がんのチーム医療・施設訪問8 要町病院/要町ホームケアクリニック(東京都豊島区)
「看取る」本当の意味を追求 医師・看護師らの密な情報交換が命
笑って、食べて、出せて、話せて、よく寝る……そのお手伝いのために
吉澤明孝さん 要町ホームケアクリニック院長
在宅医療の目的は何でしょう。それは、患者さんにもご家族にも楽しく過ごしてもらうことです。病院と家を比べれば、ほとんどの患者さんは家のほうが暮らし心地の良さを感じます。
そして、在宅医療では「看取り」ということを切り離して考えることはできません。看取りとは、ただ亡くなっていくところを見届けることではないのです。死の直前まで患者さんを思いやることです。
家族が看病することの大切さ
ある高齢の女性のケースです。呼吸苦に陥ると意識が遠のくことが多くなりました。我々が身体をマッサージする呼吸補助方法で痰を出しやすくすると、呼吸とともに意識も戻ります。ご家族にやり方を教えると、すぐにできるようになりました。ご家族は一生懸命でした。
ある日、ご家族から電話が来ました。「2週間、教えてもらった処置をしたのですが、母から『もういいよ』って言われて止めました。今、息が止まったみたいです」
ご家族は満足のようでした。自宅で自分たちが手を当てて、お母さんの処置ができたということです。ただ痰をとるというだけでなく、体に触ることがとても大切。それが「手当て」です。
「看取り」に触れるのはタブーではない
在宅医療に、家で最期を迎えるのか、病院で迎えるのか、は関係ないと思います。不安なら入院でも構わないと思います。ご本人とご家族の気持ちが大切です。残された時間を「笑って、食べて、出せて(排便・尿)、話せて、よく眠れる」という状況で過ごしていただくために在宅医療はあると思います。
私は今年〔2015年〕7月に開催される「日本在宅医療学会学術集会」の会長を務めさせていただきます。テーマは「在宅での看取り(看病)・地域連携を利用して」です。
日本ではまだ「看取り」について触れるのはタブーというイメージがありますが、諸外国では家族で食事をしながら「自分が死ぬときにはこうしてくれ」と普通に話しています。在宅医療について医療関係者の理解が深まり、それが患者さんやご家族に伝わるように努力していきたいと思います。
1957年開業の地域に浸透している要町病院
東京の大ターミナル駅・池袋から地下鉄で1駅の駅前、池袋から歩いても20分ほどの幹線道路沿いに建つ真紅の6階建てが要町病院だ。1957年開業の地域に浸透している同院では、1994年から在宅医療も行うようになり、とくにがんの患者さんを多く診療している。医師、看護師らは密な情報交換を通じて、より患者さんや家族の心に沿うことを目指している。
細かな状況報告 臨機応変な指示も
毎週金曜日午前8時30分、要町病院内に併設されている要町ホームケアクリニックでは在宅医療に携わる院内スタッフが集まって、患者さんの情報交換を行う。医師、看護師、薬剤師ら十数人がテーブルを囲む。
「Aさんは間質性肺炎が出ないなど状態はいいのですが、家族によると時々『死んだ母親が見える』『話している相手が変わる』と訴えるそうで、そちらのケアが必要です」
「Bさんは病院で死にたくないと言っています。最期まで家にいたいという希望を尊重して、治療をしない道を選びました」
といった報告や、それらを聞いた院長の吉澤明孝さんから「Cさんはきょうの予定に入っていませんでしたが、回って採血をしてきてください。心配なら入院も考えます」という臨機応変な指示も出される。
吉澤さんは、「在宅医療は患者さんと家族に楽しく過ごしてもらうことが目的です。今日の情報交換を生かして、患者さんが望む生活を実現できるようにお願いします」とカンファレンスを締めた。