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大阪大学病院補完医療外来が進める食品、鍼灸等の臨床試験結果
免疫がカギを握る補完代替医療、何がよいか

監修:伊藤壽記 大阪大学大学院医学系研究科生体機能補完医学講座教授
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2010年9月
更新:2019年7月

  
伊藤壽記さん
大阪大学大学院医学系研究科
生体機能補完医学講座教授の
伊藤壽記さん

エビデンス(科学的根拠)が乏しいとされてきた補完代替医療にも、最近は少しずつだが臨床試験が行われだしている。
その道を切り拓こうとしている大阪大学病院を例に、補完代替医療の偽らざる現在の姿を見てみよう。

大学病院内に補完医療外来

手術や放射線などの現代医療を補ったり、取って代わったりする医療のことを補完代替医療という。機能性食品(健康食品)やアロマテラピー、鍼灸、漢方治療など、いわゆる民間療法といわれるもので、これまでともするとまがいもの扱いされがちであったが、最近新しい医療として注目を集めている。

この補完代替医療をすでにれっきとした医療として採り入れている大学病院が3つある。大阪大学、金沢大学、徳島大学だ。

なかでも大阪大学病院は、1869年に開設され、病床数1076床、研修医を含む医師数794人、1日当たりの患者数2400人を超える、日本有数の大学病院である。医療で特筆すべきは臓器移植の分野で、いわゆる臓器移植法実施後、国内初の脳死心臓移植や心肺同時移植を手掛けるなど、極めて高度で先進的な病院として知られている。

そんな大学病院の中に、2005年、補完医療外来が開設された。開設の中心となったのは外科領域の消化器外科(旧第1外科)の責任者であった伊藤壽記さんだ。伊藤さんは外来開設の理由についてこう言う。

「私の専門は膵臓外科です。とくに膵臓移植に力を入れていて、1型糖尿病患者に対する膵臓移植数は20例で、日本で1番多いです。1型糖尿病というのは、若年で発症し膵臓内の膵島が自己免疫で機能しなくなってインスリンがつくられなくなった難病です。通常、インスリン注射で対処しますが、それで血糖のコントロールが極めて困難な場合、移植が考えられます。糖尿病による腎臓の合併症が進むと、多くの場合、膵臓と腎臓を一緒に移植しなければならない。もちろん、移植により生活の質ははるかに良くなるが、神経障害などはすぐには改善しない。しかし、今の医学ではこれ以上のことはできません。
確かに移植を行えば完全社会復帰ができますが、問題もあります。免疫抑制剤を服用しなければならず、感染症もかかりやすくなります。移植膵も長期的には慢性の拒絶反応で徐々に機能が失われていくなど問題もあります。
膵がんも、手術をしてもすぐ再発してしまう。最近は有効な抗がん剤も出てきているが、それでもまだがんの中の難病中の難病です。だとすれば、何か、他に活路を見出すことのできるものはないかと考えるのは当然でしょう。もっと患者の生活の質を上げる手立てはないかと。こうして見出したのが補完代替医療です」

“ゆとりの医療”に驚く

写真:補完代替医療の視察に訪れた米国NIHでホワイト博士(右端)と話し合う伊藤さん(左端)
補完代替医療の視察に訪れた米国NIHでホワイト博士(右端)と話し合う伊藤さん(左端)

補完代替医療に出合った伊藤さんは、まずはこの世界の現況を把握しようと海外へ視察に出かけた。米国ヒューストンにあるMDアンダーソンがんセンター、ニューヨークにあるメモリアル・スローンケタリング、ワシントンにあるNIH(国立衛生研究所)の国立補完代替医療センター(NCCAM)などで、そこから多くのことを学んだという。とくに国立補完代替医療センターの規模は巨大で、2005年の予算は年1億2110万ドル、日本円で約100億円以上が投じられており、そのほとんどが、ヒトを対象とした臨床研究だった。なぜ、このような高額の研究費を投じているかは、こうした医療が将来の医療費削減につながるのではないかと考えられるからだそうだ。

