漢方外来 合併症の緩和と治療後の体調管理を図る
手術や抗がん薬投与前からの漢方薬服用も有効
林 明宗さん
がんに対する漢方薬による治療というと抵抗感がある人もいるかもしれないが、抗がん薬治療や放射線治療の合併症の緩和には有効なことが多く、保険適用で受診できる。がん領域における漢方医療で先駆的な取り組みを続ける神奈川県立がんセンターの現況を聞いた。
県立がんセンターに「漢方サポートセンター」開設
がんにおける漢方治療というと、保険がきかずに高額な費用がかかる上、治るエビデンス(科学的根拠)は確立されていないという不確定要素の強いものと受け取る人々が多い。しかし、使い方によっては保険適用ともなるし、症状改善の実績もデータ化されていることをご存じだろうか。
神奈川県立がんセンターには「漢方サポートセンター」が設置されている。昨年(2014)年4月に開設された。がん治療の副作用や痛みなどを軽減することが目的で、漢方薬を使った治療を通常のがん治療と並行して行うことで、手術や抗がん薬治療、放射線治療で不調を来たしたときの回復や事前の予防に努めている。
「がんによる体調不良を治すのが一番の目的です。サポートには2つあって、治療による合併症の緩和と治療が終わった方の体調を整えることです。自覚がなくても、診察を受けてみて不調に気づく方もいます。一番は体調管理。西洋医学では手の回らない領域でがん治療を支えています。一方で、『漢方でがんを治して欲しい』という方には『無理です』と申し上げています」
漢方サポートセンター長の林明宗さんは、その役割を話した。2004年に神奈川県立がんセンターに赴任した林さんは脳外科の医師だ。しかし、漢方サポートセンター長になったのは偶然ではない。
「脳外科には他の科に行って異常はないとされた患者さんも多く来るのです。しかし、患者さんは不調を訴えている。何かしてあげなければと漢方を取り入れてきました。いろいろな症例を診てきました。頭痛にもアトピーにも対応しましたし、病名がつけられない症状も治してきました」
鍼治療も行った。2007年には「漢方外来」という専門外来を立ち上げた。診療する場所は脳外科だが、来院する人々にとって、敷居を低く感じてもらうことが目的だった。その取り組みが神奈川県の
黒岩祐治知事の目にとまり、漢方でのサポートをより広く行うように「センター」に格上げされた。
毎月200人以上に保険適用内で漢方薬を処方
患者さんは、多くの場合、院内の他科から紹介されて来る。その数は毎月新たに20人ほど。再来を含めた月の診療者数は200人を超えるという。
「初めから漢方を勧めることはしません。でも、みなさんは、それなりの治療を受けた後に調子が悪くなってから来るので、ご自身から漢方に前向きな姿勢を見せることがほとんどです」
現在は木曜を除く週4日の受付けが原則で、急ぎの場合は随時受け入れる態勢をとる。
漢方というと、保険の効かない自費治療というイメージが強いが、その点については次のように説明した。
「施設にもよるでしょうが、自費治療の場合は、『がんを治す』として、保険適用外の薬を使ったり、保険適用の薬であっても保険で認められる以上の量を投与したりしています。医師と患者さんの信念でやることなので、保険では賄えないということです」
「ダンボールを履いた感覚」が治った乳がん患者さん
実際に同センターを訪れる患者さんは、どのような症状に悩んでいるのだろうか。「ほとんどが、乳がん、大腸がんでの抗がん薬治療の合併症ですね。中でも末梢神経障害が多い。*タキソール、*エルプラットで強く出ます」
あるとき50歳代の女性がやってきた。乳がんで抗がん薬治療を受けたところ、足にしびれが出たという。
「しびれというのは実は曖昧で、症状の程度を表現しづらいのです。その方は『ダンボールを足に履いているようだ』と表現しました。靴下を履いているようだと言った方はいましたが、本人にしてみれば段ボールだったのでしょう」
林さんは、「神経が感じているということは、治る可能性あるということですよ」と言って、半年から1年をめどに治療する方針を示した。
「この患者さんのようなわかりやすい表現は、治療においてとても参考になります。苦痛を測るスコア様式はいろいろありますが、数値化するのはとくに高齢の方には難しい。せいぜい2~3割良くなった、半分良くなった、7~8割、そして完全によくなった、の4区分くらいが限度でしょう」
同センターでまとめたところ、「7~8割治った」と「半分は良くなった」を合わせると50%ほど、「2~3割良くなった」を加えると、60%以上の患者さんが改善を実感しているという。
*タキソール=一般名パクリタキセル *エルプラット=一般名オキサリプラチン
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