IT機器を使った副作用サポートシステム
乳がん患者さんが自宅で入力 医療者は病院でチェック
乳がんの薬物療法は、薬剤の進歩により外来治療にシフトしている。通院で治療を受けながら生活できるというメリットは大きいが、一方で副作用への対応が課題だ。昭和大学病院ブレストセンターでは携帯端末を使って乳がん患者さんが自宅で副作用の状態を入力し、そのデータを病院にいる医療者と共有できるというシステム開発に取り組んでいる。
これまでにない、患者さんとの情報共有ツール
「患者さんが主体的に副作用を管理し、より良い状態で治療を続けていただくためのシステムです」
昭和大学病院乳腺外科・ブレストセンター薬剤師の奥山裕美さんは、これまでにない情報共有ツールの開発目的を話した。
乳がん手術後は、補助療法として点滴や経口の抗がん薬による治療を受ける。抗がん薬の点滴による治療の場合、通院は3週間に1度が標準だ。患者さんの負担は入院よりも少ないが、副作用の大半を自宅で経験することになり、不安にもつながっている。
医療機関ではパンフレットを用いるなどして、薬剤の説明、薬の服用管理、副作用などを説明しているが、とくに副作用についての管理や対応は、患者さんの考え方も様々で、医療機関とのよりスムーズな意思疎通が課題となっている。
スマホのアプリで副作用を管理
抗がん薬は、がん細胞だけでなく増殖が活発な正常細胞にもダメージを与えてしまう。これが副作用につながる。奥山さんらは、精密機器メーカーと共同でこの課題にチャレンジしている。スマートフォン(スマホ)やタブレットを使って、患者さんの副作用をマネジメントできないかと考えたのだ。
「外来時の丁寧な説明と相談への対応はもちろん大切ですが、自宅で経験する副作用を軽減するさらに効果的な方法があるはずと思いました。3週間に1回通院してくる患者さんは、自宅で副作用を経験しても、病院に来たときには元気になっているので、『大丈夫です』と答えられます。また、自宅での副作用発現時の対処方法が、不適切な方もいらっしゃいます。医療者側は患者さんが、家でどのように副作用を経験しているのかを直接確認することはできませんが、家での過ごし方をサポートすることで、副作用の対処方法を、患者さん自身がマネジメントできるのではと考えたのです」
奥山さんらがたどり着いたのは、1日1回、患者さんにスマホやタブレットから簡単な操作で入力してもらい、それを病院と共有するソフトウエアだった。
「これまでも日記形式の服薬・副作用チェックはありました。患者さんはとても真面目に記入され、通院のときに持参されます。しかし、副作用で困り、生活に支障が出たのかが、外来時には分かりにくいこともあります。患者さんの言葉を拾い上げ、適切にサポートしたくとも、患者さん自身も整理がつかなくなっているケースも見られます。そこで、質問項目を絞って、クリックするだけで患者さんの悩みを可視化することに取り組みました」
アプリ開発の前にアンケート調査(ブレストセンター外来通院患者120人)を実施したところ、医療情報の入手先は医療従事者が最も多かったが、インターネットもかなり利用されていることが分かった。
「インターネットに慣れている方々が多く、若い層にも年配の層にもこのようなソフトのニーズはあると思いました」
同病院では2013年からモニターを募り、ブレストセンター内で実施し始めた。
患者入力は3ステップ 医師側にはグラフで表示
実際の画面を見てみよう。病院からインターネットのアクセス先を知らされた患者さんは、初回のみIDとパスワードを入力し、その後は1日1回、入力画面に入る。
入力するのは、「服用の有無」「症状の選択」「体調メモ」の3つ。まずは、「薬を飲んだか」を朝昼晩などのボタンから入力する(図1)。
次が症状の入力。これがメインとなる。その日に副作用がなければ「特になし」を選択。あった場合の症状は12項目に絞った。「食欲不振」「手足のしびれ」「頭痛」「皮膚の変化」などだ(図2)。
そして、症状を選択すると、CTCAE(有害事象共通用語基準)に沿った症状の程度を入力する画面に行くのだが、グレード1、2、3は患者さんにわかるような表現に簡易化してある(図3)。副作用の内容と状態に応じて、「処方された薬の服用を開始してください」「ブレストセンターに連絡してください」というメッセージが出る。
ここまではすべて選択方式。文字にするには表現に迷うことでも、選択肢を提示されれば自分の症状を判断するきっかけにもなる。そして、ボタンを押すだけでは表現しきれなかったことがあれば、次の「体調メモ」のところに自由に記載できる。
入力が行われると、右側のカレンダーに印が付き、「副作用があった日」が一目で分かるようになっている。
「患者さんが自分の副作用状況の経時的な変化を確認できること、副作用の状況に応じメッセージが出るため、重要度が理解できることの意味は大きいと思います。自分の体は自分で管理するという主体的な気持ちに繋がると思います」