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チーム医療で推進する副作用対策 オリジナル「患者手帳」と「冊子」の活用でQOLの底上げを

監修●相羽惠介 東京慈恵会医科大学内科学講座 腫瘍・血液内科教授
取材・文●長瀬裕明
発行:2013年12月
更新:2019年9月

  

「患者さんにとって本当に役立つチーム医療を目指したい」と語る相羽惠介さん

“チーム医療”が脚光を浴びる昨今、本当に患者さんの役に立つチーム医療を目指し、化学療法の副作用対策を進めている東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科。そこでの現状と、副作用ケアに欠かせない制吐薬の進化について、専門家に聞いた。

チーム医療で幅広い診療対象に対応

東京慈恵会医科大学の腫瘍・血液内科は、血液内科と腫瘍内科の2つの機能を併せ持つという、全国でも非常にまれな取り組みを行っている。現在多く見られる、臓器ごとのがん診療体制をとっておらず、診療対象は白血病、悪性リンパ腫、乳がん、消化器がん、その他と非常に幅広いのが特徴だ。

同大の内科学講座腫瘍・血液内科授の相羽惠介さんは、「最近のがんの内科的治療は、外来通院が中心になっています。だからこそ、患者さんのニーズに応えるためには、間口を広げる必要があります。

一方、入院患者さんの治療に関しては、外科との連携も少なくありません。その場合、私たちが外科の病棟へ出向き、外科医と一緒に患者さん1人ひとりの治療に当たることになります。

また、終末期の患者さんの緩和医療から最期の看取りも担当するなど、間口の広さだけではなく、奥行きの深さも併せ持つ治療が目標です」と語る。

このように「腫瘍・血液内科」としての機能をフルに活かすため、血液内科医、腫瘍内科医、緩和医療医に加え、看護師、薬剤師、栄養士、ソーシャルワーカーが一丸となった、高いレベルのチーム医療を目指し、日々邁進している。

試行錯誤の上完成の患者手帳をフル活用

外来化学療法では、相羽さんの発案で約10年前からオリジナル「患者手帳」を使用、使い勝手の向上を図るため、毎年改訂を重ねてきた。この手帳をベースにすることで、患者さんの治療効果の確認や、副作用の早期発見に役立てている。

相羽さんは、そのきっかけを次のように話す。

「外来での化学療法が増加した結果、患者さんの次回来院までには短くても1週間、長い場合には3週間もの間が空きます。すると、来院時の問診では、PSをはじめとする身体状態から、数ある副作用のうちのどの副作用を経験されたかを聞き取るわけですが、正確にその詳細を聞き取ることは非常に難しくなってしまいます。

そこで、当科独自の患者手帳を作成し、外来患者さんの身体の状態から副作用の有無、種類・グレードまで、素早く把握できるようにしたのです」

実際に「患者手帳」を手に取ると、ハンドバッグに入るコンパクトなバインダー形式の手帳(図1)の中に、「患者手帳」をつける意義や副作用の種類とその対応方法、患者さんのアンケート調査を元にした「食欲不振時にも食べやすい料理」などが、簡潔にまとめられている。

また、毎日のPSや副作用のグレードを記入する欄も用意されているが、中でも秀逸なのが相羽さん考案の「しおり」(図1)。

わざわざバインダーを開閉することなく、付け外し可能な特別仕様のこの「しおり」には、PSのスコアや副作用のグレードが記載され、しおりを当該日にはさんでおけば、ページを繰ることなく記入できるようになっている。試行錯誤の上、患者さんの便宜を図って、このような設計に至ったという。

さらに、強い副作用の発現時などには、まず電話で病院に問い合わせることになるが、そのような際の問い合わせの方法についても、必ず伝えるべき項目を、順を追って紹介するなど完成度の高いものになっている。

図1 相羽先生力作の〝しおり〟&オリジナルの患者手帳

その日の体調を副作用グレードで書き込める(右)ページのどこにでも差し込めて便利(上)

PS=パフォーマンスステータス(元気度のスコア)

患者さんが自宅で経験する副作用を確実に把握

外来では、「患者さんが来院すると、まず看護師が『患者手帳』に基づいて患者さんと面談します。これを当科では『予診』と呼んでいますが、その際、看護師は、患者手帳の内容や患者さんのお話を、当科で作成した『チャート』1枚にまとめます。

主治医は診察時に、改めて問診を行いますが、その『チャート』を見ることで、患者さんの在宅時の状態や、どのような副作用を経験されたかを一目で知ることができます。これにより、診療の確実性と効率性が大きく向上し、ひいては患者さんのよりよいケアにつながっていきます」と相羽さんは語る。

「さらに、カルテへの記入漏れを防ぎ、治療効果や副作用についての質の高い情報が得られるので、患者さんの同意が得られれば研究データとしても活用でき、将来のがん治療の進歩にも貢献できるのです」と続けた。

このように、「患者手帳を中心として患者さん、主治医、看護師の三角形の情報網が作られることで、副作用の早期発見が可能になり、患者さんのQOL(生活の質)を損なわない治療が目指せるようになってきていると思います」と、相羽さんはオリジナル「患者手帳」を用いた比較的シンプルなチーム医療システムによって、質の高い医療が提供できる可能性を語った。

また、プラス・アルファの効果として、

❶医療スタッフの経験の差による診療の質も、手帳によって全身のサーベイが可能になったことで、ある程度平準化できるようになった❷患者さんも自分の治療を病院任せにしないで、自分でがんと向き合おうとする意識が出てきた❸診察時間を約1/2まで短縮できた❹データが常に開示されていることは患者さんの安心につながる

などがみられたという。

とくに患者さんの意識の変化について、相羽さんは「私は化学療法薬の取り違えによる医療ミスの最後の砦は患者さんであると思っています。つまり、患者さんご自身が今、どのような化学療法薬を投与されているかを把握し、投与時に『私のお薬は○○です』と点滴に当たる看護師に言えるようになって欲しいのです」と語った。

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