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緩和ケアセンターのあり方 それぞれの専門性を活かした医療提供

地域連携も含めた、切れ目のない緩和ケアを目指す

監修●服部政治 がん研有明病院緩和ケアセンター緩和・がん疼痛治療部長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年5月
更新:2019年7月

  

「病院でも自宅でも、がん患者さんとその家族が安心できる体制が必要です」と話す服部政治さん

全国各都道府県のがん診療連携拠点病院に「緩和ケアセンター」を整備することが、2016年3月までという期限付きで厚生労働省から通達された。緩和ケアセンターはがん患者さんをどう支えていくのか、医療者側の専門性はどう生かされるのか。厚労省が出した「新指針」の解説と、緩和ケアセンターのあり方を専門医に伺った。

がん疼痛治療科が独立 特色を打ち出したセンター

がん研有明病院(東京都江東区)では、緩和ケアに関する診療科及び部門が2014年に緩和ケアセンターに統合された。「がん対策推進基本計画」に基づき、厚労省が12年秋にがん診療連携拠点病院に緩和ケアセンターを作るように通達を出したことを受けてのものだ。同院での緩和ケアの取り組みは各科ごとに高い評価を得ていたが、組織を改編することでさらに相乗効果が高まることが期待される。

同センターは緩和治療科、腫瘍精神科、がん相談支援センターなどで構成されており、より緊密な横の連携、情報交換、意見交換を推進しようとしている。その中で特徴的なのが、センター設置とともに麻酔科から独立した「がん疼痛治療科」だ。がん研有明病院緩和ケアセンター緩和・がん疼痛治療部長の服部政治さんは、「私は麻酔科医として緩和ケアチームに参加していましたが、疼痛治療を得意とする当院の特徴をより前面に出していくことになりました」と説明する。

痛みを専門的にとるペインクリニック

服部さんの専門はペインクリニック。がんにまつわる痛みに対して、痛みの経路を遮断する神経ブロック療法や脊髄鎮痛法などで専門的に痛みを軽減する領域だ。

「痛みはある程度は麻薬でコントロールできますが、それでも痛い場合に特殊治療を施して痛みを和らげるのが私たちの仕事です。この分野の技術を伝承する機能を持たせながら科を運営していこうと思っています」

神経ブロックとは、痛みを感じている神経をマヒさせることで過剰な刺激を感じないようにする療法。内臓、肛門部、肋骨部など、痛みの状況に合わせて施術していく。脊髄鎮痛法とは、脊髄の近くにカテーテルを挿入して直接鎮痛薬を投与する方法。内服に必要な量の数10分の1の量で、よりよい鎮痛効果を発揮する。内服や貼付薬、あるいは神経ブロックの適応にならない場合に選択される。

疼痛治療にこだわるには服部さんなりのポリシーがある。

「緩和ケアといっても、実際何をしているのかというと漫然としていてわかりにくい。当院でがんの治療を受けている患者さんには、がんの痛みを取る専門治療で緩和を実施しています。『痛みに対して日本で最新の治療を駆使でき、医師の教育も行っている緩和ケアセンターです』ということを打ち出しています」

病院整備の「新指針」で何が変わるか

図1 新指針により都道府県拠点病院に新設される
緩和ケアセンターの組織構成

緩和ケア普及啓発に関する手引書 NPO法人日本緩和医療学会

緩和ケアについて、厚労省は14年に「がん診療連携拠点病院等の整備に関する指針」、いわゆる「新指針」を出した(図1)。その中の緩和ケアに関する記述を、項目をピックアップした上で服部さんに解説してもらった。

●患者と家族に対する情報提供

初期治療内容だけでなく、長期的視野に立って治療プロセス全体について十分なインフォームドコンセントに努め、必要に応じて看護師などによるカウンセリングを活用する

「これは緩和ケアに限った事ではありません。すべての医師が患者さんに診断結果や病状を説明するのは当たり前です。多くの施設ではすでに行っていることですが、その徹底を促したものです。ただ、将来について聞きたくない患者さんもいるので、個々に注意を払った話し方が求められます」

●苦痛のスクリーニング

身体的・精神心理的・社会的苦痛等のスクリーニングを診断時から外来及び病棟にて行う

「どの病院も悩んでいる問題です。当院の1日の外来患者さんは1,600~1,800人。来院頻度などを考えると、1日300人のスクリーニングが必要です。どのようにスクリーニングするか、誰が入力して管理するかなど態勢作りが大変です。苦痛のスクリーニングにはいろいろな方法がありますが、紙に書くものがほとんどです。私が考えているのは、患者さんにタブレットを渡してタッチするだけですぐにデータ化できるシステムです。他の病院でも構想していますが、コスト面で踏み切れない。日本の緩和ケアを推進する当院でまずは実現させたいと思います」

●院内体制の整備

緩和ケア外来を設けるほか、拠点病院に設けられている相談支援センターやキャンサーボードの活用を図る

「緩和ケア病棟のある病院の多くはすでに外来がありますが、これまで入院患者だけの治療をしていた緩和ケアチームの医師は、外来も担当するようになります。

また相談支援センターについて、新指針では『必ず「がん相談支援センター」との表記を行う』としています。支援センターは、患者サービスや在宅医療との連携で大切なのですが、医療ソーシャルワーカー(MSW)、カウンセラー、ケアマネジャーといった方々の立場が定まっていません。患者さんとの架け橋となる重要な施設なので必ず設置し、機能について周知が図られる必要があります。

キャンサーボード(がん治療を検討する院内会議)については『実施主体を明らかにした上で、月1回以上開催する』としています。緩和ケアチームの医師は兼務が多いので、例えば『外科でやっているからいいのではないか』というのではなく、『緩和ケア』として会議を設けるということです」

●緩和ケアチームの体制整備

緩和ケアに携わる専門的な知識及び技能を有する専従の看護師を1名以上配置する。がん看護専門看護師、緩和ケア認定看護師、がん性疼痛看護認定看護師であること

「看護師がせっかく認定、専門といった資格を取っても、他の看護師と同じ仕事をしていて埋もれていることにメスを入れたものでしょう。資格を持った人のモチベーションを高めるとともにチームとしての信用性を高めることができます。また、院内での緩和ケアチームの活動を拡げるため、緩和ケアチームと各部署の連絡を担当する『リンクナース』の配置も義務付けています」

●地域連携

院内での緩和ケアに関する治療が在宅診療でも継続して実施できる体制を整備する

「病院から在宅ケアへ移行するためには、地域との連携がないとうまくいきません。患者さんをぽつんと放り出すのではなく、すぐに近くの在宅支援診療所が駆け付けられるような仕組みを作ることが求められます。家に帰っても切れ目のないフォローアップをしていくには地域連携は重要です。患者さんが入院しているときから地域の医療機関と連絡を取って準備をしてもらうことも大切です」

●緩和ケア研修

施設に所属する初期臨床研修2年目から同研修終了後3年目までのすべての医師が緩和ケア研修を受ける体制を整備し、研修修了者について、患者とその家族に対してかわりやすく情報提供する

「当院では留学や産休・育休などの事情のある医師を除き、ほとんどが緩和ケア研修を終え、受講率は85%となっています」

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