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「元気な体で延命」を目指す癌研有明病院・漢方サポート外来
漢方薬を使うと、がん治療で弱った患者が、元気になる

監修:星野惠津夫 癌研有明病院消化器内科部長
取材・文:林義人
(2009年8月)

  
星野惠津夫さん
癌研有明病院
消化器内科部長の
星野惠津夫さん

がんの治療において漢方が実力を発揮する場面はあるのだろうか。癌研有明病院で「漢方サポート外来」を担当する消化器内科部長の星野惠津夫さんは、長年それを検討してきたが、漢方にはがん患者さんの「元気」を回復したり、症状を和らげたり、西洋医学による治療の副作用を減らす効果が期待できることが、次第に明らかになってきた。

リンパ節、肺転移の患者が元気に

がんの専門病院である癌研有明病院に「漢方サポート外来」が設けられたのは、開院後1年目の2006年春である。

2007年6月、3年前の食道がんの術後に、リンパ節や肺への転移が起き、手術や化学療法を繰り返し、余命3カ月と告知された49歳の男性が、癌研有明病院漢方サポート外来の星野医師のもとを訪れた。

男性は、咳や痰が多く、呼吸困難のため安眠できないと訴えた。

診察した星野さんは補剤の人参養栄湯に加え、牛車腎気丸、桂枝茯苓丸を併用して治療した。

すると1カ月後には呼吸困難と咳がなくなり、食欲も回復した。妻と2人の子供と共に、ハワイに1週間の旅行に出かけた。さらに帰国して1カ月後、今度は両親を伴って、中東のドバイに旅行した。その3カ月後に亡くなったが、漢方薬により「価値ある延命」が可能になった。

星野さんは研修医時代から漢方と栄養療法とを組み合わせた診療を始め、「がん患者さんを元気にする」を目標にしてきた。

「私のところに紹介されるがん患者さんの多くは、元気がありません。西洋医学ではこうした患者さんに対して、ステロイドの投与や、点滴や胃管による強制栄養を行いますが、それでは患者は元気になりません。ところが、漢方的診断に基づく適切な漢方薬を飲んでいただくとほとんどの人が元気になるのです。これは大変な驚きであり、うれしいことでした。必ずしも初回から患者さんにぴったり合った漢方薬が決まるとは限りませんが、何回か漢方薬を替えていくうちに体に合った薬が見つかります。すると、食欲が出てきて、だるさや手足の冷えがなくなり、便通が良くなります。私はこれを『自律神経の機能回復』と呼んでいます」

星野さんは、がん患者は「癌証」という特殊な病的状態になっているととらえる。「癌証」とは、形のない生命エネルギーである「気」や形のある生命エネルギーである「血」が不足した元気のない状態であり、それらを補うパワーを持った「補剤」という一群の漢方薬のいずれかに反応して元気になる状態だ。

[「漢方サポート外来」の診療内容]

[患者数]毎月約200名の患者を診療。うち初診患者は約20名。現在までの診療患者総数は800余名
[紹介元]消化器外科、内科からの紹介が多く、ついで乳腺科、婦人科、頭頸科、泌尿器科、化学療法科、歯科等。他院からの紹介患者も増加
[愁訴]
全身状態:全身倦怠、食欲不振、吐き気、下痢・便秘、腹痛、冷え、夜間頻尿、不眠・不安など
個別状態:術後消化管通過障害、創部痛、味覚異常、放射線治療後口腔乾燥、抗がん剤による手足のしびれや関節痛、消化器がん手術後の下痢や体重減少など
[治療薬]補中益気湯や十全大補湯などの漢方補剤が基本。ほぼ全例に、駆オ血剤や補腎剤を併用

補剤は、患者の状態に応じて段階的に使い分ける

[漢方補剤の役割]
図:漢方補剤の役割

補剤には、人参、黄耆、当帰、甘草という4つの生薬(漢方薬の成分となる薬草)が基本として配合されている。この4つがすべて入った漢方薬は10種類くらいあるが、そのうち、がん患者にしばしば用いられるのは、補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯の3大補剤と呼ばれる漢方薬であり、これらを患者に応じて使い分ける。

人参養栄湯が合うのは、少し動いても息切れし、咳や痰などの呼吸器症状がある患者である。

「がんを告知された人の精神的落ち込みに対しては、補中益気湯が有用です。がんを告知された患者さんは、奈落の底に突き落とされたような気持ちになりますが、それは“気”が損なわれた“気虚”と呼ばれる状態です。

補中益気湯には、気虚に役立つ“気剤”といわれる生薬が多く配合されています。不眠、不安、いらいらなどが目立ちますが、体力はさほど落ちておらず、皮膚に潤いがあります。

がんがだんだん進行してきて、気力に加えて体力も失われてきたら十全大補湯に変更します。全身倦怠感が強くなり、皮膚に潤いがなくカサカサしています。

さらにがんが進行し、体力が低下し、歩いても息が切れるという状態になると人参養栄湯を用います。

そして、1日のほとんどを臥床して過ごすような状態となったら茯苓四逆湯に変更します」

しかし、がん患者は、なかなか補剤だけでは元気にならない。

生まれたときに持っていた生命エネルギーである“先天の気”の枯渇が著しいため、補剤に加えて“腎”というシステムの機能を補う“補腎剤”と呼ばれる漢方を用いる。

補腎剤の代表は八味地黄丸や牛車腎気丸という漢方薬であり、主に下腹部から足までの下半身を元気にする。

さらにもう1つ、がん患者には血のめぐりの悪い“血”という病態を呈しやすく、これを治す「駆オ血剤」という漢方薬を用いる。

駆オ血剤の代表は、桂枝茯苓丸、桃核蒸気湯、当帰芍薬散である。

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補剤、補腎剤、駆オ血剤の組み合わせが基本

[漢方の証を決定する要素]
図:漢方の証を決定する要素

このように、漢方のがん治療では補剤に加え、補腎剤、駆オ血剤の中から適切な漢方薬を選択して併用する。これらの選択は、漢方独得の“望”“聞”“問”“切”という4つの診断法によって、漢方医学的状態(“証”)を把握して、用いる薬を決定する。

“望”は「視覚による診断(視診)」で、顔色、舌、唇、姿勢、動作などの観察に基づく診断法。“聞”は「聴覚や嗅覚による診断(聴嗅診)」で、患者の発する様々な音や匂いに基づく診断法。“問”は質問による診断で、症状の特徴など通常の問診に加え、漢方独特の食欲、睡眠、便通、夜間頻尿、冷え、発汗傾向、月経の状態などに基づく診断法。“切”は触診で、直接患者の身体に触れて得る情報に基づく、とくに腹壁のパターン(腹候)や手首の脈の状態(脈候)に基づく診断法。星野さんはこうした“証”の診断は、漢方の専門医に委ねるべきだと言う。

「がんの患者さんは1つの漢方薬だけで元気にすることは難しく、何種類かの薬を併用しなければならないのが普通です。自分で薬局や通販で購入した漢方を使って治療できるかというと、素人には無理でしょう。また“証”は固定したものではなく、時間経過により刻々変わるものであり、その時々に応じた治療が必要です。それに薬局で買える市販の漢方薬は、有効成分が病院処方薬の4割程度に抑えられている上、費用も高額です。漢方薬にも副作用がありますし、新薬との相互作用に注意する必要もあります。さらに医師が処方する漢方薬は健康保険も使えますので、漢方専門医に治療してもらうことをお勧めします」

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