緩和ケアにおける漢方 抗がん薬治療の副作用対策としての漢方
婦人科がん化学療法における食欲不振に 六君子湯が効果発揮
と話す齋藤 滋さん
抗がん薬治療の副作用対策に漢方の活用が拡大しつつある。すでに多くの施設の実地診療において漢方治療が広く行われているが、同時に、新たなエビデンス(科学的根拠)を求めた多数の基礎的検討、臨床試験も実施されている。効果の作用メカニズムの解明と、臨床的指標に対する効果の客観的な評価が重要なポイントとされているが、これらの点でエビデンスが得られれば、漢方の存在意義はさらに高まるものとみられる。婦人科がん、乳がんに対する抗がん薬治療での副作用対策や緩和ケアなど対する漢方の改善効果を取り上げた。
治療に伴うQOL低下は漢方薬で改善できる
がんの化学療法では、患者さんにとってつらい様々な副作用が現れてくる。悪心・嘔吐が生じて食欲が低下する、下痢が続く、口内炎ができて痛む、手足がしびれて感覚が鈍くなる、筋肉痛が起こる、体力が低下してだるい、元気が出ない……など。白血球減少や脱毛も見られるが、患者さん自身が身体的につらいと感じるのは、ここに挙げたような副作用である。
これらの副作用について、富山大学大学院医学薬学研究部産科婦人科学教授の齋藤滋さんは、次のように語っている。
「化学療法で発現する副作用は、患者さんのQOL(生活の質)を低下させるだけでなく、がんの治療にも影響を及ぼしてしまうことがあります。化学療法は1回だけでなく、数コース繰り返されるのが普通ですが、つらい副作用が現れていると、次のコースに臨もうという意欲が失われがちだからです。そのために十分な化学療法が行えず、治療結果に影響してしまうことも考えられます」
がん治療における副作用対策は、患者さんをつらい症状から救うだけでなく、がん治療にも好影響を及ぼす可能性があるということだ。
「副作用対策として注目され始めているのが漢方薬です。漢方薬というと、効果を疑問視する人もいますが、最近は臨床におけるエビデンス(科学的根拠)も出てきていますし、基礎的な研究も進み、薬理作用も明らかにされてきました」
がん治療の副作用対策として役立つ漢方薬について、齋藤さんに症例をもとに紹介してもらった。
六君子湯で悪心・嘔吐が抑えられ 食欲が増加
婦人科のがん(卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がんなど)で化学療法を受けている患者さんを対象に、副作用として現れる食欲不振に対して、
化学療法の1コース目には、通常の制吐薬を使用する。それでも副作用が強く、悪心・嘔吐があった患者さん18人を対象者とした。この患者さんたちに、2コース目には、通常の制吐薬に加え六君子湯を併用してもらった。抗がん薬を点滴する当日から六君子湯を飲み始め、1週間続けて服用する。用量と用法はエキス顆粒剤を1回2・5g、1日3回服用した。
そして、1コース目の後と、2コース目の後で、症状にどのような違いが現れているかを調べた。
悪心・嘔吐があった日数は、1コース目は平均3・9日だったが、2コース目は2・3日に減少していた。4日ほどムカムカしていたのが、2日くらいに減ったことになる。
嘔吐の回数も減っており、1コース目はグレード0~3(中央値1) の人がいたが、2コース目ではグレード0~2(中央値0)になり、多くがグレード0だった。ムカムカすることはあっても、吐かない人が多かったことを意味する(図1)。
食事摂取量を増加させる
齋藤さんらは食事摂取量についても調べた。*アプレピタントという強力な制吐薬は、吐き気がとくに強いケースに用いられる。これを用いた3例は、六君子湯を加えても食事摂取量が改善する傾向は見られなかった。
しかし、アプレピタントを使用しなかった中等度の患者さん15例では、六君子湯で食欲が改善していた。1コース目は食事の34%しか食べられなかったが、2コース目には55%に増えていた。アプレピタント使用の3例を含めた全症例でも、食事摂取量は、40%から55%に増加していた(図2)。
体重は、化学療法開始前、1コース目終了後、2コース目終了後に計測した。その結果、1コース目の後には平均して1・5㎏体重が減っていたが、2コース目の後には体重が1・2㎏増えていた。六君子湯の服用により食欲が増し、実際に体重が回復していることが考えられた。
*アプレピタント=商品名イメンド
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