「MDアンダーソンでも、通常の検査や治療の後に、鍼やヨガ、アロマテラピーなどの補完医療を患者さんが選択できる立派な施設が隣接しており、そこへがんサバイバーたちがボランティアで参加し患者さんの手助けをしていました。
がんサバイバーは不安を抱えている患者さんの聴き役にもなり、それが心のケアにつながっていたりしています。
このように、補完医療は単に通常医療を補完するだけではなく、通常医療とうまく組み合わせることによって身体的な症状も精神的な症状も一緒に治療していく、全人的な医療へと発展しており、これは統合医療と呼ばれています。米国にはすでにこのような統合医療医もいて、医療の質ばかりか、“ゆとりの医療”が行われていることに私は驚きました」

[補完代替医療の種類と分類(米国NCCAMによる)]

分類と名称 内容
独自の理論体系を持つ医療 ホメオパシー医療、自然療法医学、中国伝統医学、
アーユルヴェーダなど
心身医療 瞑想、祈り、心理・精神療法、芸術療法、音楽療法、
ダンス療法、バイオフィードバックなど
生物学的療法 ハーブ、食品、ビタミン、ミネラル、生理活性分子など
手技療法と心身技法 整体、カイロプラクティック、オステオパシー、リフレクソロジー、
マッサージ、ロルフィング、アレクサンダーテクニック、
フェルデンクライスなど
エネルギー療法 気功、レイキ、セラピューティック・タッチ、電磁療法など
(『がんの補完代替医療ガイドブック第2版』より)

免疫学を軸に、臨床試験

補完代替医療の世界の現状を知りそれに確信を深めた伊藤さんは、新しい医療と研究に、これまで自分たちが力を注いできた移植と腫瘍という2つの医療を生かそうと考えた。

「移植と腫瘍を結び付けるものは免疫学です。移植は免疫を抑えることによって成り立つ医療なのに対して、腫瘍は免疫を上げてやることによって効果を引き出す医療と、手法は逆ですが、どちらも免疫がカギを握っています。そこで、この免疫学を軸に、さまざまな補完医療に関する臨床試験を行い、1つひとつエビデンス(科学的根拠)を築き上げていこう。そしてその結果を臨床の現場に還元することにより、患者さんのQOL(生活の質)の向上を目指していこうと考えたのです」

具体的な補完医療としては、機能性食品をはじめ、鍼灸、アロマテラピー、心理療法、運動などを取り上げ、その対象疾患は、生活習慣病(がん、糖尿病、肥満、高脂血症、高血圧)をはじめ、炎症性腸疾患、アレルギー、感染症など、多岐にわたっている。

「とくに“食と健康”という観点から、食品には栄養素以外にも、新しい働きがあることが見直され、機能性食品への関心度が高まっていたことから、有用な機能性食品の探索に力を入れました。たとえば腸管免疫の破たんが原因ではないかといわれる炎症性腸疾患に対して、免疫系を回復させる食品には何があるか。腸内細菌との関係をよくする乳酸菌などのプロバイオティクスやプレバイオティクス、またその2つを含めたシンバイオティクスなどを調べています。また、昔からキノコの機能性に期待がかけられ、一部には薬になったものもありますが、その中から1番エビデンスがあり、安全性も高いAHCCという健康食品を選び、調べています」

[日本で利用されている補完代替医療の種類と割合]

健康食品・サプリメント
(漢方、ビタミンを含む)
96.2% キノコ類  
アガリクス 60.6%
AHCC 7.4%
レイシ 6.3%
メシマコブ 4.4%
プロポリス 28.8%
漢方薬 7.1%
キトサン 7.1%
サメ軟骨 6.7%
ウコン 5.9%
ビタミン 4.8%
クロレラ 3.7%
気功 3.8%  
3.7%  
3.6%  
『がんの補完代替医療ガイドブック第2版』より(複数回答可)

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