がんのチーム医療・施設訪問7 桜新町アーバンクリニック(東京・世田谷)
より積極的な患者支援を スタッフ一体化で地域医療を支える
各専門職が力を合わせて担っていける地域医療へ
遠矢純一郎さん 桜新町アーバンクリニック院長
当クリニックは設立5年になりますが、ここに来るまでは在宅医療の経験がないスタッフがほとんどです。それは不安材料ではありません。医師も看護師も薬剤師も、それぞれの領域で勉強と実績を積んできた専門性を持っているからです。外科医も内科医もがんを専門としてきた医師もいます。
病院から在宅へというシフトが急速に取られる中、様々な専門性を持つスタッフをそろえることが第一歩と考えます。私は呼吸器専門の医師です。大病院に勤務していたときのあるきっかけで、在宅の分野に進むことを決意しました。
母親の一途な様子が在宅医療に進むきっかけに
40歳で肺がんを患った女性がいました。かなり末期で、酸素吸入が必要な状態です。余命は2週間くらいとみられました。小学生の娘さんがいました。本人は「家に帰りたい」と訴えます。当時は在宅医療の仕組みはありませんでした。家では酸素吸入も点滴もできないのです。しかし、本人の希望がかなり強かったので何とかかなえてあげようと、酸素吸入器などをそろえて、自宅に戻っていただきました。
自宅につくと、女性は娘さんを呼び、台所に連れて行きました。そして、味噌汁の作り方を教え始めたのです。病院での姿からは想像もできないほどいきいきとした様子でした。母としてこういう事をしたかったのだなということがわかりました。この最後のチャンスを奪ってしまうところだったということに気づき、目を覚まされた思いがしました。女性はその2日後に自宅で息を引き取りました。
連携の重要性
本人の希望や病院の収容能力、高齢者の増加と、施設や在宅で診ていこうという流れは避けられません。誰かが頑張ればいいのではなく、連携することが必要です。専門性を持つスタッフが力を合わせて地域医療を担っていけるように進化を続けたいと思います。
新しい取り組みで地域医療に貢献
在宅医療の充実は、国の施策として推進されている。「地域包括ケア」と称され、入院するのではなく自宅で医療を受ける環境作りが目指されているのだ。東京都内世田谷区の住宅地にある「桜新町アーバンクリニック」は設立5年。新しい取り組みで地域医療に貢献してきた。そこにはスタッフの一体化とITを利用した先駆的なシステム作りがあった。
新しいタイプのクリニックを目指して
「Aさんは酸素吸引をしながらポータブルトイレを使えるようになりました。これからリハビリに移ります」
「Bさんは採血検査の結果を見ているので、明日の往診で説明できるように準備してください」
毎週水曜日に開かれる桜新町アーバンクリニックのカンファレンスは、スタッフの声が途切れることがない。在宅医療、在宅看護に飛び回る医師や看護師、薬剤師らが事務所に顔をそろえるのは貴重な機会だ。ざっくばらんな雰囲気の中、お互いの所見を述べ合う。
「在宅医療を支えるのは、一般開業医にはとても大きな負担です。在宅医の7割が医師1人体制、そのうち75%が在宅医療を現状維持もしくは縮小撤退したいという意向である、という調査結果もありました」同クリニック院長の遠矢純一郎さんは危機感を覚え、2009年に〝新しいタイプのクリニック〟を開業した。
「従来のクリニックとは違った工夫や仕組みが必要です。小規模少人数で構成する在宅診療所を目指しました」心疾患から生活習慣病まで様々な症状を扱うが、がん関連が40%を占める(図1、2)