副作用対策としての漢方薬 抗がん薬のつらい副作用は我慢しない
医師や認定薬剤師に相談して、正しい漢方薬の使い方を
漢方薬に抵抗感を持つ医療関係者や患者さんは多い。しかし、医師や薬剤師による適切な薬剤の選択があれば、抗がん薬治療などによる副作用を大きく減らすことができる。治療と副作用ケアは表裏一体だ。漢方薬の正しい使い方について専門家に聞いた。
治療を効果的に、長く続けるために
「抗がん薬や分子標的薬などの相次ぐ発売により、がん治療は日々進歩しています。患者さんにはそのベネフィット(便益)を十分に享受していただきたいのですが、それを削ぐ大きな要因になっているのが副作用です。日本では、患者さんが『がん治療=我慢』というイメージを持っていることが多いのですが、それは間違いで、つらい症状(図1)は医師や薬剤師に話していただいて、軽くする方策を探そうという考え方が大切です」
東京女子医科大学東医療センター薬剤部の薬剤副師長で、がん薬物療法認定薬剤師の伊東俊雅さんは、副作用対策が患者さんとの協働であることを強調した。
「一番大事なのは『今、つらいよ』と言ってくれることです」
患者さんからの声が届きにくい理由に、支持療法の発展により外来での化学療法が盛んになったことも大きいという。通院と通院の間隔が空き、どうしても我慢してしまいがちの方も中にはいる。
「熱が出たら、水が飲めなくなったら、痛くなったら……どこに連絡するのかをいつも意識していただきたいと思います。我々はこれを〝Oncology Emergency〟(がん救急)と呼びますが、患者さんご自身でも常に意識して対応をし、病院に行くのか、薬局に行くのか、いろいろな方法があります」
保険収載の漢方薬は115種類 医師や薬剤師が的確に選択
副作用対策における漢方薬の有効性については様々な報告がなされている。保険収載されているのは115種類に上るが、よく使われるのは数種類だ(図2)。
「漢方薬は吐き気、食欲不振、不眠、しびれなど、多種多様の症状に応じて用途はたくさんあるので、症状に合わせて変えることはいくらでもできます。しかし、熟知している医療者が少ないという課題もあります。
緩和ケアとがん治療は表裏一体。また漢方だけでなく、最も重要なのはモルヒネなどのオピオイド鎮痛薬を十分に使うことも緩和ケアにつながります。それらを含めた考え方が包括的がん医療です」
本邦における全国調査では、口腔粘膜障害(口内炎)、下痢に
「病名と症例で処方することも多く見受けられます。現在日本で使っている漢方薬は和漢薬といって、江戸時代に日本人に合わせて作られたものです。それが現在の処方につながっている。使わない手はありません。治療が楽になることが多くなります」
六君子湯を例にとる。食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいなどの症状が対象となる。構成生薬の
70歳代のステージⅢbの胃がん女性患者さんは胃切除手術を受けたが、心窩部痛、背部痛を訴え、モルヒネで痛みは取れたものの、胸のつかえで食欲不振と吐き気が継続していた。六君子湯を服用したところ、1週間で食欲が回復し、吐き気もなくなった。
伊東さんは、「患者さんの症状をよく伺って、医師と相談しなければなりませんが、胸がつかえ食欲が進まない人が劇的に改善することが多い」と説明した。
「ナイーブな方で、通常用いられる制吐薬に抵抗がある患者さんもいます。漢方のエキスをお茶代わりに飲んでみると吐き気が止まることが多くあります」
また、
「組成が3種類のみで、ほかの生薬より少ないのが特徴です。お腹で発酵してガスが出て、腸管を刺激して便が出てきやすくなります。血流増加作用と消化管の亢進作用があります」
*パクリタキセル=商品名タキソール
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