の会話は価値観や文化が違う“異文化コミュニケーション”のようなもの、と考えてみるとわかりやすいのではないでしょうか。医師も患者さんの心情を理解し、患者さんにも医師の現実を理解していただき、お互いに折り合いをつけながら歩み寄っていくことが大切だと思います」と提案します。

「医療の文化の背景には、医学教育の問題があります。従来の世代の医師は、手術や検査、薬の処方などの医学を勉強することが一人前の医師として大事であるという教育を受けてきたため、患者さんの感情、心情を取り扱うことは自分の仕事ではない、と考えていたんです。感情を扱うのは精神科だけ。そのような意識で患者さんと接しているので、患者さんの心情を理解しない、そっけない、との印象を与えるのでしょう」(箕輪さん)

落ち込んでいる患者さんに「精神科を紹介しましょう」と言った医師も、「心の問題は自分の仕事ではない」という発想だったのかもしれません。

「最近でこそ、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)の分野が確立されてきましたが、以前は、精神科ですら難しい心の病気のみが研究され、普通の人ががんという病いを抱えたときにどうつらいのか、どんな心理状態になるのかを考える専門医やリエゾン科もきわめて少数だったのです」

箕輪さんは「医師のパターナリズム(家父長主義)」も、コミュニケーションを妨げる要因、と指摘します。

「医師は幼いころからエリートとして育ち、一定の社会的な権威があるために、“私に任せておきなさい”的なパターナリズムを発揮しがちです。特に60代以上の世代ではそれが強烈ですね。患者さんの意志を尊重するより、全権を任され、命を預けてもらえることをゴールとして、使命感をもってベストを尽くす。そのような医師を患者が拒否するわけがない、という善意の押しつけがあったのです」

それで患者が幸せなのか、と問われることはなく、日本の社会もそれを了解していた、と箕輪さん。

「今50代の団塊の世代あたりから、社会の変革とともに医師の考え方も変わりつつあります。90年代、特に後半以降は急速に、医学部教育にベッドサイドの臨床教育やコミュニケーションスキルが取り入れられ始め、現在では約80大学のうちの60から70大学で患者さんとの実際の応対などを学んでいます。今後10年ほどで、それらの能力をもつ医師が全国30万人弱の医師の3分の1から半数近くを占めて力を発揮するようになり、患者さんとのコミュニケーションもよくなるはずです」 将来は、明るい希望の光が見えそうです。

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