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緩和ケアにおける漢方 抗がん薬治療の副作用対策としての漢方
半夏瀉心湯で 乳がん治療薬による下痢が軽減
抗がん薬治療の副作用対策に漢方の活用が拡大しつつある。すでに多くの施設の実地診療において漢方治療が広く行われているが、同時に、新たなエビデンス(科学的根拠)を求めた多数の基礎的検討、臨床試験も実施されている。効果の作用メカニズムの解明と、臨床的指標に対する効果の客観的な評価が重要なポイントとされているが、これらの点でエビデンスが得られれば、漢方の存在意義はさらに高まるものとみられる。婦人科がん、乳がんに対する抗がん薬治療での副作用対策や緩和ケアなど対する漢方の改善効果を取り上げた。
ひどい下痢のために治療を諦める人も
*ラパチニブはHER2陽性乳がんの治療に使用される内服薬である。*トラスツズマブという薬を使っていた患者さんで、それが効かなくなった場合に使われることが多い。*カペシタビンという薬と併用されるのが一般的だ。
ラパチニブとカペシタビンの併用療法を始めると、ラパチニブの副作用で60~70%の患者さんに下痢が起こる。それもかなりひどいことが多い。副作用の程度は、グレード1~4の4段階で示されるが、日常生活に支障をきたすレベルであるグレード3以上になる人が、全体の10%以上を占めている。
聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科医局長の志茂 新さんは、その副作用について次のように語っている。
「ラパチニブが効いていても、副作用の下痢がひどいために、服用を中止せざるを得ない患者さんもいるほどです。*ロペラミドという下痢止め薬がありますが、それを1時間おきに使っても、効果がないことがあります。そうなると、もう打つ手がなかったのです。一方、*イリノテカンという抗がん薬による下痢には、
こうして得られたのが、次に示すデータである。
*ラパチニブ=商品名タイケルブ *トラスツズマブ=商品名ハーセプチン *カペシタビン=商品名ゼローダ *ロペラミド=商品名ロペミン *イリノテカン=商品名カンプト、トポテシン
半夏瀉心湯により 全例で下痢が改善
ラパチニブを服用するようになって下痢が現れた5人の患者さんを対象に、半夏瀉心湯を服用することで下痢がどのように変化するかを検討した。半夏瀉心湯は、エキス顆粒剤を1回2・5g、1日3回服用した。その結果、すべての患者さんで下痢が改善し、グレードが軽減した(図1)。
「半夏瀉心湯を服用する前は、全員がグレード2以上だったのですが、半夏瀉心湯服用後にはグレード2以上はいなくなり、下痢がなくなるか、あっても軽い下痢だけでした。症例数は少ないのですが、これは効くかもしれないという感触が得られました」
そこで、次のステップとして、半夏瀉心湯の予防投与を行ってみた。そのときに現れる下痢を、半夏瀉心湯の予防投与をしなかった患者さんたちと比べてみた。
半夏瀉心湯は、ラパチニブの服用が始まる直前に飲み始めてもらった。その結果、下痢がかなり防げることがわかってきた(図2)。
「予防投与していない群では6割ほどに下痢が見られ、そのうちの半分をグレード2以上が占めています。ところが、半夏瀉心湯を予防投与すると、グレード2以上はなくなり、グレード1も4割ほどでした。症状の軽減に加え、下痢を起こさない患者さんを増やすことにつながったのです」と志茂さんは述べる。
ラパチニブの投与期間を5カ月も延長
ラパチニブの治療を受けている患者さんの中には、副作用の下痢がひどいために、効果が認められているにも関わらず、使い続けられないことがある。副作用が患者さんのQOL(生活の質)を低下させるだけでなく、乳がんの治療成績にも影響を及ぼしている可能性があるのだ。
そこで、半夏瀉心湯を予防投与した群としなかった群で、ラパチニブによる治療を続けることのできた期間にどのような違いが現れるかを検討した(図3)。
「半夏瀉心湯を使わなかった群の平均投与期間が5・39カ月、半夏瀉心湯を使った群は10・54カ月でした。半夏瀉心湯を使うか使わないかで大きな差が出ていたのです。1つの薬を使用できる期間が5カ月も延びるということは、半夏瀉心湯を使うことで、生存期間が延長できる可能性もあります。それに関しては、今後さらに臨床研究が行われる必要があるでしょう」
志茂さんは「半夏瀉心湯は下痢が現れてから飲んでも効果はあるが、できれば予防投与するのが望ましい。ラパチニブの副作用による下痢は、最初の2~3カ月がひどく、その時期を乗り切ると、下痢に苦しむ人も減ってくる。その2~3カ月を乗り切るための手段として、聖マリアンナ医科大学病院では、半夏瀉心湯が欠かせない薬になっている」という。