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ハリでしびれや痛みが軽減する!?
ハリ治療で乗り切る! 抗がん剤による末梢神経障害

監修:福田文彦 大阪大学大学院生体機能補完医学講座特任研究員
明治国際医療大学鍼灸学部准教授
取材:増山育子
発行:2009年8月
更新:2013年4月

  
福田文彦さん
大阪大学大学院
生体機能補完医学講座
特任研究員の
福田文彦さん

抗がん剤の副作用として起こる手足のしびれや痛みといった末梢神経障害。
生活が不自由になるばかりか、抗がん剤の減量や投薬の中止といった事態にもなりかねない。
今、この末梢神経障害にハリ治療が効くというエビデンス(科学的根拠)が出始めているという――。

伝統的な治療法・鍼灸の特徴

ハリや灸は昔からある身近な補完代替医療の1つ。

人間の体表面にはツボ(専門的には経穴)という、病気の際に反応を示す点が361カ所あり、この点に細い金属のハリを接触・刺入させ、さらに低周波の電気を流して微小な機械刺激を加える。これがハリ治療であり、日本でも広く行われている。一方、ヨモギから生成される艾を燃やして直接または間接的にツボに温熱刺激を加えるのが灸治療である。

大阪大学大学院医学系研究科生体機能補完医学講座特任研究員の福田文彦さんは「西洋医学ではがんを小さくするといった、直接的な治療ですが、鍼灸治療はその人がもつ自然治癒力を活性化させる治療方法です」と説明する。

したがって、がんを小さくするなどの器質的な問題に対してよりも、本来の機能がうまく働かない状態(機能的な問題)を改善させることで効果を発揮するのが鍼灸治療の特徴である。

また、鍼灸治療では薬物を使わないためほとんど副作用がないという利点もある。化学療法との併用や鎮痛のためにモルヒネと同時使用することも比較的容易である。「初めて鍼灸治療を受ける方では治療部位に違和感や倦怠感が残る場合もありますが、一過性であり、慣れた患者さんでは、その感覚が心地よいとの声もあります。また、病気を進行させることはないので安心して治療を受けられます。ただ効果は、自然治癒力を利用するのでそのときの体調に影響されたり、個人差も大きいので効くという証拠を示すのが難しいのです」と福田さんは指摘する。

[鍼灸治療とは]
図:鍼灸治療とは

世界的関心が高い鍼灸治療

実は鍼灸治療への関心は世界的に高い。がん治療の分野では有名な医学雑誌「ランセット」に内関というツボへのハリ通電が化学療法の悪心・嘔吐に有効との論文が掲載された(1987年)のをはじめ、いくつかの論文が発表されている。

統合腫瘍学会(略してSIO)のがん患者に対する補完代替医療のガイドライン(治療指針)では、「がんの痛み」「放射線治療に伴う口内乾燥症」「抗がん剤や手術の麻酔による悪心や嘔吐」に対する鍼灸治療が勧められている。

ただ、福田さんは「SIOのガイドラインは日本緩和医療学会が出している『がん補完代替医療ガイドライン』の推奨度と比べて高く評価されすぎているような印象です」と指摘する。日本緩和医療学会のガイドラインではこれらの項目を「勧めるだけの根拠が明確でない」としており、両者には推奨グレードに差がある。その理由を福田さんは「日本のガイドラインは、たとえば痛みなら鎮痛剤と比べてどうかといった観点で評価するため、臨床試験や論文の形で報告が少ない鍼灸治療は、推奨度が低く抑えられているのでは」と考えている。

患者さんのニーズや満足度が高く、現場で効果が実感されていても有効性が証明されにくいためガイドラインに載りにくいというわけだ。

「がん治療のどの時点で鍼灸の効果が期待できるかというと、まず、エビデンスがあるものとしては抗がん剤による吐き気の抑制、そのほかでは痛みや疲労感・倦怠感などの軽減などがあげられます。私たちは、がん治療に対する補完医療の視点にたってこの領域でのあらたなエビデンスを作るため、がん化学療法による末梢神経障害に対する鍼灸治療の安全性と効果を検討する臨床試験を行っています」

[統合腫瘍学会の補完代替医療ガイドライン]

推奨度 内容
1A がんの痛みに対する鍼灸治療
1B 不安、情緒的な動揺、慢性の痛みなどに対する心理療法
放射線治療に伴う口内乾燥症に対する鍼灸治療
抗がん剤や手術の麻酔による悪心や嘔吐に対する鍼灸治療
抗がん剤投与当日の悪心や嘔吐に対する電気刺激リストバンド
健康を維持・増進するために日常の食事に関する栄養士などからの栄養指導
1C 不安や痛みに対するマッサージ療法
2C 禁煙を助けるための鍼灸治療
呼吸困難、疲労感、抗がん剤による神経障害に対する鍼灸治療
手術(開胸術)後の患者さんの痛みに対する鍼灸治療

糖尿病のしびれと類似?

末梢神経障害は白金製剤やタキサン系製剤、ビンアルカロイド系製剤などの抗がん剤で起こりやすい副作用で、手足の指先のしびれや痛み、触感・冷温感の消失、力が入らなくなるなどの症状が起こる。

これらの薬剤は最近多用されてきており、末梢神経症状を訴える患者さんも増えてきているが、ガパペン(一般名ガバペンチン)という抗けいれん剤やビタミンB6やB12、漢方薬(牛車腎気丸など)の処方といった対症療法しかないのが現状である。末梢神経障害が生じると、患者さんの生活が不自由になるばかりか、抗がん剤の減量や投薬の中止になりかねず、化学療法の厄介な副作用として認識されている。

もう少し詳しくみると、同じ抗がん剤でもタキサン系製剤と白金製剤とではしびれの起こるメカニズムが違う。

タキサン系製剤は微小管阻害剤と呼ばれるタイプの抗がん剤で、細胞の骨格を形成する微小管という部分の合成をじゃますることでがん細胞の増殖を防ぐ。微小管は末梢神経の細胞に多く含まれるため末梢神経がダメージを受ける。

一方、白金製剤は白金(プラチナ)がたまることで神経細胞の軸索という神経の信号を伝達する部分が障害される。最近では神経を養っている血管内皮が傷み、神経への栄養が遮断されることもわかってきた。

このように神経自身が栄養をとれなくなって起こるしびれは糖尿病のしびれとよく似ているという。糖尿病の末梢神経障害には対しては、鍼灸治療が症状を軽減させるとの報告もある。

「たとえばヘルニアのしびれは末梢神経そのものが圧迫されることで起こるのですが、糖尿病のしびれは、末梢神経に栄養を送っている血流が障害されて起こるという説が有力です。抗がん剤によるしびれが糖尿病のそれに近い病態であるならば、鍼灸治療の効果が期待できると考えられます」と福田さんは末梢神経障害を臨床試験のターゲットにした理由を話す。

[末梢神経障害を起こしやすい抗がん剤(一般名)]

植物アルカロイド パクリタキセル、ビンクリスチン、ドセタキセル、ビンデシン、
ビノレルビン、ビンブラスチン、イリノテカン、エトポシド
アルキル化剤 プロカルバジン
白金製剤 シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン
代謝拮抗剤 メトトレキサート、シタラビン、フルオロウラシル、ネララビン
分子標的治療薬 トラスツズマブ、リツキシマブ、イマチニブ、ボルテゾミブ
抗がん性抗生物質 塩酸ドキソルビシン
その他 サリドマイド

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